セゾン情報小野CTO、クラスメソッド横田氏が語る「バイモーダル」の現実解

文●大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

2017年08月23日 10時30分

7月18日、セゾン情報システムズは、「【AWS×HULFT/DataSpider】企業ITが向かうべき"バイモーダル"への道」と題したセミナーを開催した。「会社から急に「クラウド化」と振られた後に取るべき行動とは? 組織をクラウド化するための実践的方法を考える ~ Practice over Theory ~」と題されたタイトルで行なわれたパネルディスカッションでは、セゾン情報システムズ 常務取締役 CTO 小野和俊氏、クラスメソッド 代表取締役社長 横田 聡氏という2人のパネリストが「バイモーダル論」を軸に、組織をクラウド化する実践論を披露した。(以下、敬称略)

ベンチャーの社長からSIerのCTOになった小野さんとバイモーダル

大谷:みなさまこんにちは。今回モデレーターを務めさせていただく、アスキーの大谷です。

さて、冒頭からみなさんに残念なお知らせなんですが、先ほどパネルの打ち合わせが失敗しました(笑)。小野さん、横田さんと別室でパネルの打ち合わせをやったのですが、2人とも好き勝手に話し始め、パネルの方向性がまったく読めなくなってしまいました。

ということで、一応パネルの議題を作ったのですが、あくまで予想です。「バイモーダルとは?」「IT部門と業務部門の課題」「クラウド時代のシステム構築とIT部門のあり方」などで話を進め、とってつけたかのように「HULFTとDataSpiderの価値」を語っていくことになると思います(笑)。

では、自己紹介ということで、まずはセゾン情報システムズ CTOの小野和俊さんです。小野さんは3月に開催されたJAWS DAYS 2017で「クラウド時代の組織と個人」というテーマで、いっしょにパネルディスカッションをやらせていただきました。

小野:セゾン情報システムズの小野です。私はもともとサン・マイクロシステムズに入社して、シリコンバレーでの開発経験を経て、24歳の時にアプレッソを起業。データ連携ソフトのDataSpiderを手がけてきました。その後、4年前にセゾン情報システムズと資本提携し、アプレッソの代表を務めながら、セゾン情報システムズのCTOも兼務しています。よろしくお願いします。

大谷:自己紹介に引き続いて、今回のパネルのテーマでもある「バイモーダル」について教えてください。

小野:はい。「バイモーダル」はモード1とモード2という2つの様式を表します。コスト削減や効率化を追求する「Systems of Record(SoR)」と、デジタルトランスフォーメーションを前提に新しいビジネスチャンスを生み出す「Systems of Engagement(SoE)」の2つのITの形態が提唱されてきていますが、このうちSoRを手がけるのが安定性重視で、しっかりプロセスを回す「モード1」という組織。そしてSoEを展開するのが、機動性や新規性を重視する「モード2」と呼ばれる組織になります。

僕は長らくモード2のベンチャーの立場にいましたが、4年前からモード1の組織に入りました。現在はその2つの異なる組織を見る立場になり、両者いいところ、悪いところを理解し、両方とも必要と考える結論に至っています。この2つの組織を表現するのに、バイモーダルという用語がしっくりくるので、よく説明で使っています。

持たざるモノがシステムを作れるクラウドに未来が見えた

大谷:もう1人のパネラーはクラウドインテグレーターであるクラスメソッドの横田聡さんです。

横田:クラスメソッドの横田と申します。小野さんとの共通点という点では、僕も大学時代にサン・マイクロシステムズに行こうと思ったけどあきらめた口です。小野さんって77年生まれですか?

小野:76年ですね。

横田:なるほど。あの頃はサンに入るのが夢だったんです。なにしろ初任給が30万円だったし(笑)。でも、僕はもともと企業システムの構築がやりたくて、学生時代から開発をやっていました。SpringやStrutsなどのアプリケーションアーキテクチャをベースにした、企業の製造管理や知財管理などのシステムです。その延長で縁があって26歳の時にクラスメソッドを興して、最初3~4年くらいは企業向けの業務システム開発をやってました。学生時代やっていたのが、五次請け、六次請けであまりにもブラックだったので、会社を興してからは、企業の情シスといっしょにシステム案件を直接やらせていただくようになりました。

大谷:その頃、Adobe Flexのイベントにも登壇してますよね。

横田:その頃、一芸に秀でた方が商売に活きそうだということで、Adobe Flexをやっていました。ただ、業務システム開発はタームが長くて、ビジネスのサイクルとうまく合わなかったので、いろいろ模索していました。こうした中の1つがFacebookアプリです。

