目指す音のためにユニットから自社開発
ソニーのバランスド・アーマチュアはこんなに違う!
ソニーと言えば、「ウォークマン」の名を出すまでもなく、ヘッドホンでは外すことのできないメーカー。業務用や放送局用のモニターヘッドホンをのぞけば、小型で気軽に使えるコンパクトなヘッドホンなど音楽用として使えるわけがないと思われていた時代に、初代ウォークマンでその常識を打ち壊したメーカーだ。
そんなソニーは昨年、コンパクトなインナーイヤー型のドライバーユニットとして注目を集めるバランスド・アーマチュア(BA)採用の「XBA」シリーズを発売した。シングル型の「XBA-1SL」(実売価格4000円前後)から、4ユニットを内蔵した「XBA-4SL」(実売価格2万円前後)の4モデルのほか、ノイズキャンセル型、スマホ用のマイク/リモコン付きとバリエーションも多い。
BA型は、もともとは補聴器用のドライバーユニットとして使われていたものだが、ライブステージなど、プロの現場でイヤーモニターとして使われはじめ、今では音質に優れた高音質ヘッドホンとして人気だ。
弱点としては、周波数特性が狭いため複数のユニットを使うのが一般的なところ。また、ドライバーユニットを生産しているメーカーが少なく、ヘッドホンのメーカーが違っても同じBA型だと似た傾向の音になりがちというのも、ブランドによる音の違いを楽しみたいという人には物足りないだろう。
そもそも、どうしてBA型のユニットを自社開発することにしたのだろうか? 3ユニット内蔵の「XBA-3SL」の音響設計を担当した大里祐介氏(ソニーエンジニアリング株式会社 設計2部1課)に話を聞いてみた。
大里:「BA型の小ささはインナーイヤー型には最適で、ソニーとしても注目はしていました。しかし、外販のBA型ユニットはソニーの目指す音とは違っていましたし、チューニングによる音作りの余地も少なかったのです。そこで、一から自社開発することになりました。一般的なBA型は手作りの工程が入るなど、生産性にも問題があったので、最初から容易に量産できることも重視ししています」
そのBA型ユニットを見てみると、細かい部分がよく知るBA型ユニットとは随分異なっていることがわかる。一般的なBA型ユニットは、ボックスの短辺側にポートがついていて、音がそこから出てくるようになっている。しかし、ソニーのBAはボックスのヨコにエアダクトが空いた形をしている。
大里:「音の出口をエアダクトとしたのは、その方が高域の伸びがよくなるからです。BA型の弱点である周波数特性の狭さを解消し、広帯域なBA型とするためです」
そのほか、ユニットの配置の自由度が高いこと、ハウジングなどと組み合わせて音をチューニングできるなどの特徴も実現している。ちなみに、BA型には高域用、低域用などが組み合わされているが、基本的な作りはどれも同じで、高域用、低域用の違いは振動膜の厚みやエアダクトのサイズなどの違いによるものだそうだ。
大里:「音作りも、基本はシングルBA型で、そこにユニットを追加していく考え方です。これも広帯域なBA型ユニットを開発できたために、実現できました」
実際にXBAシリーズを聴くと、シングルBA型のXBA-1SLでも音楽用としては十分な帯域をカバーしており、単体ではあまり不足を感じない。それが「XBA-2SL」(ウーファーを追加し低音を強化)、XBA-3SL(さらにツイーターを追加)となるにしたがって、低域や高域がより広がっていくように感じる。XBA-4SLは、さらにスーパーウーファーが加わった構成になる。
それぞれのユニットは、ちょうど製品の後ろに見えるユニット数を示すマークのように配置されているが、その配置も互いの干渉を抑えるように配慮されている。ちなみに、3ユニットのXBA-3SLの場合は、上からフルレンジ、ツイーター、ウーファーの順で重なっており、基本的にツイーターが音道に一番近くなるように配置しているそうだ。
BA型ユニットの開発では、最初は音すら出なかったというくらいで、実はBA型が一般に認知され始めた3年前には開発が始まっていたという。ようやく昨年に完成したわけだが、その出来映えには自信があるようだ。
大里:「ソニーは新しいものを生み出していくメーカーですから、BA型もさらに開発を進めて面白いものを作っていきたいですね。いろいろとアイデアも出ていますし、それに合わせた設計変更がしやすいというのも自社開発の強みです」
大里さん個人としては、BA型のモニターヘッドホンも出してみたいという。それくらいの実力はあると自信たっぷりだ。今後もきっとユニークなBA型ヘッドホンが出てくるはず。そのあたりも楽しみだ。
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