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スタートアップやベンチャー企業がIPOを目指す上で意識しておきたい知財戦略とは?

特集
STARTUP×知財戦略

 日本弁理士会関東会と特許庁ベンチャー支援班は、2020年12月23日、オンラインセミナー「スタートアップ向けセミナー ~IPOを目指すための知財活動~ By IP BASE」を開催した。スタートアップやベンチャー企業が、IPOを見据えて準備しておくべき知財活動について、パネルディスカッションを交えながら解説。実際にIPOを経験した登壇者がIPOにおける知財活動の内容や主幹事証券や証券取引所が重要視するポイント、IPOで苦労した点などを語った。

 特許庁が取り組むスタートアップ向け支援策

 パネルディスカッションに先立って、主催した特許庁が取り組んでいるスタートアップ支援策が紹介された。特許庁では、知財関連の情報サイト「IP BASE」を運営しており、「国内ベンチャー企業における知財戦略事例」や「ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き」など、スタートアップの参考になる情報をまとめている。また、特許審査に関しては、何よりも早く特許権を取得したいというニーズに応える「ベンチャー企業対応 スーパー早期審査」も行っており、2017年度の実績では1ヵ月を切るスピードで一次審査の通知を行っている(通常の審査では一次審査の通知までに9か月程度要する)。さらに、手数料も通常の3分の1程度に抑えるなど、申請をしやすい環境を整えているという。

特許庁が運営するスタートアップ向け情報サイト「IP BASE」

 知財活動を始めたきっかけ

 パネルディスカッションでは、ゲストとしてAI inside株式会社 管理本部人事総務部 弁護士の土屋 裕太氏、株式会社ユーグレナ 管理部 法務知財課 課長の嵐田 亮氏、HEROZ株式会社 経営企画部 法務マネージャー 弁護士の渡邊 道生穂氏の3名が登壇。モデレーターからの各質問に対して回答した。

AI inside株式会社 管理本部人事総務部 弁護士 土屋 裕太氏

株式会社ユーグレナ 管理部 法務知財課 課長 嵐田 亮氏

HEROZ株式会社 経営企画部 法務マネージャー 弁護士 渡邊 道生穂氏

 さらに、パネラーとして、経済産業省 特許庁 ベンチャー支援班長の鎌田 哲生氏、弁理士・日本弁理士会関東会委員の安高 史朗氏も登壇し、日本弁理士会 弁理士の木本 大介氏がモデレーターとなって進行した。

左から木本氏、鎌田氏、土屋氏、嵐田氏、渡邊氏、安高氏

 最初の「知財活動を始めたキッカケは?」という質問について土屋氏は、「特許の出願関係は、設立初期の段階から社長と付き合いのあった弁理士に相談して進めています。それ以外の職務発明規定等の整備や仕組化については、上場を目指す段階で証券会社からアドバイスをもらい、上場の約2年前から徐々に準備を進めていました」と回答した。

 嵐田氏は、「私は2008年に入社しましたが、私が入社する前にも当社は2件の特許出願を行っておりました。会社として特許を出願する意識は私の入社前から高かったと思います。商標についても私の入社前にコーポレートロゴを含む重要な商標は出願済みでした」と話した。

 渡邊氏も「私はマザーズ上場後に入社したため詳細はわかりませんが、証券会社から特許は出願した方が良いと打診があったと聞いています。上場のかなり前から出願をしているので、経営陣は特許に対する意識は高かったと思います」と話した。ゲストの話を聞いたパネラーの安高氏も「知財活動に対する感度は企業や経営陣によってバラつきがありますが、3社とも比較的早期に特許出願等の知財活動は行っており、意識は高いと思います」と話した。

3社ともIPOの前から知財活動を進めていたと話す

 続いて、知財担当のゲストの3名がスタートアップに入社したきっかけについて質問があり、最初に回答した渡邊氏は「元々は法律事務所で一般民事をやっており、今の業務とは畑が違ったが、AI絡みの法律に興味を持ったのがきっかけでした。そこで、AIを実際に作っている会社に入った方が面白いと思ったのが入社の経緯です」と話した。

 嵐田氏は「私は大学院博士課程を修了し、研究職として入社しました。私は当時、大学は論文を書くところで企業は特許を書くところだと考えていたため、企業研究者にとって知財の知識は必須だと思いこんでおりました。弁理士試験の勉強をしていたため知財業務にも興味があり、社長にも知財業務に携わりたいと話していました」と回答。土屋氏は「私は渡邊さんと同じく法律事務所に勤務していて、当時注目を集めていたAI関連事業を行っている企業に就職しようと思っていました。当時は、IPOを目指す中で管理部門の人材が不足しており、法務的なポジションとして親和性が高かったのが採用されたきっかけだと思います。当時はスタートアップらしく、CFOがほぼ全て管理をしていました」と話した。

 次の「IPO前の資金調達で知財活動の貢献はあったか?」という質問に対して、嵐田氏は「知財活動があったから資金調達ができたかはわかりませんが、他企業との共同研究の成果として取得した特許の説明は行いました。研究開発活動の成果を説明する上でプラスになったと思います」と話した。