大谷:私と横田さんとのつきあいもその頃で、Facebookのアプリ開発の事例を取材させていただきました。

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横田:IT部門の管理下で、外注のエンジニアたちがものづくりして、年単位で保守するみたいなビジネスでした。でも、そこに未来が見えなかったので、さらに模索していたとき、2008年にあったのがAWSでした。実際に触ってこれはすごいなと。

今までわれわれは企業のIT部門が持っていたハードウェアや高額なライセンスの上でシステム開発をしてきたが、持たざるモノたちが自由にアプリケーションを作れるようになるという世界を描くことができたので、そこからはクラウドベースでシステムを作るようになりました。

大谷:そこからは一気にクラウドシフトしたんですね。

横田:ただ、当初はユーザーがIT部門で、一部でしかクラウドを利用できなかったんです。開発やテスト環境はAWSだったけど、本番はオンプレ。いやで、いやで仕方なくて、開発も本番も全部クラウドでやりたいと思っていた。そんな中で、出会ったのがIT部門以外の人たちでした。

大谷:なるほど。そんなときに私が取材したのが、すかいらーくのAWS導入事例。マーケティング担当でAWSの導入を進めていた神谷さんとの出会いですね。

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横田:そうです。神谷さんも手弁当でクーポンアプリのシステムを作っていて、専門家の知見が必要と言うことでわれわれに声をかけていただいたんです。でも、やり始めて1週間後には社長に上伸いただいて、発注書が来て、システムができるまでが1ヶ月。その1ヶ月後にはテレビに出ていて、その1ヶ月後にはコスト削減と施策による売り上げアップの効果が新聞に載ってました。

大谷:そんなスピード感だったんですね。しかも、構築するだけではなく、運営まで手がけているんですよね。

横田:はい。なんだかんだで3~4年経ちますが、今も機能強化を続け、運用させていただいています。

大谷:もう1点、聞きたいのは、情シスともきちんと連携しているんですよね。

横田:仕事始まる前はマーケの神谷さんとやりとりしていて、始まってからはデータ連携のためにIT部門の方とやりとりしました。基幹システムのデータをどのタイミングで、どの粒度で、上げてもらうかなどを密に連携させていただきました。

現場部門は目的が明確で、ITリテラシも低くない

大谷:今となっては現場部門の人たちがシステム作って、情シスがそれをサポートするとか、それほど珍しくないですが、今から3年前にこの話があったのは驚きです。こういう動きって、小野さんも感じたりするんでしょうか。

小野:もともとDataSpider自体、この数年で現場部門での利用が急増しています。3年くらい前から現場部門の人たちがシステムを作るためにDataSpiderを選んでくれるようになった。だから、プロじゃない人が作るシチズンデベロッパーの動きは肌で感じていましたね。内製化とシチズンデベロッパーの流れ自体は5年前くらいから強くなっており、必要なツールを組み合わせて作れるクラウドの台頭で一気に後押しされた印象がありますね。

セゾン情報システムズ 常務取締役 CTO 小野和俊氏

大谷:先ほどクラスメソッドも当初は通常の企業システム構築をやっていたという話でしたが、今はお客様も変わってきたんでしょうか?

横田:今ではクラスメソッドも全案件が事業会社からの直請けです。業種・業界もばらばらですが、特に喜んでいただいているのは、小売りや外食系。ITによる改善がまだまだできる会社ですね。

大谷:そういった現場部門の方たちって、どういった感じで相談してくるんでしょうか? ITに対して知識はないけど、なんらか期待があってといった漠然としたイメージなんでしょうか?

横田:いや、目的がはっきりしていて、手段としてクラウドを選んでいるところの方が多いと思っています。現場部門は日々試行錯誤でデータを分析し、フィードバックを得て、施策を回していく。このタームが1週間です。でも、情シスに依頼すると、要件定義からスタートして1ヶ月後、2ヶ月後に帳票が上がってくるけど、そのスピード感だともはや合わない。だから、直接データを見たい、施策に反映したい、とにかく打席に多く立つためにはクラウドがいいのではないか?ということで、お声がけしてもらうところが多いです。

大谷:なるほど。現場部門だからといってITリテラシが低いわけではなく、目的意識もはっきりしているんですね。

横田:その方がうまくいきます。とりあえずクラウド化になると、手段が目的になって、お客様の方向性もぶれます。モバイルアプリも同じで、こういったコミュニケーションをユーザーとやりたいから、その手段としてモバイルアプリがいいという選択にすべきですよね。

大谷:その話聞いていると、「組織をクラウド対応するため」という今回のパネルのタイトル自体が手段と目的を混同している気がしてきました(笑)。

バイモーダルを構成するモード1、モード2とは?

