ソニーは新ワイヤレスヘッドフォンにエンジニアリングの良さを詰め込んでいた

文●四本淑三

2017年09月17日 12時00分

ソニーのヘッドフォンラインナップに、Bluetooth接続でノイズキャンセリングシステム搭載の「1000X」シリーズが登場した。ラインナップは3機種で、オーバーヘッドバンド型の「WH-1000XM2」、ネックストラップ型の「WI-1000X」、そして完全独立型(トゥルーワイヤレス)の「WF-1000X」。いずれも2017年10月7日の発売を予定している。

このシリーズは、昨年秋に発売されたワイヤレス+ノイキャンの人気機種「MDR-1000X」の性能を、ほかのヘッドフォンタイプにも展開しようというものらしい。したがってシリーズの型番は「1000X」で統一され、ソニーのヘッドフォンで一般的な「MDR」に替わって「W」で始まる型番が付く。

右から完全独立型のWF-1000X、ネックストラップ型のWI-1000X、オーバーヘッドバンド型のWH-1000XM2。1000Xシリーズには写真のブラックのほかカラーバリエーションにシャンパンゴールドもある

この1000Xシリーズ3機種のデモ機に、ごく限られた時間だが触れる機会があったので、まず「WH-1000XM2」から見ていこう。このシリーズの端緒となった機種の後継だけあって、シリーズに盛り込まれた機能のすべてが備わっている。

MDR-1000Xの後継機種「WH-1000XM2」。予想実売価格 4万3000円前後

ハードや操作系は先代と変わらず

MDR-1000Xと比べて、ドライバーユニットやノイズキャンセリングシステムなど、ヘッドフォンとしての基本性能に違いはない。完成度の高い機種ゆえ大きくアップデートできる部分も少なかったのだろう。

アルミコートしたLCP振動板を使う40mmHDドライバー、ハイレゾ相当の信号を伝送するBluetoothコーデック「LDAC」対応、CD解像度の音楽をアップコンバートしてハイレゾ化する「DSEE HX」の組み合わせで、ソニーの上位機種らしくハイレゾ再生のポテンシャルを持つ。ベアリングにNFCが使えるのもソニーらしい。

機構設計もMDR-1000Xを踏襲。スイーベル機構を使った折りたたみ機能付き。右ハウジングの平面全体がタッチセンサー。NFCは左ハウジングに

右ハウジングの表面をタッチセンサーとして使う操作系もおもしろい。前後スワイプで選曲、上下で音量、中央のタップで再生/一時停止、同じくロングタップでGoogleアシスタントやSiriの呼び出しができる。さらに右ハウジング全体を手で覆うと、瞬時に再生音が下がり、マイクを通した外の音が聞こえる「クイックアテンションモード」に切り替わる。直感的な操作に対応するよく考えられたインターフェースだ。

ヘッドバンドは薄いヘアライン処理が入った金属プレートで加飾される

10時間伸びた駆動時間

WH-1000X「M2」となって、ハード的にアップデートされた点は2つ。

ひとつはバッテリー持続時間の向上。Bluetooth接続で、ノイズキャンセリングONという条件で、最大30時間の再生ができるようになった。MDR-1000Xは同条件で20時間だったから、10時間も伸びたことになる。フルチャージまでに4時間を要するが、10分の充電で約70分使えるクイック充電にも対応している。

もうひとつは気圧センサーの内蔵。気圧の変化を計測して、その値をノイズキャンセル効果の最適化に使うのだという。飛行機に登場する機会の多いビジネスパーソン向けの機能だが、残念ながらテスト期間中に飛行機に乗る機会はなかった。だから効果の程はわからないが、ここまで徹底してやられると清々しい。

右ハウジング下には充電用のUSB端子、左には有線接続用のステレオミニ端子がある。これでまさかのバッテリー切れにも対応できる。飛行機に乗ることの多いビジネスユーザー向けの商品企画として、搭乗機材がBluetooth使用不可の状況も想定されているはず。セミハードのキャリングケースのほか、航空機用プラグアダプター、有線接続用ケーブル(ステレオミニ)、充電用USBケーブルが付属する

