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エンタープライズが主導する新たな章の始まり、レッドハット・ホワイトハーストCEOもゲスト登壇

IBM THINKでロメッティ会長が語った「第2章」の意味と戦略を読む

2019年03月05日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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部分的な適用からあらゆる業務への全面適用へ、「デジタルとAI」の第2章

 ロメッティ氏は、これからの「第2章」において、次の3つがそれぞれ具体的にどう変化していくのかを説明した。以下、それぞれを概観していく。

(1)デジタルとAI
(2)ハイブリッドクラウド
(3)責任あるスチュワードシップ(企業活動における社会責任)

 まずは「デジタルとAI」だ。ロメッティ氏は、これまでの第1章でエンタープライズが「ランダムな(無差別的な)デジタル化」の取り組みを行ってきた結果、デジタルとAIの適用領域が拡大しつつあり、第2章の中では「デジタルとAIがビジネスのあらゆる場所に組み込まれるものになるだろう」と語る。

 そうした動きに備えるため、IBMは今回のTHINK 2019でデータのある場所にAI機能を配置できるようにする“Watson Anywhere”ビジョンや、BPMツールにAIを組み込む「IBM Business Automation with Watson」などを発表している。

 ロメッティ氏は、ここからデジタルとAIの第2章をスタートするうえでは、第1章の経験から学んだ「教訓」も生かさなければならないと指摘する。たとえば、社内外/異業種間でワークフローをつなぐ「ビジネスプラットフォーム」、アプリケーションと同じようにAIのライフサイクルを管理する「AIプラットフォーム」、そしてデータを“AI Ready”なかたちで即座に提供する「インフォメーション・アーキテクチャ(Information Architecture)」といったものの構築が必要だという。

 「AIの精度や公平性を担保するために、AIはライフサイクルを追跡し続ける必要がある」「『IA(Information Architecture)なくしてAIなし』。現在のAI開発においてはまだ、データを“AI Ready”なかたちにする準備段階に80%の時間を費やしてしまっている」(ロメッティ氏)

 さらにロメッティ氏は、IBMにおけるAIリサーチの方向性について、より少ないデータでの学習を可能にする「コアAI」、AIモデルの公平性/説明可能性/堅牢性を担保する「トラステッドAI」、モデル構築などの作業をAI技術で自動化し、開発作業を効率化する「スケーリングAI」の3つだと述べた。いずれもエンタープライズ/ビジネスにおける適用領域をより拡大するための取り組みと言えるだろう。

クラウドの第2章は「ハイブリッド」、プラットフォーム製品を強化

 次は「ハイブリッドクラウド」である。ロメッティ氏は「クラウドにおける第2章が『ハイブリッド』だ。ミッションクリティカルな業務アプリケーション(のクラウド移行)が、この第2章の動きを牽引する」と語る。

 IBMが「残り80%」と表現する、ミッションクリティカルなコア業務のクラウド移行はすでに始まっている。ロメッティ氏は、フランスのBNPパリバがIBM Cloudへの全面移行を決めたほか、スペインのサンタンデール銀行、英国保険会社のロイズ、オーストラリアのウェストパック銀行、ドイツの金融機関アリアンツ、米国保険会社のアンセムインシュアランス、アメリカン航空といった顧客が、IBM Cloudへのクラウド移行を進めていることを紹介した。

 ただしコア業務のアプリケーションは、すべてのケースで「パブリッククラウドへの移行」が最適解になるとは限らない。データガバナンスやセキュリティなどの観点から、オンプレミスやプライベートクラウドを選択するケースも出てくる。ロメッティ氏は、IBMの顧客においては「オンプレミス環境を除くとプライベートクラウドが4割、パブリッククラウドが6割」が平均だと語る。また前回記事でも触れたように、移行には数年単位の長い時間がかかるため、この移行期間を埋めるためのソリューションも必要である。

 そこでIBMでは、アプリケーションやデータがオンプレミス/プライベートクラウド/パブリッククラウド(マルチクラウド)のどこに配置されていても、容易に移動/セキュリティ保護/相互接続ができる環境作りを目論んでいる。具体的には前回記事で紹介した「VMware on IBM Cloud」に始まり、オープンなコンテナプラットフォームを提供する「IBM Cloud Private(ICP)」や「Red Hat OpenShift」さらに「IBM Multicloud Manager」による“Kubernetes Everywhere”の取り組み、アプリケーション/データの接続/統合プラットフォームである「IBM Cloud Integration Platform」、マルチクラウド環境に高度な暗号化基盤を提供する「IBM Hyper Protect Services」などである。

 特に、マルチクラウドの利用や次世代アプリケーションのマイクロサービス化を意識して、コンテナ/Kubernetesベースの環境を整備していくという方向性は鮮明だ。ロメッティ氏は、「第2章のクラウドとは、ハイブリッド、マルチクラウド、オープン(テクノロジー)、セキュア、そして一貫した管理性を備えたものだ」と、これからのクラウド環境に求められる要件をまとめた。

 もうひとつ、企業の社会責任も新たな時代=第2章を迎えており、これからはIBMにも顧客企業にも「責任ある企業活動」が求められるようになると、ロメッティ氏は語った。近年では大手テクノロジー企業が大量収集するプライバシーデータの濫用に強い批判が集まるなど、テクノロジーと企業倫理にまつわる問題に注目が集まっている。こうした流れを良い方向に変えていかなければならないという訴えだ。

 IBMでは、「AIを含むテクノロジーは、人間を代替するためでなく『人間の能力を拡張する』ためにある」「(サービスプロバイダーとして)データも、そこから得られたインサイトも顧客の所有するものである」「あらゆるテクノロジーはオープンで、説明可能で、バイアスがかかっていないこと」という3つの「信頼の原則」を掲げている。ロメッティ氏は、こうした原則を通じて社会の信頼を得ることが「テクノロジーが健全に育つうえでの『前提条件』になる」と強調した。

 なお今回の基調講演では、IBMにおける取り組みとして、技術職経験のある人材が出産や介護、転職などを経て再び技術職に戻れるよう支援する「Tech Returnship」、技術者育成を目的とした新しい6年制高校の制度「P-TECH」、災害発生地域への救済にオープンソーステクノロジーを活用するプロジェクト「Code and Response」などが紹介されている。

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