 土屋氏は「資金調達活動をきっかけに侵害予防調査をすることになり、それにより資金調達ができたという経緯はあります。また、逆のパターンとして、資金調達に成功してベンチャーキャピタルに出資をしていただいた後に、知財に強い弁護士を紹介していただくなど、資金調達をきっかけに知財活動が充実したということもあります」と回答した。渡邊氏は、「当時のメンバーに聞いたところ、IPO前の段階で知財活動が功を奏した事例はなさそうでした。ただ、AIを作っている企業は、投資家の理解を得にくい場合もあります。本当に実態があるのかを疑われるケースもあるため、説明時に特許の資料が安心材料になるケースはあるようです。」と答えた。

 パネラーの鎌田氏は、「IP BASEでは、ベンチャーキャピタルにインタビューを行っています。ベンチャーキャピタルも実際に企業の知財はウォッチしており、IPOを行う上では役に立つと啓蒙しています。まだ直接貢献があったという事例は少ないかもしれませんが、知財はあくまでツールなので、技術の裏付けや説得材料として活用していただくのも良いのかなと思います」と話した。

鎌田氏は、特許を取得することは技術の独占だけでなく、投資家への説明材料にもなると話す

 IPO前に知財面で苦労したポイント

 IPO前にあった知財の苦労話についても各ゲストが回答した。渡邊氏は「契約周りは相当大変だったと思います。当社が作るAIの権利をどちらに帰属させるのかは大きな問題です。従来型のシステム開発に沿った考え方で委託先は来るため『それは無理です」という話をするのが大変だったと思います。ただ、社内でこの部分は確保しておこうという認識共有は常にしており、IPO前も最低限契約書に必要な文言を入れるなどの対策は行っていたのだろうなと感じています。思い通りに交渉が進まないこともありますが、どの部分を重視して権利を確保するかは、開発部を含めて認識共有しておくことが重要だと思います」と話した。

 嵐田氏は大企業と共同研究を行なった際の経験を語った。「IPO前に大企業との共同研究をする機会がありました。共同研究契約を締結した後に当社単独で特許出願を行いたい発明があることに気づきましたが、単独で出願して良いものか悩みました。発明自体は契約締結前に行われたものであり、共同研究先の知見が入っていないことを説明して共同研究先に納得頂けたため当社単独で特許出願を行いましたが、今振り返ると、契約締結前に特許出願をしておくべきだったと思います。当時は、契約締結以後だから共同名義で出すべきではないかという話も先方からは出ました。スタートアップは大企業と仕事をする機会もありますが、いかに自社の権利を守るのかは大切だと思います」と回答した。

 また、共同研究の契約をする際の注意点として、「共同研究成果の帰属を無条件に均等にするべきではない」と話します。「共同研究をするからには、各社独自の技術を持っていて、役割は分かれているはずです。例外的な場合を除いて、お互いの研究範囲とそれによって得られた発明の帰属を明確な形で線引きしておけば、権利に関する争いはないと思います。当社であれば、ミドリムシの培養技術は絶対に自社の帰属にしたいと思っていたため、権利の持ち分を無条件で渡さないように注意していました」と話した。土屋氏は、「サービス名が決まるのが遅く、リリース後に後追いで商標を出願するケースがありました。それで撥ねられたことはありませんが、アンテナを張っておくべきだったと思います」と回答した。

共同研究を行う際には、お互いの研究範囲や権利を明確にしておくと後で揉めることが少ないだろうと嵐田氏は話す

IPO前に知財面で準備しておくことは?

 次の「IPOまでにやっておくべき知財活動は?」という質問に対して土屋氏は「職務発明規程の整備や侵害予防調査、必要な特許出願などは行いました。また、IPOの審査期間までに、不足が判明して直すことは当然あると思うので、その時に相談できる弁理士や弁護士との関係づくりは大事だと思います。スポットでお願いすることもできますが、経営者の考え方や経営のスピード感などを把握していただいているところに頼める状況を作っておくのが、審査にすぐ対応できるポイントになります」と回答した。

 嵐田氏は「規程の整備は必須だと思います。当社もIPOにあたり20個ほど規程を整備する必要があり対応しました。また、上場直後に特許侵害で訴えられたり、特許を取得していなかったばかりに他社に高額の実施料を支払うようなことになると問題です。その心配がないことを説明できれば、特許はゼロでも大丈夫だと思います」と話した。渡邊氏もほぼ同じ回答だという「東証などは、特許を企業の価値を測る一つの指標にしていると思います。数が多ければ良いのではなく、企業にとってどのような価値があるのかを重要視していると思うので、知財戦略として、取得するべき特許を経営層がきちんと認識しておくことが大切です」と話した。

 視聴者からは、「弁理士や弁護士の選び方」について質問があり、渡邊氏は「医者と一緒で、専門にしている領域が事業と合っているかは重要です。また、弁護士の世界は狭いので、社内に弁護士がいればそのルートで探してもらうのが一番早いと思います」とアドバイス。安高氏は弁理士について「『弁理士ナビ』というサイトで検索することもできますが、特にスタートアップ界隈では、紹介で見つけている人が多いのではないでしょうか。投資を受けるVCやメンター経由で繋いでいる人が大半だと思います」と回答した。

 最後は、モデレーターの木本氏が「生のお話が色々聞けたと思うので参考にして、自社の知財活動を進めてほしい」と話して締めくくった。

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