新たにスマホアプリに対応

新登場したスマートフォンアプリ「Headphones Connect」への対応がもっとも大きなアップデートだろう(Android/iOS対応)。1000Xシリーズは3機種ともこのアプリに対応し、それぞれの機種に応じたパラメーター設定ができる。

WH-1000XM2の場合は「パーソナルNCオプティマイザー」がアプリから起動できるようになった。これは先の気圧計の計測値や装着状態の違いをヘッドフォン側が吸収して、ノイズキャンセリング効果を最適化する仕組み。

ユーザーはキャリブレーションのためのテストトーンを聞くことになるが、これが無味乾燥な正弦波やノイズではなく、耳なじみのある楽音でできたキーの異なる和音なのがおもしろかった。聴かされて嫌な感じはしないし、最適化は数秒で完了する。

新登場のスマートフォンアプリ「Headphones Connect」からパーソナルNCオプティマイザーを起動

オプティマイズ完了画面。WH-1000XM2は、この最適化のプロセスに新搭載された気圧センサーの値も使う

動きを検知するアダプティブサウンドコントロール

このアプリによって、スマートフォン側の加速度センサーを使い、ユーザーの動きも検知するようになった。検知するのは、止まっているとき、歩いているとき、走っているとき、乗り物に乗っているときの4パターン。対応してノイズキャンセリング効果や、外音のミックス量、周波数特性を自動で切り替える。それが「アダプティブサウンドコントロール」と呼ばれる新機能だ。

私の行動が検出されつつある様子

再生音に外音をミックスする「アンビエントサウンドモード」はMDR-1000Xにもあった機能だが、このアプリの登場により、外来音のミックスレベルもマニュアルで細かく調整できるようになった。人の声を聞きやすくするよう低域を中心にカットする「ボイスフォーカス」モードも、マニュアルでのON/OFFができる。

実際に椅子から立って歩きはじめると、素早く検知して歩行モードに切り替わり、周囲の騒音レベルが上がってくると乗り物モードに切り替わるのがおもしろい。人が少なく比較的静かな状態の車内では、切り替えに時間がかかることもあり、早く変わってくれないかなと思う場面もあるが、おおむね期待通りに動作してくれる。

アダプティブサウンドコントロールの画面。オフィスなど室内で座っている場合は外音取り込みMAX。空調などの室内騒音をカットしつつ、不意に話しかけられても対応できるようボイスフォーカスONの状態に

歩き始めるとボイスフォーカスはOFFになり、外音の取り込みレベルも下がる

走り始めると自動車の音など周囲の音への注意を促すためか、外音の取り込みレベルはMAXに

電車に乗った状態。外音の取り込み量はゼロになり、ノイズキャンセリングがフルに効く。こうして検知されたユーザーの行動状態や、外音のミックス量やボイスフォーカスのON/OFFは、手動でも調整切り替えができる

iOSの場合は接続するコーデックにACCとSBCが選択可能。MDR-1000Xでは常時ONだったDSEE HXも、アプリからOFFにできるようになった。アプリのオマケとして、サラウンドエフェクトや定位位置の選択、イコライザーといった機能もある

ワイヤレス時代の新しいスタンダード

このカテゴリーの製品では、いまだにBOSEとソニーの2社が他を大きく引き離していて、事実上二択状態になっている。もはやノイズや音質の劣化のような問題はほとんど感じることができず、またワイヤレス接続と有線接続の音質の差も微々たるものでしかない。

行き着くところまで行ったこのカテゴリーで、BOSEの良さはいつもの「あの音」と、誰にでも簡単に使える快適さにある。対するソニーの良さは、エンジニアリング主導でやれることはどんどん詰め込んでくること。なにしろ投入された機能の概略をざっと説明するだけでも、これだけの文字数になってしまうくらいだ。今回はそこでライバルメーカーに対して差がついたように思える。

1000Xシリーズとしても、おそらくはワイヤレス時代の先進的ヘッドフォンを標榜した企画なのだろう。シリーズいずれの機種も、各カテゴリーでトップクラスの性能を持つことに驚かされた。次回はソニー初のトゥルーワイヤレスイヤフォンとして注目を集める、WF-1000Xを見ていきたい。

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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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