バルセロナの経済損失は500億円以上!?
大きくなりすぎたMWCの今後はどうなる?
ダメージを受けるのは通信業界の関係者だけではない。バルセロナの市民も大きな影響を受ける。
なにしろ昨年は10万9000人が集まったのだ。宿泊はもちろん、レストラン、タクシーなどに大量のお金が流れている。2019年のMWCの後、GSMAは経済効果を4億7300万ユーロ(約567億円)と見積もっている。わずか1週間程度でこの規模のお金が費やされるのだ。この期間の一時雇用は1万4000人以上。失業率が非常に高いスペインにとっては、MWCは間違いなく重要なイベントだ。夏の観光シーズンよりも効率の良い経済効果をもたらしているのだ。
それもあって、中止を検討するGSMAに対して、バルセロナ市は予定通りの開催を要求したと言われている。今年はGSMA経由で契約があった2万8000室がキャンセルになるとか。ホテルとアパート(民泊)の損失だけで1億1240万ユーロ(約150億円)という見積もりも出ている。
MWCがバルセロナで開催されるようになったのは2006年、それまではフランスのカンヌで実施されていた(当時の名称は「GSM World Congress」)。その当時は、Ericsson、Nokia、Siemensといった欧州の企業が端末と通信機器の両方で強かったし、標準化団体のESTIもニースの近くにある。
北欧企業が長い冬を抜け出すために、避寒地でイベントを開こうと始まったのだ。その後、キャパが不足になり、バルセロナに移ることになったという背景がある(初回のみスペインで開かれたことがあるので、「戻った」という表現もできるのだが)。
だが、中国企業が強くなり、iPhoneで一気にスマートフォンが普及した米国企業が多数参加するようになり(それまでは「Windows Mobile」をプッシュするマイクロソフト、クアルコム、モトローラぐらいが目立つ程度だった)、欧州を中心としたモバイル業界の集まりからグローバルなイベントとなった。モバイル関連技術そのものが、さまざまな産業に影響を及ぼす中、ここ数年はセールスフォースなどのエンタープライズIT企業、自動車メーカーなどの存在も目立ちつつあった。
GSMAは来年2021年のMWC Barcelona開催を約束しているが、今回のMWC中止は図らずも、大きくなりすぎたイベントのあり方を見直す機会を参加者に与えることになりそうだ。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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