インターフェイスを作る時には 「攻殻機動隊」断ちをした!
――そもそも論なんですけど、このインターフェースを考えだしたのは何がきっかけだったんでしょうか? ネット上だと、これは攻殻機動隊の映像の中に出てくるインターフェイスそっくりじゃないかという話がありますよね。
ええ、ありますね。
――絶対に作った人間はファンに違いないという声もあったのですが、正直なところどうなんですか?
デザイン自体は私が考案したのですが、もちろん攻殻機動隊は大好きです(笑)。ただし、この可視化エンジンを作る時に攻殻機動隊の映像を見てしまうと、それに引っ張られてしまう。やはり攻殻機動隊で描かれているサイバー空間のイメージは相当強烈じゃないですか。実はこれを作っている間、攻殻機動隊は絶対に見ないようにしていたんです(笑)。
――あははは(笑)。そうなんだ!
むしろ、「トロン」とか「ウォー・ゲーム」などの、もっと源流にさかのぼった作品をよく見ていました。さまざまなSF作品で使われているインターフェース、あるいは視覚化されたサイバー空間のエッセンスを抽出してきて、可視化エンジンに反映させたんです。それで、Twitterなんかで「攻殻機動隊だぁー」と言われて、非常にうれしかったです。実はもっと「攻殻機動隊のパクリだ!」と言われるかと思っていたんですけど、意外にそう言う人はほとんどいませんでした。やはり、攻殻機動隊の世界観や雰囲気を取り込んではいるんですけど、単なるコピーではない。組織のネットワークをリングで表すとか、インターネットを球体にマッピングするとか、そういった具体的なオブジェクトは今回のために考案したもので、それらを組み合わせて新たな可視化表現にチャレンジしたつもりです。ちなみに色味とかそういう部分は「トロン」をイメージしています(笑)。
――(笑)初代トロンではないですね? 初代トロンはもっとグリーンディスプレーをイメージしたものだった気がしますが。
そうですね。たとえばグリッドが縦横に入っているところ。このグリッドは何の意味もないんですけど、これはトロンへのオマージュです(笑)。SF作品のいろいろなエッセンスを抽出して、そういうものを使ってサイバー空間を表現してみようというのが最初のとっかかりの部分ですね。
――技術者から見て、トロンとか攻殻機動隊のサイバー空間のイメージですが、あれは相当正確だと思いますか?
正確かどうかは別にして、未来を予見していると思います。情報が目まぐるしく飛び交っている中で、空間を俯瞰的に見せるとか、あるいは細部に拡大しながら没入して行くとか、こういう可視化表現はいろいろなSF作品で使われていて共通言語化しています。世の中の人が反応してくださっているのは、皆さんが持っているSFのAPIというのでしょうか、心の中のAPIをポチっと押すことで、それぞれのSF観がインスパイアされて「ああ、これは!」という作用を及ぼしているからだと思います。だから攻殻機動隊だけではなく、私が知らないいろいろなSF作品を例に出されて「アレだ!」と言われている人も大勢いらっしゃったのですが、それってSFのエッセンスを抽出できているからじゃないかと思うんです。
――実際の話、このDAEDALUSのアイディアを思いついたのはいつ頃なんですか?
NICTは毎年INTEROP Tokyoに出展するのですが、開催前にINTEROPのShowNetを運用する“NOC(Network Operation Center)”に3週間前くらいから技術者や研究者を送り込んで、幕張軟禁状態でネットワーク構築などをやるんですね。そこは顔なじみのネットワーク技術者たちの集まりで、その中で「今年は何が新しくなったんだよ?」と問い詰められるわけです。
――それはきつい。軟禁状態で問い詰められると逃げられないですからね(笑)。
今回はDAEDALUSというアラートシステムが題材としてあったわけです。去年まではシステムとして存在はしていたのですが、Webインターフェースがメインだったので、あまり見た目はおもしろくない。で、世界地図とかそういった可視化ではなく、爆発的に新しい可視化エンジンを作りたいなという思いがありました。
――これは何で作っているんですか?
基本的にはC++と、あと3DのライブラリはOpenGLです。可視化マシンは汎用のデスクトップ機で、グラフィックカードは2、3万円くらいのNVIDIAのちょっといいカードを積んでいます。
――で、これだけグリグリ動くのですね?
