稲垣・草彅・香取 3人の裏で流れた涙

文●盛田 諒(Ryo Morita)

2017年11月17日 17時00分

 AbemaTVが11月2日から5日までの3日間放送した「稲垣・草彅・香取 3人でインターネットはじめます『72時間ホンネテレビ』」。総視聴数は7400万視聴、歴代最高の『亀田興毅に勝ったら1000万円』1420万視聴を5倍ほど上回った。

 AbemaTVアプリの月間アクティブユーザー数は1000万人程度。7400万人が見ていたわけではないが、日本のインターネット生放送としてかつてない大規模の話題を作ったことは間違いない。番組放送後、新聞は賛否両論入り乱れた「業界関係者」のコメントを報じ、芸能界の戸惑いを伝えた。ファンの間では、ホンネテレビが終わったことを嘆く「ホンネロス」という言葉も生まれた。

 旧事務所を離れた3人がSNSを始め、自分自身の言葉を、自分自身の責任で発信する。それまでの常識を変えたホンネテレビはどう制作されたのか。番組責任者であるAbemaTV 編成制作本部 谷口達彦局長に番組制作の裏側を聞いた。

AbemaTV 編成制作本部 谷口達彦局長


ネットで「ありのままの姿」見せられた

── いまの率直な気持ちを教えてください。

 過去最高の視聴数となり、想像を上回る話題・反響があり、すごくうれしいですね。反響も「感謝」「感動」といったものが多く、ネット発のコンテンツで心に訴えかけられるものを届けられたという手応えがあります。もともと番組情報解禁時から反響はすごかったです。ファンの方々から大量の手紙が会社宛てに届いたり、藤田(サイバーエージェント藤田晋代表)のツイッターに炎上しているんじゃないかと思うくらい感謝のコメントが届いたり。そのうち「藤田のツイッター宛に書き込んだら72時間テレビのDVD化が決まるんじゃないか」というウワサが広まってしまい、常時数千件単位のリツイート・コメントがやまない状態になったこともありました。(笑)

── 稲垣さん・草彅さん・香取さんの3人は。

 公式コメントも出されていますが、「本当にやってよかった」、「楽しかった」、「感謝を伝えたい」というような言葉をいただきました。我々制作スタッフから見ていても、本当に72時間全力疾走だったなという感じです。

── あらためて番組制作の経緯を教えてください。

 退所した後、インターネットへの露出可能性が出てきた中で、藤田が「3人の番組をやりたい」という強い想いを持ち、自ら提案しました。3人が新しい挑戦をしたいということと、AbemaTVがやろうとしている挑戦・思想・世界観に共感して、新しい舞台として選んでくださったのではないかと思っています。我々でなければここまではできないのではないかという気概で勝負をかけて制作にのぞみました。

── 最初から「ホンネ」というテーマは出ていたんでしょうか。

 最初は「インターネットで新しいことに挑戦をする」「72時間(3日間)」というテーマから始まり、その中でSNSを始めるということを考えていたので、3人の「3日間のありのままSNS旅」のような感じになるかな、とかコンセプトを考えていって。その中で「ありのまま」「感謝」「ホンネ」といったキーワードが出てきて、最終的に「72時間ホンネテレビ」に落ち着きました。

── Twitter、Instagram、YouTube、アメーバブログで、3人の写真が見られることが衝撃的でした。3人は自分たちの素顔をネットに出していくことに戸惑いはなかったのでしょうか。

 SNSはもちろん、番組でやったようなロケをすればたくさんの人に目撃され、撮影されることも分かっていました。象徴的な3日間という意味で、これは必然だったと思います。3人については、いま3人がネットに上げている画像を見てもらえると、本当に3人とも、ありのままの表情、前向きな表情をしていらっしゃいますよね。それがすべてを物語っているんじゃないかと感じます。

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ほぼ台本なし もしもの結婚式は……

── 番組がもっとも話題になったのは、1996年に芸能界から引退していた森且行さんと3人が再会した瞬間です。ツイッターでは「森くん」が世界トレンド第1位になりました。

 ゲスト出演者の企画コンセプトとしては、3人にとって「ストーリーがある人」ということを重視していました。「SNSを始めてみたい」とか、「この人に会いに行きたい」とか。ご本人たちとも番組を通してやりたいことを考えていく中で、「会いたい人」として森さんのお名前が挙がり、再会の企画が生まれました。

 ほかのゲストも、たとえば爆笑問題さんは、いつもすごく3人を気にかけてくれていたり、堺正章さんも、節目となる大切な機会に場所を提供されたという意味で深い関係があった。そういう形で自然に名前が挙がってきたんです。

 もちろん誰しもが目撃したいようなインパクトのあるシーンになるということを全く予測せずに作ったと言ったらウソになりますが、決して「バズらせるためには何でも」という発想ではなかったですよ。

 当時、よく社内で言ってたのは「過去ではなく、未来を向いた番組」ということでした。SNSを教えてくれる先生として登場したきゃりーぱみゅぱみゅさんとか、山田孝之さんと共演することになったのも、これからのことを考えてですよね。だから森さんと会うことも、過去を振り返るという発想ではなく、未来に向かうという発想でとらえていました。

── 3人が今までとは異なるやり方でアイドルを続ける未来ですね。

 番組の中で草彅さんが「新しい別の窓」と歌っていましたが、みなさんが過去ではなく未来を向いていらっしゃるんだと思います。3人が、学んだり、戸惑ったり、ときに頼りない場面もあったり……新しい姿、ありのままの姿を見せてくださったんじゃないかなと。

