クアルコムは今日16日、同社のバイスプレジデント ストラテジック ディベロップメントのクリス・ボローニ=バード博士による自動車とネットワークの将来像に関する説明会を行なった。
クリス氏はもともと自動車メーカーのGM車において、EN-V(ネットワークに繋がった電気自動車)のディレクターを務めていた人物で、小型バッテリーと効率のいい自動運転によって先進的な都市型移動手段を実現することに注力していた。今回、クアルコムに移籍し、同社の先進的なワイヤレス技術を用いて、ワイヤレス充電や、車両間のワイヤレスサービスなどの研究をしている。
「これまではクルマからクルマだったが、これからはクルマから人の時代。インフォテイメントと呼ばれるこの分野はスマホに近い。すでにアメリカのデトロイトでは実験も始まっている」と、クリス氏。クルマ間の通信だけでなく、Wi-FiやBluetoothを通じて、クルマの接近を歩行者のスマホに知らせたり、逆に歩行者が死角にいてもドライバーに教えてくれるなど、このような安全技術がデトロイトで3000台のクルマを使ってテスト導入されている。新車だけでなく、中古車にも導入できるようにしていくのが今後の課題のひとつだという。
車両通信に特化して設計された双方向(一方向)無線技術「DSRC」(Dedicated Short Range Communications)は、アメリカとヨーロッパでは周波数5.9GHz帯で使われているが、日本ではETCなどのために5.8GHz帯が使用されている。この周波数帯を使えるかどうかは、まだ未定だが協議は続けていくとのこと。
交通事故により、1年間で120万人も道路上で亡くなっている。ゆくゆくはバイクや自転車とも繋がるようにして、路上の安全性と渋滞などを減らしていくのも目的のひとつだとクリス氏は語った。このシステムはスマホにも搭載できるのだが、常にDSRCで通信していると電池があっという間になくなるし、ひとつのエリアに多くの人が集中した場合のトラフィックなど、まだまだ解決しないといけない問題は山積みだ。例えばスマホに関しては、屋内などクルマに出会わない場所ではDSRCを自動的に切るなどのエコ技術が必要になってくる。クアルコムはこれらの事実を把握したうえで、解決策を研究開発中だという。
また、無線技術を電気自動車の充電にも使う技術「Qualcomm Halo」も現在実証実験中だ。デトロイトの街中に電気自動車用のワイヤレスチャージャーを埋め込み、指定の場所にクルマを止めるだけで充電が開始されるシステムを運用している。従来の電気自動車のように充電スタンドにあるケーブルをクルマに差して充電、という流れが必要ないため、インフラさえ整えば生活を劇的に変えるだろう。これが普及すれば充電池を小型化でき、コストも安くなり、移動しながら充電できるようなテクノロジーも生まれるだろうと、クリス氏。
同社は来年からスタートする、EVフォーミュラを使ったレース「フォーミュラE」に技術提供をし、セーフティーカーにワイヤレスチャージャーを搭載し、テストを始める。サーキットにも充電システムを設置するそうだ。
なお、日本にこれらの技術が導入されるかどうかは、まだ未定だという。