結構グリグリ動かすためにいろいろなノウハウが詰まっていたりするんですよ。
――ま、そうですよね。途中で固まってしまったらこれは意味が無いわけですからね。
そうなんですね。nicterにはいろいろな可視化エンジンがあるわけですけど、24時間365日手放し運転でも絶対に止まらない、落ちないというところが一番こだわっているポイントなんです。例えば大量のトラフィックが来るたびに落ちてしまったりすると、肝心な時にオペレーションできない。絶対に落ちないということが格好良さの前にあります。意外にそこが大変だったりするわけです。
――これ、グリグリと3Dで動いているわけじゃないですか。演算をずっとやっているわけですよね。変な話、ビデオカードが熱くなるとかは……。
もちろん。ずっとそこで動いていますよ。
――えっ、これ? この自作マシンですか?
いい音を立てていますよね。今のところ落ちることなくずっと動いています。DAEDALUSの可視化エンジンはNICTの技術者が全てインハウスで作っているんです。逆にそういう作り方をしておかないと、ここまでかゆいところに手が届くというか、自分たちの思い通りの可視化エンジンはできないんです。可視化エンジンを開発する際の時間感覚って「この部分をちょっと直して」というと30分くらいで直して、また確認して……というインタラクションをやっていくのですよ。
――そんなに短いんですか!
それくらいのタイミングでやらないとここまで詰まっていかないんですよね。
――DAEDALUSを作ったのはどれくらいかかったんですか?
えっと、大体2ヵ月くらい。
――2ヵ月でここまでいけるのですか!
もちろん内部で使っているクラスとかそういうものは、先ほど見ていただいたAtlasなどで使っているものがベースになります。結局3Dオブジェクトを飛ばすとか、クリックするとか基本部分は共通なのですが、そういう共通の仕組みを使って別のビューを作るのに2ヵ月くらいかかっています。
――一緒にやられているプログラマーは相当優秀ですね。
そうですね天才プログラマーです。研究室には15人くらいメンバーがいるんですけど、このDAEDALUSの可視化エンジンに関しては秘密プロジェクト的な感じで進めていました。
――おっ、なんでまた?
黙っておきたかったんです(笑)。こういうのは基本的に、結構感覚的な部分ってあるじゃないですか。だからスモールなチームでやりたかった。可視化部分は2人、私ともう1人の技術者で作りました。あと、バックエンドの検出エンジンとDBの開発にもう1人技術者が動いています。
――内緒でコショコショっとですね。
2ヵ月くらいコショコショ話しながら作って、INTEROPに入る数週間前に研究室のメンバー全員にプロトタイプを公表したんです。
――で、反応はどうでした?
全員どん引きでした(笑)。
――何でまた?
やり過ぎですって(笑)。とは言え、斬新さっていうのは感じてもらえて、ただ残念なことにウチの研究室ってあまりSF好きな人がいないんです。
――あ゛~。
だから「これ、何でリングが周りでクルクルと回っているんですか?」とか聞かれて、そういうところから説明をしなくてはならなくて。
――夢のない会話がそこであったわけですね(笑)。でもこれを知っている人が見ればこれはすごいと思うし、よくここまで考えたと賞賛しますよ。じゃあ、INTEROPに出すことになって、反応がいろいろ返ってきたわけですよね。何か身につまされるような意見ってありました? なにかこういう風にしてほしかった!とか。
一番最初、6月6日にNICTからプレスリリースを出した時に、この「警」の文字がゴシック体だったんですね。で、Twitter上でたくさんの方から「なんで明朝体ではないんだっ!」ってご指摘を受けました。
――すみません、よくわからないんですけど、どういうことですか?
そのGeekというか、オタクの人達にとっては明朝体がエヴァンゲリオンのイメージなんでしょうね。
――なるほど! あ、このネットワークの丸い形とかもゼーレのモノリスみたいですよね。
まあ、そういうエッセンスも取り入れているんですけど、残念ながらそのタイミングではゴシック体だったんですね。で、お叱りの言葉を多数いただいて。
――エヴァで使っていたのは普通の明朝ではないですよね。
マティスEBですね。さすがに、そのフォントは使わなかったですが、明朝体にはすぐに直しました。そのあたりはSNSからいろいろとフィードバックをいただいて、できる部分は反映させています。
――でも、このいくつもの円が回っている状況はここでしか見られないわけですよね。
そうですね。
――だと、おまえらの意見を集約したって、おまえら見られないじゃんっていうことですね。
そうなんですよね。だからINTEROPの会場でぜひ見てくださいということで。