アカザーの不自由自在

Vo8 ハードルが下がった車いすでのタクシー乗車 

文●アカザー 編集●ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。

 車いすユーザーである筆者が日常生活の中で感じるあれこれをお届けする連載コラム第8回。今回は車いす利用者のタクシー乗車について、乗り方や最近の車いす対応のジャパンタクシーについてなどをお話しします。

 どうもアカザーです! 2000年にスノーボードで脊髄を損傷して以来、車いすユーザーを22年ほどやっています。主な交通手段は手動運転装置を付けた車なんですが、その次によく使っていたのがタクシーでの移動。というわけで今回は車いすユーザーのタクシー移動についてです。

タクシー乗車の苦い笑い話

 車いすユーザーになってはじめてのタクシー移動は、たぶん病院と最寄り駅間での利用とか。なので、あまり記憶はありません。覚えているのは車いすで仕事に復帰し、打合せの移動などでタクシーを利用するようになったあたりから。なかでもいちばん強烈な思い出が、雨の中の3連続スルー! ガンオタのオレ的に親しみを込めて“逆ジェットストリームアタック”(アタックされなかったので)と呼んでいます(笑)。

 それは、今から10年以上前。打合せ帰りに突然の夕立に合い、あわてて路上でタクシーを拾おうとしたところ…“空車”表示のタクシーに3台連続でスルーされました。1台スルーされるくらいは、それまでも個人タクシーなんかでよくあった感じなんですが、それが3台連続でスルーされたときにはさすがに笑っちゃいました。

 ていうか手を挙げてドライバーをガン見してるんですが、めっちゃ目線をそらされるんですよ~(笑)。で、そんな感じで3台もスルーされると、いくらものわかりが悪いオレでも察します「これはムリだわ~」と。で、その時はそのままびしょ濡れになりながら帰宅。

 でもね、逆にタクシードライバーの気持ちになって考えてみれば、それもわかるんです。車いすをタクシーに乗せるのって、めっちゃめんどうなんですヨ。土砂降りのなか、アレをやることを考えたら、「ワイ以外の優しいドライバーに拾ってもらってくれ~すまん!」となるのもしょうがない、人間だもの。

 さらに“車いすをスムーズにトランクに積めない問題”もそんな気持ちに拍車をかけるんですよ。介護などで車いすをトランクに積んだ経験がある方ならわかると思うのですが、車いすって折り畳み式でも、セダンなんかだとトランクルームに入らなかったりするんですよ。

最近はユニバーサルデザインのタクシーが増えてきましたが、数年前まではセダンタイプのタクシーが主流でした。

 さらにそれがタクシーとなると、トランクルームにはLPG(液化石油ガス)タンクが積んである。なので、5ナンバー車だとまったくトランクスペースに余裕がないんです。

 車いすで社会デビューして間もない頃、タクシーの運転手さんに「タクシーのトランクに車いすが入らないコトがあるんですよ~」とグチったところ、「タンクがあるんで5ナンバー車じゃまず無理だね~、だから停めるならトランクが大きい3ナンバー車がいいね」とのアドバイスをもらいました。

 それ以降はなるべく大きいタクシーを利用するようにしていたのですが、それでもトランク内に洗車道具などを積んでたりして、「トランクに車いすを積むスペースがない」と断られることがちょくちょくありました。

セダンタイプのタクシーはトランクにLPG(液化石油ガス)タンクが積んであってスペースがせまくなっているので、折りたたみ式の車いすでも積めないことがあります。

上半身のパワーがあれば1分以内に乗車する裏技!?

 そんな経験からオレが編み出した乗車方法があります。その名も“車いすと一緒に乗車”! ここからはあくまでオレ流のタクシー乗車方法なので、真似をする場合は自己責任でお願いします。

 必要なものは、折りたたみ式車いすと車へのトランスパワー(乗り移り力)です。ちなみにオレは脊髄損傷(th12-L1)なので、腕の力はフツーにあります。その頃はほぼ毎日、車を運転していたので車いすから車へのトランスを行なっていました。

 車に乗る場合は、前に【車いすと手動運転装置とオレ】(https://ascii.jp/elem/000/004/094/4094978/)にも書いたように、乗車後に車いすを折りたたんで助手席の後ろ側に入れるワケです。タクシー乗車時には積む車いすの位置を、自分の膝の上か、隣の席に運ぶ感じで乗車、以上!この方法だと慣れれば1分かからずにタク シーへの乗車が可能です。

10分ぐらいのチョイ乗りだと膝の上に乗せたままの場合も。少し窮屈ですが、同乗も3人までイケちゃいます。

 ただ車いすのタイヤなどで車内を汚してしまう可能性があるので、乗る際には「このまま乗って、車いすは膝に載せていいですか?」と伝えてから乗るようにしています。でもそう説明されても運転手さんにしてみれば「???」ですよね(笑)。

 で、「???」となっている隙に、すかさずシートに乗り込み>車いすを折り畳み>車いすの積み込みを数十秒でやってみせると、「すごいね~、こんなのはじめて見たよ~」てな会話が笑顔で始まる感じです。これはひとりで乗る場合ですが、膝の上で車いすをかかえれば、3人まで一緒に乗ることができます。

