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IPv6への移行は2000年問題に似ている?

世界初の通信事業者AT&TはIPv6にどう向き合うのか

2012年05月02日 06時00分更新

文● あきみち/Geekなぺーじ

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 AT&Tは、電話の発明者グラハム・ベルをルーツに持つ、世界初で世界最大級の通信事業者である。IPv4アドレスのストックが枯渇し、IPv6への移行が進む昨今、同社IPv6に対してどのように取り組むのか。「Geekなぺーじ」のあきみち氏が、AT&T研究所のトム・シラクサ氏(Executive Director,VPN Strategy, AT&T Labs,Inc)に行なった単独インタビューの模様を紹介しよう。

インタビューはテレビ会議で行なわれた。テレビ内左側の人物がトム・シラクサ(Tom Siracusa)氏だ

AT&TはIPv6をどこまで考えているのか

 AT&Tは、モバイル通信が1億契約、ブロードバンド接続が1650万契約、そして世界中の従業員数が25万人以上も在籍する巨大な通信事業者です。インターネットの世界でも、ISPに対してトランジットによるインターネット接続サービスを提供する「Tier 1」企業であり、その動向はインターネットの成長に少なからず影響を与える存在でもあります。このAT&TがIPv6についてどう考えているのか、Q&A形式で紹介しましょう。

Q:日本市場における御社のターゲットとIPv6によるサービスを教えてください。

 弊社が現在ターゲットとしているのは、特定の国内だけで事業を展開している企業ではなく、世界的に事業を展開する規模が大きい多国籍企業です。

 弊社のフラグシップサービスはVPNサービス、インターネット接続性提供サービスがあり、その上でホスティング、セキュリティ、VoIP、遠隔会議システムなどを提供しています。そして、顧客の1つである多国籍企業への協力の中で、私たちが深くかかわっていることが、こうした多国籍企業がIPv6へ移行するお手伝いです。

 もう少し正確に説明すると、IPv4とIPv6のデュアルスタック環境への移行支援です。弊社のフラグシップサービスは、MPLSを利用した国際的なVPNサービスですが、そのサービスはデュアルスタック環境をサポートしているのです。

 また、インターネット接続サービスのデュアルスタック、VoIPサービスやファイアウォールなどを利用したセキュリティサービスでのデュアルスタック環境も提供しています。弊社の多くのサービスが、すでにIPv4とIPv6両方をサポートしているのです。

Q: IPv6によるVPNサービスを利用するときの課題や注意点を教えてください。

 現時点では、顧客の多くは既存の環境を調査することから始める必要があります。WANやルーターのような部分だけではなく、アプリケーションサーバー、ロードバランサー、ファイアウォール、デスクトップPC、ラップトップ、ネットワークプリンターなど、その組織が持っているエコシステム全体を知る必要があります。

 私たちの業務の1つに、顧客の環境を調査した上で、どのようにIPv6化するべきかを提案することがあります。

 提案の後に実際のIPv6化を行なうわけですが、まず最初に行なうのが対外接続部分(インターネット接続)をIPv6化することです。そして、次が内部ネットワークのIPv6化で、これは徐々に進めることになります。社内で利用されているアプリケーションのIPv6化も必要です。

 まず最初に必要となるデュアルスタック化は、3年から5年ぐらい必要なプランとして考えています。最終的には完全なIPv6化へと進むと思いますが、その前に10年ぐらいはデュアルスタック環境が続くものと予想しています。

Q: IPv6に関して考えるときに、IPv4アドレス在庫枯渇問題の状況は非常に重要だと思われますが、アメリカにおけるIPv4アドレス在庫枯渇問題の現状や、それに対する雰囲気を教えてください

 私は事業のために世界中を飛び回っていますが、枯渇問題の存在は着実に認識されています。最初にIPv4アドレス在庫が枯渇したのが(アジア太平洋地域のIPアドレスを管理する)APNICですが、枯渇問題そのものは特定の地域に限定された問題ではありません。私たちがフォーカスしている多国籍企業は世界中で事業を営んでいるため、世界中で心配されている問題です。

 米国では、いくつかの企業が枯渇問題に関して危機感を持っており、IPv6化を現在検討しています。テスト用に実験環境を構築してIPv6に関する経験を得ようとしている企業もあります。

 ですが、その一方で枯渇問題に興味を示さず、否定的な企業も存在しています。私たちは、そういった企業に(IPv4の枯渇が進む)現状を知らせたいと考えています。

 また私たちは、IPv6が「新しいアプリケーションの素地」になると考えています。たとえば、新しいアプリケーション、やしいサービス、機械同士をつなぐM2M(machine to machine)などです。しかし、IPv6の最大のキラーアプリケーションは、インターネットそのものの継続的な成長です。多くの人々がインターネットはビジネスを乗せるための重要な乗り物であることを認識しています。

