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ベネッセがパートナーを巻き込みながら模索する「生成AI活用」の最適解とは

生成AI+ノーコードCMSで、進研ゼミのサイト制作期間が半分以下・コストは4割減に

2023年10月30日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp 写真提供●ベネッセ

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 ベネッセは2023年10月27日、同社における生成AIの活用について説明するメディアセミナーを開催。パートナー企業と取り組んだ、生成AIやノーコードツールによるウェブサイトの制作・運用方法の変革により、コストを4割削減、制作期間を半分以下に短縮できたことを明らかにした。

パートナーを巻き込みながら進める生成AI活用の3ステップ

 ベネッセでは、これまでも「個別学習」の分野を中心にAIを活用したサービスを展開してきた。そして、生成AIの登場を受け、働き方や仕事に必要なスキルセットも変わると見立て、社内業務において生成AIの活用を急速に進める必要があると判断。今春から3つのステップで生成AIの活用を推進している。

ベネッセの生成AI活用の3ステップ

 まず同社は、社員各々が生成AIを使いこなして新たな企画や業務効率化を考えられるように、社内利用の促進から始めた。今年4月に、セキュアな環境で利用できる社内向けの生成AI「Benesse Chat」を、Azure OpenAI Serviceをベースに2週間で構築。公開後3か月間で3000人、のべ10万回利用された。

 次に取り組んだのは、生成AIによる社内業務の効率化だ。まずは「Benesse Chat」における社員の活用事例をもとに、効率化できそうな業務領域を特定。ウェブサイト運営とコンタクトセンターにおける生成AI活用の検証を始めた。この取り組みは、ベネッセ同様に変化の必要を感じているパートナー企業と共同で推進している。

 そして「Benesse Chat」で生まれたアイディアをもとに、ユーザー向けサービスへの生成AIの活用も進めている。7月には、Azure OpenAI Serviceをベースに子どもの考える力を促すよう設計された「自由研究お助けAI」を展開した。

 今回のメディアセミナーでは、特にステップ2のパートナー企業と進めた社内業務の効率化について、具体的な取り組みや成果が語られた。「実際に業務をする社員や一緒に業務を行うパートナー企業を巻き込みながら、答えのない活用方法の最適解を共に考えていくのが、現時点での生成AIとの向き合い方」と、ベネッセホールディングス Digital Innovation Partners 副本部長 水上宙士氏は説明する。

ベネッセホールディングス Digital Innovation Partners 副本部長 水上宙士氏

進研ゼミのウェブサイト制作期間が半分以下、コストは4割削減

 ウェブサイト運営における生成AIの活用については、パートナー企業であるメンバーズでプロジェクトを統括した白石哲也氏より語られた。

メンバーズ 執行役員 エグゼクティブ・プロデューサー カウントサービス第1本部 兼 第7本部 本部長 白石哲也氏

 ベネッセのウェブサイト運営におけるこれまでの課題は、作業工程に時間を要すること、担当者間の制作スキルにばらつきがあること、公開までの過程でデザインイメージにずれが生じて修正作業が多発していたことだという。そこで運用フローを抜本的に見直し、ベネッセ専用のテキスト生成AIツールの開発と、ノーコードCMSの導入を進めた。

 従来の運用フローでは、企画から制作、コンテンツのリリースまでに、約8週間かかっていたという。そこで最も作業工程を短縮できるプロセスを特定、それぞれで最適な最新テクノロジーを組み合わせてプロセスを再構築し、リードタイムの短縮を図った。

最適なテクノロジーを活用し業務プロセスを再構築

 特に大きな成果を生んだのは、生成AIによるライティング業務の自動化だ。今回、ベネッセ向けにテキスト生成AIツールを開発。このツールに印刷DMの情報を流し込むと、およそ10秒ほどで、ウェブ用に最適化されたキャッチコピー案や説明文などが自動生成される。

 これまでは担当者間のスキルのばらつきにより、サイト構成やコピーライティングの質が安定しなかったが、生成AIツールの導入によって作業工数が削減されると同時に、担当者に依存しない質の担保ができたという。なおこのテキスト生成AIツールは、未公開情報の漏洩を防ぐために、入力データがAIの学習に使われないよう設計されている。

ベネッセ専用テキスト生成AIツール、10秒にライティング作業を短縮

 またウェブサイト構築に関しては、新たにSTUDIOのノーコードCMSを導入した。これまではExcelで作成した指示書から、別の担当者がHTMLで作成するというフローをとっており、デザインイメージにずれも生じていた。ノーコードCMSを導入したことで、あらかじめ用意されたデザインパターンを選択し、AIが生成したテキストを流し込むだけで、知識がなくても簡単にサイトを構築、直接修正できる仕組みへと変わった。

ノーコードCMSの導入で誰でも簡単にサイト構築

 生成AI+ノーコードCMSの新たな運用体制は、PoCにおいて、「進研ゼミ 中学講座」のサイト制作コストを4割削減、なおかつ運用人員も10名から3名に削減し、制作期間を8週間から3週間に短縮する高い成果を生んでいる。本年度中には段階的に新体制への移行を開始し、2024年度以降は、すべての既存ウェブサイトにおいてプロセスを全面変革する予定だ。白石氏は「生産性を上げ、運用体制を最適化することで、売上向上のための施策に取り組む時間やコスト、リソースを確保して、ビジネスを成長させる」と語った。

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