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2020年の東京オリンピックを見据えて成長する公衆無線LAN

苦節7年!アルバとともに春を迎えた無線LAN専業のNTTBP

2013年11月18日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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マカオで行なわれたアルバネットワークス(以下、アルバ)のプライベートイベント「AIRHEADS 2013」に顧客として登壇したのは、アルバ製品を導入して公衆無線LANのインフラを手がけるNTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)の小林忠男社長だ。小林氏は、投資回収期に入った無線LAN事業とアルバとの関係について語った。

スマートフォンの急速な普及がもたらした成長

 NTTBPは、NTTグループ内においてWi-Fiを専業に手がける会社で、日本全国に設置した基地局の設備を通信事業者に卸すというビジネスを展開している。このNTTBPを長らく率いてきたのが、1990年代、日本のPHSの普及にも大きく貢献した小林忠男社長だ。

NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)の小林忠男社長

 設立当初から比べて200倍近い売り上げを実現し、今でこそNTTグループ内でも戦略的役割を果たすようになった同社だが、「無線LAN専業でやってきた12年の歴史のうち、当初7年は赤字だった」(小林氏)という。ご存じの通り、ノートPCの無線LAN標準搭載を機に公衆無線LANを手がける事業者は数多く登場したが、有料サービスの加入者の伸び悩みや設備投資の大きさから、ほとんどが撤退や事業縮小を余儀なくされた。こうした中、基地局を自前で運用し続けたNTTBPは、他社に無線LANのインフラを卸し売るという形態でサービスを提供。現在、国内の公衆無線LANサービスのインフラのほとんどを、同社がまかなっているといっても過言ではない。

高速インターネットからWi-Fiによるオフロードへ移るNTTBPのビジネス

 その成長のきっかけは、やはりWi-Fiを搭載したスマートフォンとタブレットの爆発的な普及だ。NTTBPも当初は高速なワイヤレスのスポットを展開しているだけだったが、「iPhoneとAndroidの登場で1台あたりのトラフィックが増え、3GやLTEを使っていたトラフィックをWi-Fiにオフロードする必要が出てきた」(小林氏)わけだ。この結果、昨年3月には1万しかなかった基地局を、今年は一気に12万まで拡大。来年はさらに4万増となる16万に拡大する予定で、そのうち7割がアルバ製品となっている。当然、単一事業者では世界最大規模のWi-Fiネットワークで、グローバルでも大きな注目を集めている。

SIM認証でLTEとWi-Fiを意識しない時代へ

 現在、NTTBPでは共用基地局としてAPを運用しており、16のESS-ID、VLANをそれぞれのキャリアに割り当てている。提供しているキャリアはNTT東日本、NTT西日本、NTTドコモといったNTTグループはもちろん、「KDDIやソフトバンクなど親会社の競合にも使っていただいている。また、キャリアだけではなく、任天堂やセブン&アイホールディングなどの一般企業、福岡市、広島市などの自治体などもわれわれのお客様」(小林氏)という。

Wi-Fiの共用基地局を運用し、16のESS-IDでトラフィックを分離

 基地局の拡大と共に、トラフィックも急速に増加している。たとえば、2012年9月にNTTドコモがLTEネットワークの負荷を軽減すべく、月の転送量が7GBを超えたユーザーの速度を一気に128kbpsに絞るという施策を展開してから、ドコモWi-Fiの利用度が一気に増えたという。また、NTTドコモがiPhoneの販売を開始し、さらに今後iPhoneではSIMによる認証でWi-Fi接続が可能になるため、トラフィックが一気に増大すると見込まれるという。「IDとパスワードを使わないで、端末が勝手にWi-Fiにつなぎに行くことになる。ユーザーはLTEや3Gを使っているか、Wi-Fiを使っているか、意識しない時代になると思う」と小林氏は語る。

エリアオーナーが主役のビジネスモデルへ

 こうした設備卸しの対象は今まで通信事業者だったが、前述したように現在では任天堂やセブン&アイホールディングスなどの一般企業にも導入されている。「主役がエリアオーナーになってくる。たとえば、来客したお客様、駅や空港に来るお客様に対して、特別なサービスを提供し、お金が回わる仕組みが成立するようになってきた」(小林氏)。NTTBPがエリアオーナーに基地局を卸し、エリアオーナーが顧客に情報商材などを提供するいわゆるB2B2C型のビジネススキームだ。これを同社では「Wi-Fiクラウド」と呼んでいる。また、APを高密度に設置するWi-Fiソリューションも展開しており、西武ドームで導入済みだ。

キャリアからエリアオーナーへ主役が移る

 小林氏が最大成功例として挙げたのが、セブンイレブン、イトーヨーカドー、そごう、西武百貨店、デニーズなど計1万4500の店舗にセブンスポットと呼ばれるサービスを提供しているセブン&アイホールディングスの事例だ。

 セブンスポットでは、会員にWi-Fiとインターネット接続を開放するだけではなく、クーポンやキャンペーンのコンテンツを配信しており、今後は電子ブックや音楽を配信する予定。「最近ではAKB48の写真を10日間連続で10枚ダウンロードできるというキャンペーンをやった。毎日来ないと写真が全部ダウンロードできないので、AKB48が好きな若者はみんなセブンイレブンやデニーズなどに行ったようだ」(小林氏)とのことで、店舗での売り上げ拡大に貢献したという。

 これらはもともと新たに基地局を設置したわけではなく、Wi-Fiオフロードのために作った基地局をセブンスポット用に提供したもの。そのため、NTT東西やNTTドコモとの共用基地局になっており、異なるESS-IDが発行されている。ただ、ドコモWi-FiはNTTドコモのユーザーしか使えないけど、セブンスポットは会員であれば誰でもつながるという違いがある。

 この一大プロジェクトで用いられたのが、アルバの無線LAN製品だったが、トライアルの際は苦労の連続だったという。小林氏は「当初、1000店舗で始めたときは、毎日のようにトラブルがあった。アルバの技術陣といっしょに眠れない夜が何ヶ月も続いた」と振り返る。しかし、苦労のかいあって、現在は安定運用に至っており、同社の大きな収入源になっている。

(次ページ、2020年のオリンピックまでにWi-Fiスポットを数多く敷設)


 

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