まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第49回
アニメを変革する“3DCG”という刃――サンジゲン松浦裕暁社長インタビュー
劇場版公開中『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』がアニメに与えたインパクトとは?
2015年02月17日 17時00分更新
ディレクター兼制作進行!?
コンパクトな制作体制&スケジュール管理が肝
―― 実際に制作しながら技術を磨いていったわけですね。リテイクなどが増えて、納品がギリギリになった、ということはなかったのでしょうか?
松浦 いえ、それは全然なかったですね。ほとんど1ヵ月前納品で、最後の11話、12話も1週間前には出来上がっていました。
―― 『SHIROBAKO』のように当日納品みたいなことはなかったんですね(笑)。
松浦 SHIROBAKO、僕はまだ見られてないんですが、実際USPの他の会社はそんな感じになってしまっていますからね。想像できますよ(笑)。僕たちはCGなので、何が起こるかわからないんです(したがって余裕を持ったスケジュールを事前に立てる)。それに、急に巻けませんし(手描きのような人海戦術が不可能)。
―― 009同様、内製ですよね?
松浦 アルペジオでは若干外注もお願いしましたが、ほとんど内製です。CGを作っている人たちはとても優秀なんですね。そして制作チームを束ねるディレクターがスケジュール管理にも高い意識を持って臨んでいます。
従来と同様、制作進行も置いていますが、彼らは若くまだフル3DCGの工程の細部までは把握できていないというのが正直なところです。当然、アニメーターを手配するといった「人の管理」まで手が回ることもありません。
―― 制作進行も立っているけれど、各話ごとのディレクター=従来のアニメでいうところの作画監督(作監)が結局進行管理の大部分を担っているのが現状、ということですね。
松浦 そうですね。彼らはCG制作にも明るいのでクオリティーチェックだけでなく工程管理までできるんです。とはいえ、テレビシリーズをフル3DCGですべて手がけるのは初めてですから、やはり模索というか、最後は転がりながらゴールに入ったという感じでしたね。作れる、という自信はありましたが。
―― 前回のインタビューでは、作業の役割分担を明確にするため、CGソフトのメニューを敢えて各担当毎に制限するというお話が印象的でした。
松浦 はい。その体制でアルペジオも制作を進めました。ただそうやっても、誰がやるべきかというグレーな部分はどうしても残ってしまいます。そこを差配するのがディレクターの役割であり、責任でもありますね。
制作進行は「やってください」と言うしかありませんが、ディレクターは責任をとって最後は自分で作業することができますから。
とはいえ、これは初めての挑戦のなかでの話ですし、(アルペジオを経ることで)制作進行も含め組織の体制や意志伝達経路も整ってきたという手応えがあります。次のテレビシリーズでは、より従来のアニメの作り方に近い形で進められるのではないかと考えています。そうなることで、CGアニメーターたちは、よりクリエイティブに特化して作業できるようになるはずです。
―― よくテレビアニメはのべ数百人体制で制作、といったことが言われますが、アルペジオの場合は何人くらいの体制で取り組んだのでしょうか?
松浦 約10人のチームを3班、厳密には2.5班くらいの体制でした。最後の3班目は人手が足りなかったので外注を使ったり、他の2班が終盤はヘルプに入ったりして進めましたね。
―― 1班=1話分を作る集団と考えると、10名というのはずいぶんコンパクトですね!
松浦 撮影は別チームですが、それでも圧倒的にコンパクトです。この体制ですと、アニメーター1人につき計4話分/シリーズ通して100カットを手がける計算になります。100カット積み上げて作っていくと、アニメーターも監督や演出の求めるモノをわかってきますよね。ですから後半にいくほどリテイクがどんどん少なくなっていきました。最終話(12話)なんか凄く早かったですよ。
01:40前後から第12話の映像が使われている。メンタルモデル同士の戦闘などアクションシーンが盛りだくさんにもかかわらず制作はスピーディーに進んだという。
―― 12話はかなりアクションや人情芝居などの複雑なカットも多いのに、それは意外です。
松浦 もちろんリテイクはありましたし、最終話ということで人数も掛けてはいるんですが、それでも1ヵ月半くらいで完成させていますね。
―― 関わるアニメーターもそれぞれが100カットを積み上げてきたので「わかっている」わけですね。
松浦 そうです。
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