大谷:続いてテーマはモード1、モード2の話に移るのですが、まだまだピンと来ないので、たとえばどんな人というのを小野さん教えてもらえませんか?

小野:モード1はわかりやすくて、IT業界では大手SIerやIT部門などはモード1の組織であることが多いですね。失敗を許容せず、手堅く守るという点ではサムライの文化と言われることもあります。鎧を着ているから防御は堅いけど、忍者に比べると動きは遅い。失敗したら切腹を求められます。

一方のモード2はとにかくまず動き始めるベンチャー企業。ビジネスモデルの検証を厳密にやるのではなく、とにかく動き始める。水に飛び込む際に入って大丈夫かを調べてはいるのがモード1で、とりあえず飛び込んで体感してしまうのがモード2です。侍のモード1に対して、モード2は身につけているモノも軽く、とにかく敵に飛び込んで活路を見いだす忍者にたとえられます。まあ、たまに塀から落ちちゃうこともあるんですけど(笑)。

大谷:その失敗も含めてよしとされている文化ですね。服装とかどうなんですか?

小野:モード2は服装自由ですが、モード1は夏でもスーツですね。今日はモード1のファッションで来ていますが(笑)。

横田:私はユニクロのシャツに着替えましたので、モード2ですね(笑)。

大谷:クラスメソッドさんは昔から技術に明るくて、Developers.IOのような尖ったブログメディアもやっていますよね。横田さんは自身の組織について、どう分析しています?

横田:情シスの例を話しましょうか。社員が100人になるくらいまでは、いわゆるモード1の情シスが1人だけいました。パソコン増設、メモリの追加、ネットワーク構築、アカウント管理、社員のワークフローとかを担当し、社内の資産やセキュリティを守る人。どちらかというと肉体労働で、御用聞きです。

大谷:そういう情シス、多いと思います。

横田:100人まではそれでよかったんですけど、サービスのラインナップが増え、お客様も増えてきて、毎月の請求書が100~200枚に膨らんでくると、もはや社内の業務が回らなくなってきた。受注すると、会社が止まるからやめようみたいな本末転倒な状態になったんです。

そこで、もともと社内SE出身のメンバーが情シスのリーダーになって、社内情報システムをほぼ1人で作り始めたんです。たとえば、AWSの利用明細レポートをHadoopで集計して、Salesforceに食わせて、契約や顧客管理するようにしました。それをさらにマネーフォワードの法人サービスに食わせて、ボタン1つ押せば請求書が発送されるようになったんです。

大谷:めちゃ、かっこいいんじゃないですか。

横田:3ヶ月くらいで作ったそんなシステムがうちの社内を支えています。今まで営業担当が半月かけて手でチェックしていた作業が一気に自動化されたんです。でも、これはパソコンのキッティングしていた社員にはできないんですよ。2人とも情シスだし、会社の働き方をよくしたいという目的はいっしょ。でも、手段が違うんです。

大谷:なるほど。情シスというと、いかにもモード1で守りっぽいイメージがありますが、今のお話聞いていると、攻めの情シスってありなんだなと思いますね。

小野:横田さんのところの今の情シスって完全にモード2ですけど、モード1の情シスだと、システムリスクとか洗い出しはじめて、いくらかかるのかみたいな稟議でスタンプラリー始めます。で、最終的にはやめようって判断になるんです(笑)。

横田:彼はもともとCISO(最高情報セキュリティ責任者)だったんですよ。モード1でガチガチにやっていた人が、モード2のスイッチが入ってやったのです。同じ人だから速かったですよね。

小野:モード1って、新規のシステムに対して、どうしてもエビデンスを付けたがります。

横田:誰が責任とるんだという話ですね。

小野:そうそう。個人で責任とりたくないから、ガートナーはなんて言ってるんだとか、北米の事例はどうなんだとか、ほかの手段に比べるROIの比較はやったのかという話になる。まずは試してみればいいのに、議論を続けて、エビデンスの資料作りを始めるから、当初の魅力が失われていく。これがモード1のよくないところだと思います。

自然状態でののしり合うモード1とモード2は共存できるのか?

