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Cybozu Media Meetupは2回目となる地銀との連携にフォーカス

地銀が地方の中小企業をデジタル化 滋賀銀行と伊予銀行が振り返る

2023年07月14日 11時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2023年7月13日、サイボウズは第12回目となる「Cybozu Media Meetup」を開催した。今回のテーマは、2021年以来2回目となる「kintone×地方銀行」。地銀によるDXコンサルティングは、地方中小企業の約9割が未実施となるDXへの足がかりになるのか。サイボウズ、滋賀銀行、伊予銀行の担当者が生々しく解説した。

デジタル化支援は企業の本業支援 地方でのパートナーは地銀

 「地銀が変われば、地方が変わる。地方が変われば、日本が変わる。kintone×地銀× 中小企業が実現する地方DX」と題された今回のMedia Meetup。モデレーターをつとめたのは、2年前のMedia Meetupにも登壇したサイボウズ パートナー第一営業部 部長の渡邉光氏。同氏は愛媛県今治市の出身だが、地元が消滅可能都市に入っていることに愕然とし、サイボウズで働きながら地域を応援できるのではないかと考え、地域に根付いた金融機関を地方企業のDXスキームに巻き込んでいる(関連記事:地方銀行とkintoneのタッグで実現する地方経済のDXとは?)。

サイボウズ パートナー第一営業部 部長の渡邉光氏

 地方中小企業のDXは遅れている。総務省の調査によると中小企業の9割はDXを実施しておらず、約7割の中小企業はDXの必要性すら感じていない。多くの中小企業はアナログ業務のデジタル化(=デジタイゼーション)で止まっており、いわゆるDXにまで進んでいない。とはいえ、野村総合研究所の調査によると、デジタル化によってメリットを感じている企業も約6割に上っており、デジタル化の必要性を感じたきっかけとして、経営課題の解決や目標達成を挙げる経営者も増えている。「デジタル化支援は企業の本業支援だと考えている」と渡邉氏は語る。

デジタル化支援=企業の本業支援

 とはいえ、中小企業が数多くのデジタルツールをうまく活用できるかというと、なかなか難しい。そのため中小企業が外部の業者に求めるのは、単なる導入ではなく、本質的な課題設定と解決を実現する伴走支援。特に地方において、中小企業が求める地元密着型のパートナーとして最適なのが、地方銀行だ。

 この数年来、サイボウズは地方活性化を実現すべく、地方銀行との協業を進めている。従来のビジネスマッチングとは異なり、地銀の中で専門部隊を用意し、ICTコンサルを提供するため、サイボウズとしては自社のパートナーを紹介したり、行員へのkintone研修や勉強会を実施する。地方銀行は経営と業務の二つの目線で中小企業のコンサルティングを行ない、kintoneを使ってまずはノンコア業務からデジタル化していく。「ハイリスクの業務からDX化すると、失敗してします。でも、ノーコードツールのkintoneを用いれば、知識がなくても業務システムの構築が可能です」と渡邉氏は語る。

 現在サイボウズと協業する金融機関は20行以上にのぼっており、地銀によるコンサルティングの実績も3年で3倍以上に増えている。そして、サイボウズと協業する地銀のうち、地方創生に資する金融機関の取り組みとして、地方創生担当大臣から表彰を受けたのが、今回登壇した滋賀銀行と伊予銀行だ。

地銀の地域企業の支援に地方創生担当大臣から表彰

企業とSIer、経営層と従業員、ギャップを埋められる地銀

 滋賀県の大津市にある滋賀銀行は今年90周年。滋賀県に本店を唯一の地方銀行で、地元企業の持続可能性「サステイナビリティ」を追求している。そして、登壇した滋賀銀行 井上里奈氏は2008年の入行以来、13年に渡って個人向け営業を従事し、2021年2月にデジタル推進室に異動。2年間での支援実績は38件に上る。

 近畿全域を潤す琵琶湖を擁する滋賀県のキーワードは「工業」と「中小企業」。第二次産業(製造・工業)のシェアは全国1位の48%で、県内企業の99.8%が中小企業になる。そんな中小企業の多くはデジタルのことがわからず、逆にIT企業はビジネスのことがわからない。そして、社内においては、経営層は現場がわからず、従業員は会社全体のことを理解できない。このギャップを埋めるのが、滋賀銀行の役割だ。

中小企業とSI会社、経営者と従業者のギャップを地銀が埋める

 井上氏は、「ビジネスを理解し、デジタルの知識を有する銀行員は、お取引先さまとSI会社との間に入り、交渉が円滑に行なくようにご支援できます。また、銀行はお取引先さまの経営者とも普段からやりとりしており、場合によっては現場に深く入り込むことできます。デジタルを活用し、お取引先さまの課題解決を銀行員が行なう強みは、こうしたところにあるのではないか。地銀こそが両者のギャップを埋められる唯一の存在だと考えています」と井上氏は語る。

 滋賀銀行では2020年10月に「デジタル推進室」が設置され、取引先の業務効率化とデジタル化支援を進めている。3年間でビジネスマッチング51件、コンサルティング79件の計130件の支援を実施。このうち案件管理、顧客管理、販売管理、固有業務など6割弱がkintoneによる支援になるという。「kintoneを推奨してきたわけではないが、結果的にkintoneを軸にデジタル化の第一歩を踏み出すお客さまが多いのが実態」と井上氏は語る。

約6割がkintoneによる支援

 kintoneを用いた支援事例としては山川産業を挙げた。1993年設立の設備保守管理の同社は、案件情報が営業マンしかわからず、経営層も現場の課題を把握できておらず、意思決定に時間を要していた。これに対して、滋賀銀行は意思決定の迅速化を目的に、kintoneによる業務のデジタル化を支援。社内でアプリ作成が可能になり、稼働アプリは約40個になった。「中小企業が自走できることこそが、今後DXを進めていくのにもっとも重要なことだと考えています」と井上氏。

 山川産業の事例を動画で振り返った井上氏は、「山川産業さまも最初からデジタル化を希望していわたけではありませんでした。デジタル化の話は当初はほとんど出てこず、課題をヒアリングした結果として、kintoneに行き着いただけ」と語る。あくまで手段としてデジタルを選択したことを強調した。

 今後も取引先が抱える課題を起点とした支援を継続していく。とはいえ、目の前の課題を1つ解決すると、より深い課題が見えてくるため、滋賀銀行としてもさらなるスキルやノウハウが必要になってくる。井上氏は、「今までの銀行の枠を超えていかないと、お取引先さまの真のニーズにはお応えできないと痛感している。逆にこうした枠を超えた先の支援に、動画であったような『こんな提案をしてくれると思わなかった』というお取引先さまの感動があるのだと思います」と語った。

銀行の枠を超えた支援で真のニーズに応える

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