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みんなのフィッシング |
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 「ASCII.jpのバナーをクリックしてWindows用の釣りゲームをダウンロードしたと思ったら、いつのまにかRPGをプレイしていた」……な、何を言われてるか分からねーと思うが(以下略)。
記者が恐ろしさの片鱗を味わったのは今から2ヵ月前のこと。ASCII.jpに奇妙なゲームのバナー広告が載っていたことに気づかれた読者も多かったのではないだろうか。ピンクヘアーの女の子が釣りざおを持ち、「たった一人でゲームを作っています」のキャッチコピー。もの珍しさにクリックすると、そこにはめくるめくHTMLの世界が広がっている。90年代テキストサイトよろしくギラッギラに装飾されたサイトは異常にナマっぽく、懐かしさのあまりつい記者は「みんなのフィッシング」無料体験版をダウンロードしてしまったのである(製品版はAmazonで発売中)。
ところがだ。
いざゲームをはじめると、タイトルを完璧に裏切り、中身は釣りゲーではなくRPGだった。モンスターが魚で、倒せば釣ったことになるというまさかの新ジャンルだ。攻めているのはジャンルだけではない。戦闘中に魚が暴れだすと、釣りゲー的なリールアクションを求められる。召喚魔法を使うとなぜかミニゲームが始まる。テーマは釣りなのに、いつしか星と宇宙をめぐる壮大なストーリーに巻き込まれ、それを厳粛な交響曲が盛り上げている。
わけがわからないよ…… |
「こんなの絶対おかしいよ!」と躍起になった記者は広告部のIさんを問いつめ、広告主であるところの社主を突き止めるに至った。どうも神奈川に住む、安田みきやさんという男性らしい。さっそく男性と連絡をとり、神奈川行きの切符を買った記者は、急行電車に揺られながら、ひとつの疑問にかられた。安田さんとは某ちゃんねるの伝説的な“釣り師”(それっぽいウソをつく人)で、記者はまんまと釣られているのではないか?
「アスキーマジで取材キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!」「>>1 ちょwwww釣れすぎwwww」「安価キタコレwwwww」など、次々とネットジャーゴンが浮かんでくる。絶対に釣られてなるものかと、記者は待ち合わせ場所に向かったのである。
「初めまして」とていねいな挨拶をしてくれた安田さんは、メガネの似合う昭和風ナイスミドルだった。
35度を超える猛暑日にもかかわらず、パリッとしたストライプのシャツにネクタイが決まっている。記者は社用車(自家用車だろう)の後部座席に乗せてもらい、さっそく事務所に向かう。緊張の面持ちで車に揺られること約10分。車は小高い丘の上にある、一軒家の前で停められた。
「ここが会社なんですよ」
そう言われ、あらためて記者は家を見る。家だ。普通の家だ。SOHOというか、ごく普通の一戸建てだ。たしかに表札には「株式会社マトリ」の文字がある。だが、まだ信じられない。VIP●ERならそれくらいするだろう。
「事務所は2階です。ちょっと狭いんですが……」と照れくさそうにいう安田さんの背中を追って、記者も階段を上がっていく。そこもやはり普通の部屋だった。いや普通に狭い。うちより狭い。四畳半だ。
デスクにあるのはノートパソコン2台。1台は開発用で、もう1台は事務用という。プリンターに固定電話、業務用のパソコンソフトが十数本。シンプルすぎだろ。記者は完全に疑いモードだ。安田さんは釣りざおを持ち、「趣味は釣りでして」と追いうちをかける。釣りだろこれ。絶対釣りだろこれ。記者がその一言を飲み込みつつ、スレが立っていないかどうか確認しようかと迷っていると、安田さんはノートパソコンの画面を見せてくれた。
「開発はすべてC言語を使っているんですよ」
画面に映っていたのはC言語のプログラム。当たり前かもしれないが、本物だ。さらに部屋の中をよく見てみると、経理上の書類や、会社の登記に関する書類も置いてある。さらにゲームに使われたCGのラフ絵が数十枚、システムについて書かれた仕様書もあるらしい。釣りにしては手がこみすぎていて、用意するにも時間がかかりすぎる。どうやら会社は本物だ。それでは安田さんはいったいどこの誰なのか。