大谷:小野さんのところは、ある意味古くからのシステムインテグレーターでモード1とモード2が混在している環境ですよね。

小野:今の話聞くと、モード1がダメで、モード2がいけてるような感じに見えますが、そんなこと全然ないんです。

たとえば、今日は半日かけてHULFTの説明してきましたが、HULFTがMFT(Managed File Transfer)の分野で世界第2位のシェアなのは、開発体制がモード1だからです。HULFTって信じられないくらいバグが少ない。1万本出荷して、バグに出会う人が10人いるか、いないか。とにかくバグを出さないことに重点を置いているんです。

大谷:なるほど。バグが少なくて、信頼性が高いが故に、グローバルでも高いシェアをとっているわけですね。

小野:2015年のre:InventでHULFTは賞をとったんです。グローバルでまだまだ認知度の低いHULFTがです。AWSは技術的にも速くて、キャッチアップするのが大変ですが、社内のデータ連携みたいな足回りの部分は絶対にこけてほしくない。だから枯れた技術のHULFTが評価されるし、ユーザー側にもクラウドをキャッチアップしたいというモード2的な考えだけでなく、絶対落ちてほしくないというモード1的な心理が働くんですよね。新しいことにチャレンジする人こそ、ここは絶対に押さえておきたい。クラウドの上でHULFTが使われるのは、こういう理由があるんです。

モード1が悪いわけではなく、安心感とか、方針が決まったときの馬力とか、モード1はすごい。日本の高度経済成長期は日本の会社がモード1だから実現できたと思います。あと、モード2でも議論ばかりしても、話が進まないこともあるじゃないですか。

大谷:一日中、ブレストみたいなベンチャーですね。

小野:アプレッソの最初の頃も、すごい人たちが1日中議論していたんです。一見すると、クリエイティブなんですけど、物事が進まないんです。でも、モード1は上の方針が決まったら、上意下達で一気に進みます。こういうところがモード1のすごいところです。

大谷:そんなモード1の人たちと、モード2との相性はどうなんでしょうか?

小野:モード1とモード2って、自然状態だとお互いをののしり合います(笑)。モード1の人たちから見ると、モード2の人はいつも遊んでいるとか、チャラチャラしているとか、仕事なのにTシャツ&短パンだとか、出社時間が自由だとか言い出します。

横田:だいぶ偏見です(笑)。

小野:モード2の人からモード1の人たちを見ると、あいつら自分で物事考えないとか、言われたことしかやらないとか、考え方が保守的だとか、恐竜の化石の中でもとりわけ動きが遅いとか。

大谷:化石はそもそも動かないので、意味がわからないです(笑)。

小野:こうやってののしり合うのですが、お互い長所はあるので、組み合わせるとすごく強い組織ができるというのが、バイモーダルの考え方です。

私がバイモーダルの話をするときによく例に出すのは自転車の前輪と後輪ですね。モード2はベンチャー的な動きなので自転車で言うと前輪。ベンチャーは事業自体を変えるピボットのような動きをしますが、こうした柔軟性がモード2の役割。でも、モード2だけだと一輪車なので、うまく動けなません。一方で、モード1の後輪は自分で方向転換できない代わりに馬力があります。方向性が定まったときに進むにはこの馬力が重要です。この両者がタッグを組むと、柔軟性と馬力があわさった強力な組織になります。

大谷:クラスメソッドの中ではあまりそういう対立はないと思うのですが、お客様とかだとそういう話ってありそうですかね。

横田:どっちがいい悪いじゃなくて、協力しないと物事が進まないのは確かです。たとえば、ある小売りのお客様が在庫情報をリアルタイムで見たいという案件。1000店舗から同時に参照・更新できる基幹データベースを、100万以上のユーザーに解放しようとしても、すぐ落ちます。アーキテクチャの観点からしてもダメなんです。

クラスメソッド代表取締役社長 横田聡氏

今後、手堅く正しい情報を持たなければならないデータベースと、正確さより即時性が優先されるキャッシュやキューイングといった具合に、バイモーダルを前提にしたシステムの設計やアーキテクチャができるはずです。そこらへんで両者が協力すると、もっといいシステムができるのではないかと思います。

ガチガチでなにもできないアカウントではクラウドの価値は出ない

大谷:続いて、クラウド時代の情シスという観点で話を進めたいのですが、横田さんから見た情シスとクラウドの関係ってどんな感じなんでしょうか?

