今や音楽シーンにはなくてはならない要素となった「VOCALOID」(ボーカロイド)。初音ミクが発売され、大ブレイクを果たしたのはもう4年前の話になる。初音ミクの曲はCDとして発売されればオリコンにランクイン、カラオケに入れば上位曲を独占。CGのバーチャルライブは数千枚のチケットが即完売と、瞬く間にスターダムを駆け上がっていった。
その背景にいるのは、作曲家である“ボーカロイドプロデューサー”たち(「初音ミクをプロデュースしている」という意味での俗称)、そして、アマプロ不問の投稿(ポスト)ムーブメントを支え、ボカロ文化を育んできたニコニコ動画だ。
今年7月、そんなニコニコ動画の一角に「ボカロ音楽」というボーカロイド専門のページが登場した。このページの裏にはどんなねらいがあったのか。ドワンゴ ユーザー文化推進部 “あべちゃん”さんと、企画開発セクション マネージャーの坂本将樹さんに話を聞いた。
ボカロの文化を正しく伝えたい
── もともとニコニコ動画に「VOCALOID」タブはありましたよね。あらためて「ボカロ音楽」を作ったのはなぜですか?
坂本 発想としては、もっとボカロPにもスポットライトを当てなければという思いから来ています。ボーカロイドの曲は、そこを起点に「歌ってみた」や「踊ってみた」、動画制作などの二次創作につながっていて、ニコ動の音楽系の中心的文化になりつつあります。その発信源であるボカロPさんをもっと目立たせようと。
── ボカロPもこのごろは公式生放送などでちょいちょい出演されてますよね?
坂本 そうですね。ただ、それには限りもあるし、動画作品がちゃんとわかりやすく届くというのがまず必要なことなので。それが最初の話です。
あべ ジャンル上、ステージに立ちにくかったり、顔出ししない人も多いですから。
── そもそも、DTMが1人でパソコンの前で黙々とやるものなので、ステージとは縁遠いですよね。
あべ そうですね。なぜボカロPや、ボーカロイド全般のことをもっと知ってほしいかというと、ボーカロイドがこれから海外に知られていく際、日本のボカロ文化をちゃんと伝えたいという気持ちがあったんです。
今、海外でボーカロイドが流行りはじめている中、海外のファンの多くがYouTubeなどを通して曲に触れています。ボカロ文化が広がること自体はすごくいいことだと思ってるんですが、ただ、そこに欠けてるものがある。ボカロPの存在です。
ボカロ曲は初音ミクなどのキャラクターと共に世界に広がっているけど、単にキャラクターと曲があるだけじゃない。ボカロPひとつを取ってみても素人やセミプロ、プロが入り交じってますし、そこに絵師やMMD(フリーの3DCG編集ソフト。初音ミクがモデル)の作り手などさまざまな人がからんできて、一次コンテンツが生まれている。それが二次創作などに発展して、ボカロ文化圏を作ってるというのが根幹にあると思っています。
実はYouTubeを通してみると、ボカロPの存在を含めて、楽曲作りに誰が関わっているのかが見えづらくて、本当のシーンが伝えられないんじゃないかと。そこをすっ飛ばして表面的な部分だけ世界に広まっていくのは「あれ、これどうなんの?」という風に思っていたんですよね。クリエイターがいることを知られないまま進んじゃうと思ったんですよ。
── 確かに海外のライトなファンは、日本のボカロ文化がニコ動で熟成していった過程を知らない人も多そうです。
あべ 自分たちがまったく知られず、そこにいなかったような状態でキャラクターだけが世界に伝わっていくというのは、クリエイター側としても本望ではないだろうと。
ニコ動の場合だと、クリエイターの顔が見えやすい作りになっている。これはニコ動が単なる動画投稿サイトではなくて、クリエイターの存在が先にきているからなんです。だから将来的には、ポータルサイトでボカロPの存在を知ってもらうようにしたい。情報を的確に伝えるというのを今の段階からやっていかないといけない。それなしで世界で広がりきった後だと、もう収集がつかないという懸念があるんです。で、とにかく早急に形にした。
坂本 最初は曲やキャラクターから入るのは仕方ないと思うし、必然だと思いますが、それだけでは先がないというか……。
── YouTubeと一緒になっちゃいますからね。コメントが動画の上を流れるかどうかの違いだけで。
坂本 そう。文化の源流から伝えないとダメだという話が、根幹にあるんです。