宇宙航空研究開発機構(JAXA)は22日、2010年9月11日に打ち上げられた準天頂衛星初号機「みちびき」が、同日午前9時より2方式の測位信号提供を開始したと発表した。
今回提供が開始されたのは、GPS補完信号「L1-C/A」と「L2C」の2種類。いずれもGPS衛星が発信する測位信号と互換性がある。GPS衛星からの信号にみちびきからの信号を追加することで、測位に必要な複数の衛星の位置の偏りの解消や、信号を受信できる衛星の数が増えるといった効果から、測位精度が向上する。
昨年12月より技術実証を行なってきていたが、その際には信号の品質・信頼性が必要な基準を満たしていない場合に、受信機に対してそのことを通知する「アラートフラグ」が付加された状態となっていた。今回、このアラートフラグを解除したため、地上のGPS信号受信機でみちびきの測位補完信号を利用できる状態となった。
測位信号の信頼性や精度は、JAXAが定めた仕様「IS-QZSS」への適合性で確認されたもの。精度の高い測位信号提供のためには、現在、衛星が軌道上のどの位置にいるか、また時刻を正しく予測、推定する必要がある。2011年1月以降、徐々に精度が改善され、測位信号提供に向けた確認期間では、誤差±2.6m以内という仕様に適合することが確認された。
地上での測位精度は、東京都小金井市内にあるJAXAモニタ局で検証。6月3日に行なわれた24時間の評価では、GPSのみの測位と、GPSにみちびきを加えた測位では、水平方向の平均測位精度が誤差1.451m(GPSのみ)から1.027m(GPS+みちびき)に向上、垂直方向も平均3.204m(GPSのみ)から1.540m(GPS+みちびき)という結果を得たという。
こうした検証を経て利用可能となったL1-C/AおよびL2Cは、GPS衛星が提供する4種類のL帯の信号のうち、広く普及している初期型の2種類だ。特にL1-C/Aはカーナビなど早くから民生用として普及しているもので、GPS受信機がみちびき対応になれば、さまざまな製品で精度の高い測位機能が利用できるようになる。
気になる対応製品の登場は間近?
発表会では、市販GPS受信機のみちびき対応開発状況も公表された。現在、みちびきの測位信号を利用できるコンシューマ向け製品を発売している企業はまだない。開発を準備している受信機やGPSチップメーカーは、ニコン・トリンブル、デンソー、光電製作所、CSR plc.、トプコン、コア、セイコーエプソン、MediaTek Inc.、JAVAD GNSS Inc.、古野電機、ソニー、スペースリンクなど。このうち、トプコン、JAVAD GNSS Inc.はすでに製品を販売しているが、どちらも測量用の高性能受信機が中心で、パーソナルナビゲーションなどに利用する機器とは異なる。
一方、GPSチップで実績のあるMediaTec Inc.は、すでにみちびき対応チップ「MT3339」の量産を開始したとのことだ。このチップの前世代の製品は、GPSロガーなどに搭載実績がある。2011年末~2012年にかけて、みちびき対応チップを搭載した製品が登場する可能性があるという。ソニーは、SDカード型受信機をすでに開発しており、SPAC(衛星測位利用センター)やJAXAが進める準天頂衛星実証実験用の機器などに利用されているが、市販機への対応は「具体的に検討中」とのことだ。
SPACとJAXAはそれぞれ、大学や企業などと連携を取りながら、みちびきを利用した実証を進めている。SPACは2011年9月から第三次利用実証を開始、JAXAは、L1-C/A対応GPSロガー型受信機をタクシーや宅配便業者、歩行者が利用する実験を7~8月にも開始する。実証の中で精度や有用性の確認が進めば、市販製品への対応も加速すると考えられる。