横田:情シス主導でAWSの活用をしようとすると、まず最初にやるのがセキュリティ基準を決めること。ガチガチでなにもできないアカウントしか発行されないので、EC2が立てられるだけです。1社で1つのアカウントだけ作って、基幹系も、バックアップも、ホームページも異なるVPCで運用してしまう。でも、こうした保守的なガバナンスって3~5年でハードを置き換えるのと同じ前提なので、せっかくクラウド使っても安くならないし、アジリティもない。

クラウドの優れたところは、ゼロから作らず、100以上あるサービスをいかに組み合わせて、価値を出すかです。だから、本来は複数のアカウントを発行してほしい。基幹業務であればガチガチでもいいですが、IoTやビッグデータのためにはそうではないアカウントを作って、まとめて管理するのがベストプラクティスだと思います。

小野:今のような話ってモード1タイプだと思うんです。なにかあったときに誰が責任とるのか、事故が起こった場合にどうするかを性悪説で見ていく。これだとクラウド導入の意味が半減どころか、1/10くらいになってしまう。だから、クラウドを入れる際にはモード2的な文化や行動様式をセットで導入していかないと、うまくいかないです。

横田:うちの会社でも基幹システムを置き換える場合は、ルート権限を渡さず、リモートアクセスでLinuxのシェルにSSHで入らなくともメンテナンスできるようにします。モード1でも、こういたモダンな仕掛けを入れておくと、構成管理とかはだいぶ楽になる気がします。

小野:その意味ではモード1.2とか、1.5みたいなこともあるかもしれないです。ゴールキーパーとフォワードという二択ではなく、そこらへんのさじ加減を考えてモード2の様式を取り入れていかないと、クラウドの効果をきちんと得られないです。

大谷:東京リージョン開設からけっこう時間経ているけど、クラウドがいまいちブレイクし切れてないのも、そういった行動様式の取り入れ方がまだまだ浸透していないのかもしれません。

世の中を変えるには事業会社に優秀なエンジニアが必要

大谷:JAWS DAYS 2017のセッションでも議題に出たのですが、モード2頭の人がモード1の会社で苦労しているのはけっこう辛いかなと思っています。JAWS-UGでも、本業じゃないけど勉強会来ている人とか、クラウドやりたいのに会社は許してくれないという人が多くて、結局転職してしまう人もけっこういます。両者をうまく組み合わせるのに苦労している企業はけっこう多いと思うのですが、アドバイスありますでしょうか?

モデレーターを務めたKADOKAWA アスキー編集部 大谷イビサ

小野:会社のマネジメントや経営って、まさにそのためにあると思います。自然状態だとモード1だった会社がクラウド入れようとしても無理なので、組織や会社は変えられず、転職するといった人が出てくると思います。

でも、クラウド導入しないとまずいという危機感だけでもあれば、モード1に染まり切っていない若手の人を担当としてアサインしてみようとか、チームを作ってみると言ったマネジメントの施策や経営判断が出てくると思います。「クラウド時代はモード1だけではダメ」という考え方のフレームワークがある程度定着していけば、モード2を取り入れていこうと考える組織は増えてくるはずです。だから、大谷さんが言うほど「組織が変わらないなら転職だ!」みたいな人が絶望的になることもないと思うんですけどね。

大谷:そういった人たちがけっこうな割合でクラスメソッドさんに流れているような気もするのですが、横田さんどうですかね。

横田:そんなことはないですよ(笑)。今われわれが重視しているのは、お客様にあたる事業会社側でビジョンをもって推進する人です。その人がいないと、われわれのようなクラウドインテグレーターがいても全然意味がない。だからモード2を経験した人を、モード1しかやっていないような事業会社に斡旋する。斡旋というと職業紹介みたいですが、いい会社ですよとご紹介します。実際、来週そういうイベントやります。

大谷:宣伝してもらって全然OKですよ。

横田:世の中変えるためには優秀なエンジニアが事業会社側に必要だと思っていて、そういった人がいれば、クラウドインテグレーターも活躍できると思い、ファーストリテイリングさんとクラスメソッドでイベントやります。

大谷:私も思い当たる節ありますよ。過去にいろいろユーザー事例を取材していて、すごい新しいことやっている会社の情シスは、だいたいコンサルティングやっていた、ベンダーの人が中の人になったり、東京で社会人経験を積んだ人が地元で親の会社を継いでいたりします。共通しているのは、生え抜きだと変革するのが厳しいというポイントです。外の人がイノベーターとして会社変えるってあると思います。

横田:あるんです。馬車で生活していた人は馬車の改善しかできないので、車を持ち込まないと、スピード感は変えられない。とはいえ、馬車も車も手段なので、本質的な価値なのか、商品なのかは知見を持った人が外から入って変えていく必要があります。本来は中に入って開発するのが一番いいんですが、なかなか内製だけでは難しいので、あくまでそうした人は経験則を元に社内をうまくまとめてもらい、新たな方向性を作ってもらうのがメイン。開発はわれわれのようなパートナーの仕事ではないかという仮説で、そういったイベントをやっています。

小野:それだとプロパーだけじゃダメなのかという話になりがちですが、そんなことはないと思います。もちろん、きっかけは必要ですが、全員入れ替わる必要はない。明確に方針を示す人が一人いれば、周りでも変われる人もけっこういるはず。

大谷:それはそうですね。私の取材した事例でも、もともと生え抜きで業務知識や会社の方向性に強い情シスの担当がいて、そこにIT動向に詳しいベンダーの人が加わると、最強な情シスになりますね。

モード1とモード2のインテグレーターは共存できるのか?

