“おおかみおとこ”はなぜ野垂れ死んだのか?
―― “おおかみおとこ”に関しては、なぜ、そのような描き方になったのですか。
実は僕にもわからないんです。ただ、僕はプロデューサーとして、なぜおおかみおとこを野垂れ死ににさせたのかを把握していかないと宣伝の方針も立たないし、自分の心の中でも納得がいかない。だから、自分なりの解釈は持っていました。
「おおかみこども」のベースに、「才能」の話があると思います。
僕個人の解釈になるんですけど、 “おおかみおとこ”という人は、ニホンオオカミという「才能」を引きついでいた。でも、それを捨てて人間として生きることを決意した人だった。そのために大学で哲学を受講するほど、深く考えて決意していたはずです。
ところが、そのもぐりこんでいた大学で花と出会った。ふたりで生活を始めたときに、彼が何をしたかというと、子どもたちに食べ物を与えるために、もう一度オオカミという「才能」を使って狩りをし始めた。つまり、一度は捨てたはずの才能に、もう一回賭けちゃったんですよね。彼は才能を捨てたはずなんです。ところが結婚したとき、軽率にもう一回使ったがゆえに野垂れ死にをしてしまった。そう感じたんです。
―― 捨てた才能をもう一度使うのは、どうしていけないと思うのでしょうか?
僕が思う「才能」というのが、「自分自身が本来持っている自我を貫くこと」にも見えるからなんでしょうね。往々にして社会の規範に従って暮らすことと、自我を貫くことは対立関係にあるんじゃないかなと。幸運な例外もあるとは思いますが。おおかみおとこは、社会に順応するために一度捨てた本来の自我を、もう一度取りに戻ってしまった。その彼の迷いの結果が野垂れ死にだったんじゃないかと思うんです。
―― 社会と自我の対立、ですか。
はい。才能を優先すれば、リスクが必ずついてくると思う。たとえば細田監督自身も、単身で富山から出てきて、サラリーマンを選ばずに、どう転ぶかわからないアニメーションの道を選んだ。それはやっぱりリスクと裏表だと思うんです。才能のおもむくままにリスク覚悟で突き進むか、それとも、もっと真っ当な道を行こうと思って社会になじもうとするのか。それが、「おおかみこども」で雪と雨がした“選択”の分かれ方だと思ったんです。
(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
―― 作品では、雪が「人間」に、雨が「おおかみ」として生きる選択をしますね。
母親の花は、子供たちに「おおかみ」として生きるか、人間として生きるかあなたが決めなさい」と言うんだけど、それは、父親が(おおかみを選んで)野垂れ死んだことをわかっていて、その上で選ばせるんですよね。
「おおかみ」を選んだ雨の選択は、とてもリスクが高いけど、それでもやっぱりあの山の中に消えていった雨というのは、富山から単身アニメーションの世界に行った細田監督自身と重なると思います。
僕も昔、フリーランスのライターという人生を選ぶか、社員として会社に入るかという選択をしたことがあったけど、結果、野垂れ死になりそうだと思って会社員を選んだ。それでも、故郷に自分の両親を置いて、妹に全部任せて東京に出てきてしまった自分自身と雨の生き方が重なった。やっぱりもう故郷には戻らないって、結果として覚悟はしてきたんですよね。
そう思えば他人ごとではないし、プロデューサーとしても、「『おおかみこども』のテーマは自分自身の中にある」と言えると思います。
(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
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