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専業農家が増える未来 垂直統合型で農業ビジネスを変えるLEAP

仕組みレベルから農業の世界を変えるスタートアップ

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 seak株式会社が提供している「LEAP」(Let's Agriculture Program)は、農家で働いた経験がまったくない人でも就農を可能にする仕組みである。seak代表である栗田紘氏は、未経験だった農業に取り組み、身体を張ってLEAPを作り上げた。

 「農業を仕事として始める人を1人でも増やしていきたい。これまで農業の事業化は大規模農業が必要とされてきたが、通常のビジネス同様、農業も事業細分化し、最小ユニットで小さく始めて最適化していくことで、小規模でも十分に事業化できる手応えを感じている。もっと気軽に農業に取り組む人が増えれば、日本の農業は変わっていくはず」(栗田氏)

 同社はLEAPを提供することで日本の農業をどのように変えていこうとしているのか。

seak株式会社の栗田紘CEO兼共同創業者

3年の実践から生み出した
新規就農者が即農業を始められる仕組み「LEAP」

藤沢市にあるLEAPのビニールハウス

 神奈川県藤沢市にseak株式会社の農地がある。ビニールハウスの中には、ミニトマト、キュウリが作られている。一見するとどこにでもある農家の畑だが、よく見ると栽培されているミニトマト、キュウリはビニールハウスがある地面ではなく、袋に入った土を使って栽培されていることがわかる。この袋に入った土は、seakで開発した独自のもの。「ココナッツ繊維、貝化石など、自然由来の原料にこだわって配合した独自の土」(栗田氏)だという。

 土だけでなく、ハウス内には無線LANが張り巡らされ、内部の温度、湿度、水やりなどの状況をセンサーで把握する仕組みが取り入れられている。現在可能な最新テクノロジーを使って農業を行なう、いわゆるITを使った、ハイテク農業のひとつだが、「いわゆる野菜工場とは決定的に違う点がある」と栗田氏は指摘する。

 「野菜工場といわれるものは、設備が整ったものが多く、投資額が大きくなりがち。それに比べ当社が提供する仕組みは低コストで農業を始めることができる」(栗田氏)

袋農法と自動化されたビニールハウス内のIT設備

 テクノロジーを使った農法だが、インフラ設備を整えるためにそれなりの予算が必要であるのに比べ、LEAPはもっと低予算で農業を始められる仕組みを志向する。

 「現在の農地がある神奈川県藤沢市で、当社が法人として初めて認定新規就農者の認定を取得したので、優先的に農地を確保する権利を持っている。農地を持っていない人でも、就農意欲があれば、当社が提供する土地を使って、農家として活動を始められる。これまで興味はあっても、農地確保、農業のノウハウを持っていないなどの理由で就農をためらっていた人でも農家として働くことができるようになる。就農する人を1人でも増やしていきたい」

 戦略的に農業の事業化に挑んでいる栗田氏だが、2014年4月にseakを設立し、「ここまで来るのに丸3年。戦略的にすべてのことができていたら、こんなに時間はかからなかった」と苦笑する。

 seakという社名は、サイエンス、エンジニアリング、アグリカルチャーの3つを組み合わせた造語だが、まさにこの3つの要素を組み合わせることが、これまでの3年間の取り組みとなった。

ゼロから作り上げることへの憧れから起業を決意

電動車椅子WHILL

 栗田氏自身が就農を考えるきっかけとなったのは、「ゼロから物を作り上げていくことへの憧れ」だった。2006年、大学を卒業後に大手広告代理店へ就職したが、2012年、新しいタイプの電動車椅子を作ることで有名なWHILLに参画する。

 「広告代理店の仕事から、電動車椅子を開発する企業で仕事をするようになって、ゼロから物を作ることの面白さを感じるようになった。そういった仕事をしたいと考えるようになっていた時期に、父親が体調を崩したこと、友人が一型糖尿病と診断されたことなどが重なり、健康な身体を作るためのベースとなる農作物に興味を持つようになった」(栗田氏)

 改めていうまでもなく、日本の農業は高齢化、就農者不足などいくつもの課題を抱えている。世界的な食糧不足が叫ばれる中で、自給率向上のために農業に取り組む人を増やす必要があるものの、就農者を増やすことができないことも現実だ。

 「メーカー系ベンチャーは、自己実現をしたい人が取り組むことが多い。さらに、社会的な課題解決につながることを実現できるというもう1つの要素が加わると、化学反応が起こる。この化学反応の有無がビジネスを拡大していくためには重要な要素となる」

 農業をビジネスにすると起業した栗田氏だが、周囲には農業に取り組んでいる人はいなかった。その状態で取り組んだことが「今から思うと良かった」と振り返る。

 新規就農者として1年間農家でのトレーニングを受け、個人として利用権を得て獲得した土地が記事冒頭にある現在のseakの農場だ。「木の根があちこちにあって、畑としては土を使うことが難しい、農業を始めるには難しい土地だった」と栗田氏は当時を振り返る。

使えない畑ばかりの中に参入する新規就農者ができる農法

ビニールハウスができる前の農場風景

 この荒れた土地でどう農業を始めるか。栗田氏はさまざまな検討を行なった。土壌改良、土を使わないハイテク農業などの先に行き着いたのが独自の「袋栽培」だ。

 「土壌改良も、ハイテク農業も設備投資が必要となるためコストと時間がかかる。コスト、時間をかけずにスタートできることから、現在の袋栽培というスタイルとなった」

 袋栽培という農法は、「隔離土耕」という名称として農業試験場で試されていたレベルで、本格的な農家でこの農法を試した例は数少ないという。「普通の農家はあえて袋の土を使った農法を試す必要がない、畑を作る土地を持っている。そもそもが使えない畑ばかりが残っている中に参入する新規就農者だからこそ、この農法を試すことになった」と栗田氏は振り返る。「この畑がダメだったらほかに逃げるところがない。だからこそ、土地を使ってできることを真剣に考えた」という。

 もちろん、袋農法をスタートしただけですべてがうまくいったわけではない。2セットのハウスからスタートし、「試しては直し、直してはまた改良して試すを繰り返していった」と時間を積み重ねながら、まずは栽培難易度が高いミニトマトに挑んだ。

 「ミニトマトは栽培が難しい野菜。それだけにトマト栽培に成功できれば、ほかの野菜も栽培できる。また購入する人も多く、付加価値を付けた作物として栽培し、提供することができる有望な野菜」

 その試みは、果たしてどうなったのか。

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