昔「インディーズ」、今「同人」
── pixiv側ではどんな状況だったんでしょうか?
清水 僕たちも、クリエイターをもっとサポートしていきたいという思いがあって、昨年12月からpixivユーザーが簡単に自分のショップを作って作品を売ることができる「BOOTH」というサービスを始めました。そのターゲットユーザーの中に、音楽クリエイターももちろん入ってて、ぜひ使ってほしいと強く感じていたんです。さらに遡ると音楽系サービスの構想もあったんですが、実際そこにpixivと全然別の人たちがきてくれるというのは難しそうだった。
片桐 そう。2年前とかは、プレイヤーまで作っててリリースしようとしてたんだよね。
清水 SNS的な、ピクシブの音楽版。
片桐 でも、なんか微妙って(笑)。完成まで持っていくモチベーションをキープできなくて。そういう意味で言うと、「Cure」をpixivが買う前に、コスプレのSNSみたいのも途中まで作ってやめたこともあったね。
── なぜ中止したのでしょうか?
片桐 面白くないし、今までの音楽のSNSとそんなに変わらない。それをpixivがやったからって、うまくいく感じがしなくて。いい音楽がアップロードされる気がしなかった。
AnitaSun 無償でアップロードする場はニコ動にあるので、同じことをやっても戦いにしかならないですし。
── 司馬さんにもお話を聞きたいのですが、CINRA側でどんな感じでサイト制作を進めていったのでしょうか。
司馬 3日間限定のコミケという話を聞いて、フェスに近い感じなのかなと思い、ステージみたいなのが横に並んでいるようなデザインで作っていたんです。そのラフを見せたら「違う」となりまして……。
AnitaSun こちらにも俺ッジヴァンガードなどの構想があって、行き違いがいっぱいあったっていう。無駄な手間をお掛けしてしまって、そうとう恨まれるんじゃないかと。
── じゃあ、AnitaSunさんのアイデアに合わせたという。
司馬 AnitaSunさんの思いや目指したいこと、CINRAの中にあった音楽フェスティバル感と同人音楽の違いをしっかり説明していただいて、なるほどと理解してつくっています。
── 普通の音楽フェスとは全然違いますからね。
AnitaSun しかもフェスじゃなくて、即売会ですからね
司馬 単に聴ければいいじゃなくて、買ってもらって、サークルの次の活動につなげられたらいいよねと。特にどのように買ってもらうかが重要だったんです。
AnitaSun 購入してもらうときに、しつこいぐらいコメントを書かせるんですよ。最初はコメントを書かないと買えないようにしようとしたんですけど、それやるとサークルの売上がわかってしまうのでやめました。
片桐 定型文でもいいから書いてほしい。
司馬 インディーズバンドのライブに行って、アーティストに直接会って「いつも聞いてます」みたいな。そういうところで、APOLLOはウェブだけど、ウェブで終わらないものにするために試行錯誤しています。
── そもそもの話になりますが、同人音楽の魅力ってどこにあると思います?
AnitaSun 制限がないところですよね。具体的に言うと、売れるから作るんじゃなくて、供給がないから作るんです。
── 俺がほしいから、俺がつくる。
AnitaSun そうです。例えばですけど、「インド人500」……100だったかな?っていう写真集があって、500円でインド人のおじさんを500人見られる。「オッサン1人1円」っていう触れ込みで売っていて、あっという間に売り切れてました。わけがわからないですよ。
── すごい(笑)
AnitaSun 変なものがいっぱい並んでるんです。情熱だけで作った半年かけて作った100ページぐらいある漫画が、普通に500円とかでポンポン売られてるわけです。読んでみたらすごく面白い。音楽でも、商業じゃなかなかプッシュされないようなジャンルで面白いものがいっぱいあります。
── 同人って言われると、なんとなく二次創作と連想しがちですが……。
AnitaSun 音楽はちょっと違うんです。
清水 同人って言うとみんな二次創作っていうイメージがついちゃってるけど、決してそういうわけではない。インディーズと似てますよね。
AnitaSun インディーズそのものですよ。以前はインディーズで、今は同人なわけです。
── ラベルが変わっただけっていう?
AnitaSun 多くの人は活動場所が変わっただけで、昔は例えば「イカ天」とかにいたんです。今はコミケだから、売れるためにジャケットが女の子の二次創作イラストが中心になってますけど。
(次ページでは、「ウェブで完結せず、リアルを楽しくするデザイン」)