大谷:組織内の話ではなく、業界を俯瞰してみた場合、モード1的な既存のSIerとモード2的なクラウドインテグレーターって共存しうるものなんでしょうか?

横田:両方ないとうまくいかないです。

大谷:クラウドインテグレーターのクラスメソッドから見てもそうなんですか?

横田:AWSで実績を上げて、たまにお客様から「うちのシステム全部AWSで作り直してくれ」と言われるんですけど、全力で拒否します(笑)。まず業務知識がないし、長年既存の業者と作ってきた暗黙の背景をすっ飛ばして、われわれのような小ぶりな会社ができるとは思えないんです。ですから、既存の業者を大事にしつつ、そこでできないことをわれわれにお願いしてもらうのが、一番成功するパターンだと思います。運用費が高いとか、クラウド的なモード2の施策をやりたいとか既存の業者でできないことはお手伝いできることがあるかもしれませんが、全部丸ごとは今は無理です。

小野:SIerとしてのわれわれには、クレジットカードの基幹システムを作っている事業部があるのですが、彼らのメインミッションは「SI×CI(Cloud Integration)」です。SIではお客様との信頼関係や業務知識、かっちり作るというノウハウを培ってきた。これにCIがかけ算になったらすごいよねということで、今まで100人いたCOBOLのエンジニアにAWS SA(AWS Solutions Architect)にスキルトランスフォーメーションしています。

大谷:それは相当思い切った決断ですね。

小野:そうすると業務知識を持った人がクラウドまでわかる。「SAくらいでどうよ」って横田さんもニコニコすると思いますが(笑)、やっぱり半年でとれたらすごいですよ。

大谷:その話も納得できますね。先日、フジテックCIOの友岡さんに取材したときも、もともと内製で苦労していたから、AWS使うとそのよさがすぐに浸透したと言ってました。

小野:そうなんです。今まで苦しんできたから、少年のように喜ぶんですよ。「Practice over Theory」で、本を読んだり、理論を学ぶより、まずは体験すること。マシンに苦労してきた人、ITが好きな人は、EC2を立ち上げるだけで、目がキラキラし出すんです。バイモーダルの実践として、体験をベースにスキルトランスフォーメーション進めれば、歴史のあるSIerでも、情シスでも変えられるという実感はあります。

マーケターがPythonを学び、クロスボーダーが始まった

横田:今のはシステムの話ですが、マーケティング部門でも同じような話をよく聞くようになっています。今までコテコテのマーケやっていた人が、最近Pythonを勉強し始めているんですよ。これって分析を誰かに頼むのではなく、自分たちで生データを扱う動きが出ているということです。

一方で、プログラミング得意な人がマーケティングを勉強し始めています。つまり、クロスボーダーで、関わる人がどんなことをやっているか、それぞれ体験し始めているんですよね。専門家になるわけではないけど、プロジェクトに関わる人たちが共通の目的のために、会話をすべく、お互い体験を始めているのが大きな動きだと思います。

大谷:マーケの人たちもBigQuery使い始めているじゃないですか。やはりそういう流れなんですね。

横田:だから先進的なプロジェクトでも、ITの人だけではなく、現場の人を一人でも入れた方がいいと思います。実際、取材いただいたすかいらーく様の案件でも、要件定義したのはガストで10年店長やっていた人でした。その方が現場の目線でデータをインプットしてくれたんです。Excelのマクロを分析し、SQL文を学びながら、どんどん考えていったんです。店長がどんどんエンジニアなったので、速かった。ここで丸投げしてしまうと、コミュニケーションギャップが発生して、うまくいかなくなってしまうんです。

小野:変化が始まるときって、必ず境界線が薄れていきますよね。お互いが相手のことを理解し始めて、最終的には融合する。たとえば、15年前くらいにはデザイナーとプログラマーで同じようなことが起こり始めたんですよね。絵として美しいという話と、ユーザー体験がエクセレントという話があわさると、両者は不可分だったので、お互いを学び始めたんですよね。

