「客観的に見て、日本のデジタルマーケティングは遅れています」
楽天で、ウェブアナリティクスマネージャーを務める鈴木浩司氏は開口一番こう語った。7カ月前まで英エレクトロコンポーネンツ社に務めていた彼が、アクセス解析のプロフェッショナルとして楽天にやって来たのはなぜか。
「楽天は、市場を始めとしてトラベルや銀行、証券といった40以上の独立した事業を抱えていますが、どのビジネスでも共通のアクセス解析方法を取り入れています。私が所属する編成部は、40以上の事業のアクセス解析に横串を通す規模の大きい業務ということで、ウェブアナリティクスの観点から非常にやりがいのある環境だと思っています。そして、遅れている日本のデジタルマーケティングの中でも、最先端の取り組みと意気込みを感じるのが楽天ですね」
楽天のアクセス解析チームの人数は明かされないものの、日本で3本指に数えられる規模だという。彼らは事業やウェブサイトの育成度を3段階に分類しており、それぞれで使うツールを使い分けている。
「市場やトラベルといった成熟している事業は、『Adobe Discover』を使ってマルチセッションやマルチデバイスの計測をしています。とはいえ、まだ取り組みを始めて日が浅いので、成果というにはまだ時間がかかると思います。その一方で、新しく立ち上がった楽天ソーラーなどは、基礎から始めないといけない。『Adobe SiteCatalyst』を導入しているか、導入していればKPI(重要業績指標)を設定しているかを精査します。そしてサイトを訪れるユーザーが実際にアクションしているのか、『Adobe Test&Target』を用いてABテストを繰り返し、ビジネスに結びつけています。ここで重要なのは、我々が主導権を握るのではなく、事業を担当する社員が仕組みを理解しながら実践すること。いわば我々は、社内のウェブアナリティクスを鍛えて育てる存在なのです。しかし、ツールを導入してデータを集めてあとは勝手にどうぞとはいかないので、実際はウェブアナリティクスチームが事業の担当と一緒に取り組んでいます」
アドビ システムズが米国で開催したサミットで基調講演を依頼されるほど、楽天はデジタルマーケティングツールに精通している。
「アドビ製品抜きでアクセス解析は語れません。ビジネスのリポーティング形態に関して言えばSiteCatalystは素晴らしいです。しかし、ユーザーインターフェースがスペシャリスト向けに作られており、アクセス解析の知識が少ない社員が使うには難しい。個人的な意見ですが、今後は、ユーザーインターフェースがシンプルなエントリーモデルと従来のスペシャリストモデルの2パターンを用意してもらいたいですね。『Adobe Photoshop』に『Elements』版が用意されているのと同じようなビジネスモデルです」
鈴木氏の理想は、ユーザー層に合わせたある程度の勝ちパターンを確立することだという。それを実現するため、アクセス解析チームの人材に求めるスキルを3つ挙げた。
「まず、SiteCatalystを使ったノウハウや経験は欲しいところです。次に我々の部署はツールの導入だけでなく、解析結果の動向から実際のビジネスへ引っ張るコンサル的なスキルも必要。SIerの経験者でも、ツールの導入から事業側と一緒にビジネスへ繋げられる人材はなかなかいません。そして最後の条件は、楽天なので『英語』です。社内の英語化を目指している先には、国内のノウハウで海外に打って出るということがあります。しかし、デジタルマーケティングに関しては、言語だけでなく現地文化や習慣にも精通していないと難しいでしょう。例えばイギリスでは『Buy Now』といったダイレクトなキーワードが好まれます。しかし、同じコピーをフランスでそのまま使うと、クリック数が下がってしまう。フランス人は命令されていると感じて敬遠してしまうからです」
究極のデータドリブンカンパニーを目指す楽天。40以上の事業を横展開で結ぶウェブアナリティクスチームは、楽天のグローバル路線を加速させる重要な部署なのだ。
アスキークラウド最新号特集
『Amazon』翌日配達を発想する「利益無視」経営
「Amazonは今や単なる「便利なオンライン書店」ではない。1995年に創業したベンチャー企業は小売業の枠を超え、物流サービス、クラウドサービスも提供する売上高5兆円以上の巨大企業ら成長。「価格破壊」を武器にオンラインからオフラインまで業界を問わず成長しつつある。アマゾンはなぜ急成長できたのか? 迎え撃つ日本企業の動向にも迫った。