 この方法だと車種を選ばずにサクッと乗れちゃうので、オレは車いすになって10年以上はこの方法を使っていました。

ユニバーサルデザインタクシーの登場

 そして時は流れて2017年頃。東京オリンピック・パラリンピックを控えた東京には、“ジャパンタクシー”と呼ばれるトールワゴン型のユニバーサルデザインタクシーが増えてきました。

車いすに乗ったまま乗車が可能な「ジャパンタクシー」(https://toyota.jp/jpntaxi/)。

 ジャパンタクシーへのオレの第一印象は「セダンタイプのタクシーより車内や間口は広くていいけど、シートが高いぶんトランスがちょい大変」というものでした。オレ的裏技の“車いすと一緒に乗車”も可能でしたが、車いすを折り畳めば荷室に問題なく入ったので、積み下ろしもお願いする機会が増えました。

 そんな感じで、オレの印象はまぁそれほど悪くなかったのですが、世間の車いすユーザーはどうやらそうではなかったみたいです。というのも、ジャパンタクシーを大々的にバリアフリータクシー的な謳い文句で売り出したために、過度の期待をした車いすユーザーが多かったのです。

 彼らの言い分を乱暴に要約すると、「介護タクシーみたいに後ろから乗れるものだと思っていたけど、全然違う感じで車いすの積み下ろしに15分以上もかかったよ! プンスカ!」みたいなものでした。

 ジャパンタクシーは“車いすに乗ったまま乗車できる”機能がウリのひとつですが、車いすに乗ったまま乗車することは出来たのですが、これが思った以上に乗るまでに多くの手間と時間を必要としたんです。その手順は以下の6項目。

【初期ジャパンタクシーへの車いす乗車手順】

・後部座席を跳ね上げ、スロープを取り出す。
・スロープを組み立て、車体に取り付け。
・お客の車いすを押して乗車。
・車いすをフロアベルトで固定。
・車いすと乗客をシートベルトで固定。
・スロープを取り外し、分解、トランクに積み込み。

 そんなわけで1万2000人ほどの車いすユーザーが改善要求を求める署名を、製造メーカーであるトヨタに提出。それを受けて2019年3月にジャパンタクシーのリニューアルが行なわれました。とはいえ、所詮ベース車両は同じなので備品のまわりのリニューアルのみです。

【JPN TAXI】車いす乗降方法
https://www.youtube.com/watch?v=6dUCG6ndfM4

 それでもリニューアル前は、車いすでの乗車に10~15分ほどかかっていたものが、リニューアル後には5~10分で乗車できるようになりました。個人的にはこのタイム短縮にいちばん貢献したのは、ハード面のリニューアルというよりも、ソフト面のリニューアルだったと思います。リニューアルと同時期に、“ユニバーサルドライバー研修”が盛んになったんです。

 ユニバーサルドライバー研修が始まる前は、ジャパンタクシーに車いすを乗せる機能があったとしても、ドライバーさん自身が実際に車いすユーザーを乗せたことがないという方が大半だったように思います。

 最近でも「久しぶりに車いすのお客さんを乗せました~」と言われたりするので、この辺は我々車いすユーザーも積極的に利用し、車いすでタクシーに乗るコトを一般的なコトにしていく努力が必要だと思います。

 幸いにして、昨年あたりからはタクシーアプリからでも車いす対応車両を呼べるようになって、さらにハードルが下がったので、もしまだ車いすでタクシーに乗ったコトがないなんていう方は、機会があればアプリ経由でぜひ使ってみてください。

 基本、最近のジャパンタクシーのドライバーさんはユニバーサルドライバー研修を受けた方だと思うので、数年前みたいな乗降時のトラブルは少ないと思います。あ! その際に障害者割引を使いたい場合は、まだシステム的に洗練されていないので“アプリ決済”より“車内決済”にしておくほうが無難です。

「タクシーアプリGO」(https://go.mo-t.com/)では昨年から、“車いす対応車両”が選べるように。ドライバーもユニバーサルドライバー研修を受けた方が多いので安心。

 最後にこれまたオレ流の裏技をひとつ。ていうかジャパンタクシーでも“車いすと一緒に乗車”は、より簡単に使えるんですよ! ジャパンタクシーでは助手席のシートを前にスライドし倒すことが可能で、足の前に広いスペースをつくることができるんです。

 なのでオレはタクシー乗り場など乗りやすい場所では、運転手さんにお願いしてスペースを作ってもらい、そこに車いすを置かせてもらったりします。車いすのタイヤをうまく利用すれば、積み下ろしもめっちゃ楽ですよ~。

助手席のシートを前にスライドし倒すことで、足の前に折り畳んだ車いすを置けるスペースが確保できちゃいます。

アカザー(赤澤賢一郎)
週刊アスキーの編集者を経て、現在は車いすのフリー編集者・ライターをやっています。2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(Th12-L1)。車椅子ユーザーになって21年です。2018年に札医大で再生医療の治験を受け、2020年に20年ぶりに歩行!!!

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