横田:面白い話していいですか? アドビってクリエイターの会社だったけど、10年前にエンタープライズに寄せたんです。同じ頃、エンタープライズの会社だったマイクロソフトがクリエイティブ製品を出し始めたんです。で、どうなったかというと、お互いあきらめて元に戻っていったんです(笑)。結局、クロスボーダーした結果、餅は餅屋だよねということで、自分の得意なところに戻っていく。でも、その過程はすごく大事だった気がしました。

大谷:なるほど。これってIoTの領域でも同じですよね。今までしこしこハードウェア作っていた人がいたけど、インターネットのことはわからなかった。一方でWebの人はモノからデータが取り出せることはわかったけど、ハードウェアのことは知らない。お互いをまったく知らなかった両者が交わってきて、今面白いことになってきているじゃないですか。

小野:その話はすごく重要で、変化が起こるときにはお互いを理解すべく、歩み寄っている。COBOLやっている人も、クラウドに歩み寄らなければならないし、僕も国産のメインフレームのアセンブラを読めるように勉強し始めてます。モード1だけが歩み寄るんじゃなくて、お互いが学び合う。改革者なんていなくても、カジュアルに相手の行動様式に入っていける文化があれば、意外とスムースに行くんじゃないと思います。僕がセゾン情報に入ってからの4年間は本当にそんな感じでした。

異なるシステムをつなぐHULFT/DataSpiderの価値

大谷:さて、最後は強引にHULFTやDataSpiderの価値に結びつけるわけではないですが、最近は「データはビジネスの石油」であるという経済誌も出てきたくらいで、バイモーダルの時代にデータ連携は重要だなという話です。以前、ビッグデータのブームの時はデータサイエンティスト育成しようみたいなムーブメントがありましたが、なかなかブレイクしなかった。でも、今はクラウドもあり、演算能力も上がり、ツールが洗練されたことで、現場の人たちがどんどんデータを分析して、価値を出せる時代になっています。ここらへんのデータ分析の動向ってどんな感じでしょうか?

横田:データ分析の案件は3桁くらいやっているのですが、実際にビッグデータと呼べる仕事はなくて、ほとんどはデータを集める仕事です。いろいろなところにあるデータを集めて、フォーマットをそろえて、分析したい人がすぐにデータにアクセスできるようにするという内容です。社内のデータソースってどんどん増えていくので、最初はマスタデータやトランザクションデータでしたが、次はログが増え、そのうちモバイルデータが増え、IoTや人の感情まで取り込むようになります。これをいち早く分析して、施策に反映するため、環境を整えたいというニーズです。

みなさんの会社でInstagramのログを取り込んでいる会社っています? たぶんいないと思うんですけど、取り込んだ方が効果を得られるはずなんです。今さらPOS取り込むだけだと、売り上げ上がらないですよね。カスタマーがなにを欲しているか、どんな行動をしているか知るには、増え続けるデータを取り込んで施策に取り込む課程が必要。レコード数ではなく、むしろカラム数を増やせるようにデータ分析の環境を整える必要があります。そういったとき、なるべく作らないようするには、やはりDataSpider使うといいんじゃないですかね。

大谷:やはりデータ収集は苦労が多いんでしょうかね。

横田:目的ははっきりしているのですが、データの形式がバラバラです。データベース、ファイル、CSV、ダンプ、圧縮ファイルなどさまざまで、OSも言語も違います。SIも当然別なので、全社プロジェクトでやろうと思ったら、毎週定例で関係者集めてミーティングを設けなければいけない。面倒くさいじゃないですか。

だから、うちではとりあえずAmazon S3に放り込んでもらっています。S3にさえ上げてもらえば、あとフォーマットをそろえたり、クレンジングするとかは、うちがよろしくやります。とにかくバラバラのデータをそろえるためのシステム開発は無駄。だからバラバラのままでいいですとお話しすると、お客様も受け入れやすいです。

小野:DataSpiderやHULFTが使われているところって、今まで投資されていたシステムです。でも、これらを全部クラウドに移行するのは現実的ではないので、今までのシステムはそのままにしておいて、データはクラウドで利用しましょうという場面。全然違うシステムを連携させるのがDataSpiderで、全然違うシステムをつなぐのがHULFT。理想に向かっていろいろ一本化するというより、異なるシステムが混在する環境に世の中なっていくと思うんです。そのときに、違うモノはそれはそれで認め、それらをつなぐのがDataSpiderだし、HULFTです。

で、AWSでなぜHULFTが使われているのか? 先ほどの話と繰り返しになりますが、AWSというチャレンジングな環境においても、インフラのところは銀行に100%入っている手堅いHULFTで固めておきたいからなんです。異種システムとの連携であれば、DataSpiderもあります。うちの製品を使えば、安定的なところとチャレンジングなところとのバランスをとることができます。