IPv6を巡る地域の温度差

Q:「IPv6の最大のキラーアプリケーションは、インターネットそのものの継続的な成長」とおっしゃいましたが、現在のIPv4アドレス割り振り状況を見ると、ARIN地域(主に米国とカナダ)やAPNIC内のJPNIC地域においては歴史的に多くのIPv4アドレスが割り振られており、IPv4アドレス移転などである程度の成長は実現可能だと予想できます。一方で、インドや中国などではインターネットの急激な成長を実現できるだけのIPv4アドレスが足りないと思われます。このような地域的な違いに関してのお考えを教えてください。

 よい質問だと思いますし、その意見には賛成です。

 恐らく1970年代からだと思うのですが、地域ごとにIPv4アドレスが割り振られるようになって以来、北米に対しては他の発展途上国と比べて多くのIPv4アドレスが割り振られてきました。

 ただし、多国籍企業は世界中でビジネスを展開しており、それらのビジネスが成長しているのはインドなど経済が急激に成長している地域でもあります。多国籍企業という視点でみると、それは地域的な問題ではなく、世界的な問題となりつつあります。

 多くの多国籍企業がMPLS VPNを利用して各自のネットワークを構築しています。しかし、インターネットを直接利用したオーバーレイネットワーク、すなわちトンネル技術などを利用してVPNを構築している場合は、地域的な課題の影響を受けます。たとえば、インドでインターネットに接続しようとしてIPv6サービスしかないという状況も考えられます。

 そのほか、たとえば、米国においてペンタゴン(国防総省)と取引を行なう場合にはIPv6対応が求められるというような地域性もあります。

 そこで当初の話に戻りますが、自身が抱えているネットワーク環境を把握することが非常に大事になります。私たちは、顧客に対しては最初にそういった調査を行なうことを勧めています。そうすることによって、顧客は移行を行なう時間を稼げます。

IPv6への移行方法

Q: IPv6への対応が急務になるのはいつ頃からだとお考えですか?

 もうすでに急務であると考えています。

 少なくとも、プランニングは開始すべきだと思います。IPv6に関するインターネットプレゼンスを確保するという意味でも今開始することが大事です。

 たとえば、アメリカ政府の調達にかかわる場合、IPv6対応が必須になります。そのような地域的な理由ももちろんありますが、プランを考えることはすでに急務といえます。

 もうすでにIPv4アドレス(の在庫)はないので、インターネットへの接続を継続的に維持するのであればIPv6が必要です。

Q: 地域ごとの違いに関して、もう少し具体例を教えてください

 IPv4アドレス在庫がほとんどなくなってしまったISPもあります。たとえば、アメリカでいえば、レジストリでのIPv4アドレスが枯渇したとしても、IPv4アドレス在庫がまだあるISPもあります。AT&Tは、まだIPv4アドレスに余裕があるので、IPv4アドレスが必要なエンタープライズに対してIPv4アドレスを提供することも可能です。

 しかし、世界中がそういった状況というわけではありません。東南アジアのようにIPv6を推進している国もあります。実際にそれによってIPv6が普及しているという事例はあまり見えていませんが、やはりどの地域でどういった事業をするかにかかってくると思います。

 そういった傾向はモビリティ分野でも起きています。1年後もしくはもう少し先になれば、モバイルデバイスでのIPv6利用が進みそうです。既存のIPv4インターネットへのアクセスのために多くのキャリアがNAT機能を提供する一方で、IPv6インターネットに接続された機器との通信はIPv6ネイティブで行なった方がよいというのが私の考えです。

 そうすれば、国全体が1つのIPv4アドレスの裏にあるような状況ではなく、相手が誰で、相手のIPアドレスが何であるかを知ることが可能になります。


取材者注:「国全体が1つのIPv4アドレスの裏にあるような状況」とは、CGN(Carrier Grade NAT)/LSN(Large Scale NAT)により、1つのIPv4アドレスを共有する状況を指します。ただし、細かい話するとCGNは複数のグローバルIPv4アドレスを多数のユーザーで共有することを前提としているので、実際には「1つのIPv4アドレスに全員」ではなく、「1つのIPv4アドレスを多くのユーザーで利用する」ぐらいのイメージです。

 たとえば、特定のIPv4アドレスからのDoS攻撃が発生していて、そのIPv4アドレスが1万人によって使われている場合、そのIPv4アドレスがブロックされることによってDoS攻撃とは無関係な多くの人々もブロックされてしまいます。

(次ページ、モバイルとIPv6の関係とは?)


 

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