角川マガジンズから、EPUBの限界に挑む非常に意欲的な電子書籍が発売された。アーティストとして活躍する柴咲コウのビジュアルブック『Ko Shibasaki Lyrical*World(リリカル*ワールド)』だ。
一般書籍並みの全185ページというボリュームに、600枚以上の写真とロングインタビュー、ミュージックビデオ11本を含んだ全60分超もの映像作品を詰め込んでおり、ダウンロード価格は2600円。ダウンロード容量は1.3GB。40インチ程度のテレビ画面に出力しても十分楽しめるほど、高クオリティの美しいビジュアルブックに仕上がっている。
それだけではない。素晴らしいのは、ともすれば並べるだけになりがちなデジタルコンテンツを書籍全体に違和感なくちりばめ、彼女の作品イメージに寄り添うように”忍ばせて”いる点だ。
今回のために撮り下ろされた32ページのグラビアページには、何が起きるかわからないシークレットコンテンツがあらゆる場所に眠っている。写真の合間から表情やメイクの違う写真が出現したり、アイコンが動いたり、鏡で服を選ぶ彼女をタップすれば、彼女の服が変わるといった具合に。
"ここをタップ!"といった案内は一切ないため、想定していない場所で、ふいに新しい彼女と出会える喜びがある。ふとタップしたことによってまるで自分が彼女の意識に溶け込むかのように、柔らかい光に包まれていく姿を見たときには、同性ながら思わずときめいてしまったほど。
また、この『リリカル*ワールド』のために書き下ろされた5編の詩は、それぞれ独立したビジュアルコンテンツとして収録されている。たとえば何もない空間をタップすると言葉が出現し、そのまま重力に引っ張られるかのように、ゆるりと落下して崩れていくというもの、彼女の朗読を聞きながら触って動かすことができる絵本、音楽とともに少しずつ変化していくページなど、観ている人をその詩の持つ世界観に引き込み、読者を飽きさせない。
それは1冊ずつ単体アプリとして提供しても十分喜ばれそうなもので、これらはすべて言葉を非常に大切にするアーティスト、柴咲コウさん自身と開発者が何度も話し合い、詩の持つイメージを崩さぬよう、愛情をこめてつくりあげたものだそうだ。
そのほか、個人的にとても好きなのは、ロングインタビューの導入部分。彼女が実際にインタビューで話している姿が冒頭で再生され、そのままの流れでテキストを読み進められるため、本当に彼女から話の続きを聞いているかのような感覚を味わえるからだ。テキストの大きさやフォントにも気を使っており、iPhoneサイズでも読みやすいよう工夫されている(でも折角ならHDMIでTVに出力して見ると楽しいと思う)。
意欲的な電子書籍というと、ビジュアル要素が強すぎて実際はテキストが読みづらかったりするものだが、もともと編集に別冊カドカワが携わっていることもあり、書籍としての読みやすさも折り紙付き。
ディスコグラフィー部分ではミュージックビデオを再生したり、気に入った楽曲をリンクから購入(通販かiTunes)可能だ。あまりに快適なので忘れがちだが、これだけのコンテンツを収録し、動画再生から拡大表示、目次出しやページめくりなど、すべての作業がiPad上でストレスなく動かせるのは地味に凄い。これはリッチコンテンツ制作に二の足を踏んでいた制作者側にとっても、非常に魅力的な体験になるだろう。
ちなみに5月29日からスタートするコンサートツアー『Ko Shibasaki Live Tour 2013~neko’s Live 猫幸 音楽会~』を訪れ、会場でゲットできるシークレットナンバーを入力することで特典をダウンロードできるといった、ファンに嬉しい連携サービスも用意されている。
会場で販売されるツアーパンフレットなどが20~30ページで3000円近い値段がすることを考えると、これだけの内容を詰め込んでの価格2600円は、恐ろしく安い。電子書籍の魅力をこれでもかと体感できるビジュアルブック。今、本気でオススメできる一冊だ。
- 『Ko Shibasaki Lyrical*World』
- 著者:柴咲コウ
- 配信日:2013年5月22日(水)
- 配信プラットフォーム:iBookstore
- バージョン:0.1.1
- App Store価格:2600円
- (バージョンと価格は記事作成時のものです)
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