大谷:無理に統合しようと考えるなと。違うシステムは違うシステムで認めて、つなぐところを作ってしまえと言う点では、ダイバシティ的な考え方ですよね。そう考えると、今回のパネルのテーマって意外と間違ってなくって、別のシステムとつなごうと思うと、いろんな組織がやりとりすることになりますよね。

小野:そういう意味では、バイモーダルとHULFT/DataSpiderって発想が似ているんですよね。違うモノを違うモノとして認めて、高みを目指していくって、僕の性格なんですね。

DataSpiderやHULFTって、その意味で文化的な架け橋になることも多いんですよね。メインフレームのことはわからない、オープン系やクラウドがわからないという人でも、DataSpiderやHULFTがあればきちんとつながる。データさえあれば、体験として使うことができるので、お互いを理解できます。

予測不可能な時代を乗り切るためのクラウド

大谷:そろそろ時間も来たので、まとめに入りたいと思います。まずは横田さんに今後目指していきたい世界というちょっと大きい話をお願いします。

横田:クラスメソッドは創業以来、事業会社を元気にしたいと思って、ITが得意でない会社を支援してきました。でも、気がついたら、ITが経営を左右するとか、ITが政治を動かすという流れになってきた。そんな中、お客様がちょっと試したいというときに、時間やお金がかかりますではなく、極力速く簡単にトライアルしてもらって、次の大きな動きのためのきっかけ作りをできたらいいなと思っています。

そのため、極力作らずに組み合わせるとか、時間単位で使えると言ったクラウドのテクノロジーを最大限活用していきたいし、活用する際には日本で一番詳しいパートナーですと胸張って言えるような自信や経験を身につけていきたいと思っています。

大谷:そんな横田さんには、シチズンデベロッパーのように自分たちでいろいろなシステムやアプリケーションが内製化できるようになったときの、御社の価値を教えてもらいたいです。

横田:困ったときに聞いてもらえるようなパートナーになりたいですね。Developers.IOの記事はすでに1万本超えました。AWSの記事も数千本あると思います。

大谷:はい。リリース見て、驚愕しましたけど(笑)。

横田:困ったらそこを見てほしいです。月間のPVで150万、UUで35~40万くらいあるのですが、そのうち99%はうちに1円も入りません。でも、1%でもお問い合わせいただければ、うちは安泰なんです。100人オーバーの会社なので、世の中の問題全部は解決できないですが、心意気としては「間接的に世の中の問題全部を解決している」というポジションになりたいなと思います。

大谷:なるほど。私が記事書いている想いも同じかもしれません。では、小野さんまとめをお願いします。

小野:今日話に出たシチズンデベロッパーや内製化、クラウドの使い方、バイモーダルなどは、根底はすべて共通しています。MITメディアラボの伊藤穣一さんがAfter Internet時代の行動原理のような話をよくなさるのですが、インターネット登場以降は世界の予測可能性が大きく変わってるんです。今までは過去の成功実績をそのまま実践すればよかったのですが、現在は突発的なことも起こるし、なにが起こるかを予想するのが難しい時代になっています。つまり、予測不可能なものが起こっているし、システムの世界でもそれが起こっているということなんです。

こうした時代に対応すべく、ウォーターフォールではなく、アジャイルのような開発様式が出てきましたが、登場した2000年代にはまだ受け入れられなかった。でも、予測不可能なモノの権化みたいな存在として、AWSのようなパブリッククラウドが出てきたら、シチズンデベロッパーも、内製化の流れも受け入れざるを得ない。予測不可能なものを予測するために綿密な計画を立てるのではなく、異種混在を是として、変化に耐えられるような組織や経営戦略を練るために、クラウドの受け入れはもはや待ったなしかなと思います。クラウドをきっかけにすれば、社内の文化を変え、組織をよくしていくことができるので、面白い時代になってきたなと思います。この予測不可能性というのが、共通の概念だと思います。

大谷:予測不可能という点では、出版業界的には「うんこ漢字ドリル」が売れるなんて、誰も思ってなかったですからね(笑)。

横田:うちの娘もめちゃくちゃ楽しんでます。うんこ1000個とか数えてます(笑)。

大谷:はい。まとめがうんこでいいのかという気もしますが(笑)、今こそ予測不可能な時代に対応すべく、アグレッシブにクラウドを使っていくという流れが必然になってきたということで締めたいと思います。お二人とも、長時間ありがとうございました!

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