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プロダクトマーケティングディレクターに話を聞く30年の強み、重み

PDFはデータの死に場所じゃない データ活用時代のAcrobatの価値

2023年07月24日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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TeamsからAcrobatでレビュー 統合された使い勝手が重要

大谷:記者発表会ではMicrosoft Teamsとの統合がアピールされていました。マイクロソフトとの連携について教えてください。

山本:マイクロソフトと戦略的なパートナーになってから、もはやかなり長い時間が経ちます。特にPDFに関しては、やはり一番変換されるフォーマットがWordからなので、いかにシームレスに変換できるかは大きなテーマ。だから、WordのリボンメニューにAcrobatのメニューが追加されたのはAcrobat 6くらいまでさかのぼるんです。

コミュニケーションという領域で、Microsoft Teamsとの連携を始めたのも、ずいぶん前です。いまMicrosoft Officeを利用している方に、いかに快適にPDFを使ってもらえるかが大きなテーマでした。

大谷:連携の結果として、記者発表会でTeamsの中からそのままAcrobatを呼び出してレビューするという機能も披露されましたね。PowerAutomateとの連携も面白いですね。

山本:Teamsなり、PowerAutomateなり、マイクロソフトが強みを持っている分野に、われわれがわざわざ立ち入る必要はないですよね。今ある製品をどのように組み合わせれば、ユーザーの価値につながるかが重要。その意味で、Teamsを開くとAcrobatでPDFがきちんと見られるとか、そのままレビューできるとか、統合された使い勝手を提供することが重要だと思います。

大谷:企業でSaaSが増え続ける中、統合化された使い勝手は重要ですね。

山本:英語ではベンダーコンソリデーションと言いますが、ユーザー企業が取引する企業を統合していくという動きはあると思います。PDFツールは数多くありますが、棚卸ししてみたら、同じようなツールが社内に乱立していたので、結果アドビのような信頼できるツールにまとめていくという事例もあります。

AcrobatはAdobe Marketing、Marketoとの連携は以前から進めていますし、先ほど紹介したAdobe ExpressではAcrobatの機能が統合されています。Creative Cloudも、作った作品をレビューしたり、アセット管理するのもPDFを活用できます。すべてをアドビから調達するという企業も、大手を中心に増えつつあります。

大谷:私は今年以降、コロナ禍でユーザー企業に入ったSaaSはどんどんリストラされると考えているのですが、米国も同じような流れはあるのでしょうか?

山本:米国ではデジタルファーストの流れで、1990年代からパッチワーク化されてきたワークフローやシステムを再構築する動きがあります。そして、カスタマーエキスペリエンスの向上が至上命題になっています。こうした中、多くの企業で今までのベンダーの見直しプロジェクトも走っています。

米国では4月に生活雑貨チェーン大手のベッド・バス&ビヨンドが経営破綻をしたのですが、その背景はWebへの移行が失敗し、新しい顧客を獲得できなかったことです。逆に言えば、多くの会社ではカスタマーエキスペリエンスを向上するようなWebサイトや、モバイルなどにかなりの投資を行なっているということです。従来に比べて優先順位が代わったわけで、その意味でSaaSが淘汰されたり、ベンダーが絞られるのは当然の流れだと思います。

「正しいPDF、正しくないPDF」の意味

大谷:アドビからはよく「正しいPDF、正しくないPDF」というメッセージが出てきます。PDFって国際規格のオープンなフォーマットになっていますが、確かにこの規格に対応していないPDFも数多く出回っています。PDFの生みの親であるアドビとしては、正しいPDFに正規化したいと思うのですが、Acrobatでコンバートする機能とかあるんですかね。

山本:実はそういった機能はついています。Acrobat Readerってとても賢くて、他社のツールで作られた規格にあわないPDFをなんとか読み込もうと努力します。ないフォントであれば、類似のフォントに置き換えるとか、裏でいろいろなエンジンが動いています。だから、Acrobat Readerで読み込めないPDFってほぼないと思います。

Acrobat Readerを無償で配布するという話が最初に社内で出たとき、やはり社内でもいろんな意見が上がりました。でも、創設者の想いはみんなに使ってもらうこと。PDFで文書の流れを変えるなら、読むためのAcrobat Readerを無償提供しなければ意味がないという考え。この考えは非常に斬新だと思いました。

ISO規格に準拠したソフトを開発するのは、やはり労力がかかります。その点、アドビは相当数のエンジニアが開発に携わっています。あの規模で開発できるソフトウェア会社は、世界にもそれほどありません。規格にきちんと準拠し、何十年、何百年後にもきちんと読めるPDFを実現するために、アドビは多くの投資を行なっています。

大谷:PDFだったり、Acrobatだったり、すごさが見た目でわかりにくいという弱点はありますね。

山本:PDF=フラットな画像ファイルと考えている方は多いと思います。でも、実際はコピー&ペーストもできるし、印刷禁止もできる。OCRでテキストを音声で読み上げることもできます。そういうことが実現できるのが正しいPDF。PDFは単に作るだけでなく、作ったあとのワークフローで活かすことが今後は重要です。

よく言うのは「PDFはデータの死に場所ではない」ということです。企業によっては、紙の契約書をPDF化して、資産として保存しています。でも、PDFにはデータが入っているので、再活用のニーズに応えられます。アーカイブだけではないニーズがどんどん高まっているということです。

Acrobatが30年に渡って使われてきた理由は?

大谷:AcrobatのAIへの取り組みについて改めて教えてください。

山本:AIに関しては、Fireflyの前から、Document CloudではAdobe Senseiを搭載しています。たとえば、Adobe ScanはAdobe Senseiベースなので、認識精度はかなり高いですし、フォームの認識なども可能です。ドキュメント領域でのAIの活用は今後もいろいろな機能が検討されています。基本はPDFのインテリジェンスを活用し、オートメーションを推進する方向で、テキスト周りに強いAdobe Senseiを活用していきます。

たとえば、企業の統合で資料として保存したPDFデータを両者でマージする。日本では複合機を用いてデータ化する会社も多いですが、こうした作業もAIやAPIがあれば、どんどん自動化できます。

大谷:とはいえ、私の肌感覚では、これからペーパーレスという中小企業も多い。特に地方では紙で全然困っていないという会社や組織もあります。

山本:米国でも大量の紙資料をデータ化するから、アドビに力を貸してくれという大手自動車会社がありました。そのデータ化は3年かかるプロジェクトとして組まれているんです。

大谷:3年ですか! 短期的にどうにかなる話ではないので、やはり腰を据えてやるんですね。

山本:はい。なぜ今さらペーパーレス化なんですか?と聞いたら、紙は紛失や漏えいが危険という認識があるのに加え、やはりデータ活用したいというニーズでした。「だから、単に見られるだけのフラットなPDFじゃ困ります」と言われたので、うちは「そういうPDFを提供していません。データを再利用できるPDFです」とお答えしました。

大谷:最後にAcrobatが30年間使い続けられた理由をどう考えているか教えてください。

山本:信頼性です。会社として信頼性、技術としての信頼性。セキュリティに関しての投資も過大なほど。PDFはビジネスのインフラなので、企業責任だと考えています。

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