── 森さんとの再会、台本はどれくらい作られていたんでしょう。

 大まかな時間の流れは決めていましたが、細かい台本はありませんでした。「フィールドに降り立ってみたい」「バイクを見てみたい」「設備、宿舎が見てみたい」など、3人がやりたいことをもとに大枠のアウトラインを構成しているだけです。「このタイミングでこの質問をしてください」というような台本は一切作っていません。

── 番組制作側として“ほぼ台本なし”というのは怖くありませんか。

 ドキドキよりもワクワクのほうが大きかったですね。今回の番組は1本のドキュメンタリー番組のようにしたいと話していました。日本中を巻き込んで、新しい挑戦を一緒に作り上げられるドキュメンタリーに。みんなが見守って、ハラハラしたり、安心したり、感動したり、笑ったりするような。3日間の中で企画が変わったこともありました。番組を見て出演を決めてくれたゲストがいたり。時間構成は決まってるのでどうしようというドキドキ感はありましたが、それがむしろすごくネットっぽいというか。ユーザーの反応で細かなやりとりが変わっていったり、走りながらどんどん番組の形が変わっていく面白さがあった。全体的に地上波と比べて進行がユルいという人もいるかもしれないですが、長時間生放送という特性を活かした、予定調和ではない「予定不調和」な要素が大事だと考えていました。

── 稲垣吾郎さんの「もしもの結婚式」では、「花嫁役に選ばれた女性はAbemaTVの社員に似ている。台本に書かれた仕込みではないか」という指摘がありましたが。

 それはありません。嘘は必ずばれるものです。それはインターネットの会社をやっている上で心から理解していることです。当然制作会議では「相手が見つからなかったらどうするんだ」という話は出ましたが、見つからなかったら、その場でスタッフ皆で出演して欲しいと頭を下げればいいだろう、それで事前に用意したらダメだというのがぼくらの考えです。番組によっては事前に仕込みを入れることも悪いとは思いませんが、ホンネテレビではありのままを描きたかった。だから失敗することも含めて全部見せてしまいたかったんです。それがハラハラする要素だったり、面白さになったりするんですよ。

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72曲ライブ 3人の裏で流れた涙

── フィナーレの72曲ライブはファンが選曲に感動していました。メンバーが主演したドラマの主題歌だったり、メンバーが好きな曲だったり。

 あの72曲は、「前を向いて歩く」という番組コンセプトのフィナーレに合致する曲ということでご本人たちが選んだものなんです。「西遊記を歌うんだ」とか「番組冒頭で出てくれた矢沢栄吉さんへのアンサーなんだ」とか、そうやって聴くとたまらないものがありますよね。72時間やってきてクタクタになっている中、最後に3人が選んだ72曲を3人だけで歌いきるという演出を考えました。最後までやりきる姿を見せたいと思って……

── もしかして、泣きましたか。

 いや~……もう、1曲目から泣いてましたよね。単純にもう、感動させられてしまって。この時間が終わってほしくないという思いもあり、駆け抜けきって72時間のフィナーレをしっかり迎えたいという気持ちもあり……複雑な気持ちで現場に立ち会っていたのをおぼえています。ぼくはマネジメント側なので制作を成立させなければいけないという一方、自分もまた目撃者のひとりというところがあったんでしょうね。スタッフもみんな泣いていて、中には号泣している人もいました。

── ライブは最後、番組のテーマソング「72」で終わりました。

 小西康陽さんの作詞・作曲・編曲による曲です。3人の思いや番組コンセプト、感じてもらいたい気持ちなどを伝えて作ってもらいました。

── CDや配信などによる音源化はするんでしょうか。72曲ライブ、または72時間全編をDVD/Blu-rayにすることは。

 正式には何も決まってはいませんが、個人的には、実現したいなと思っています。ホンネロスユーザーのみなさまの期待にこたえたいなという気持ちです。

── 来年も3人の72時間放送は企画していますか。

 これも全く未定です。もちろん個人的には実施したいですが、来年もまた72時間であれ、3人の企画ができるかどうかは、3人の状況や環境に対して我々が受け入れてもらえる「次の形」を提案できるかどうか、ではないかと思っています。やるとしても、今回の焼き増しをする気はないので。新しい、次の72時間の形ができるならぜひ、やらせていただきたいと私自身としては思っています。

── AbemaTVで3人のレギュラー番組や冠番組は検討していますか。

 これについてもやはり未定です。まだホンネテレビが終わって数日ですからね(取材は11月9日)。ただ番組放送後も3人に「SNS勉強会」はやらせていただいています。今後については、追って話していきたいと思います。



■11月19日は7.2時間ホンネテレビ

 AbemaTVでは11月19日(日)午後5時から未公開映像を含んだ7.2時間特番「72時間ホンネテレビ未公開シーン&トレンド入りの瞬間7.2時間で全部みせますSP」を放送。最大のトレンドになったあのシーンもまた見られる。

日時:2017年11月19日(日)午後5時~11月19日(日)24時12分
チャンネル:「AbemaPremierチャンネル」
※放送日にチャンネルオープン
出演:稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾 ほか
URL:https://abema.tv/channels/special-plus-3/slots/Bw8DrwgFF1DXPm




書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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