アマゾンが提供する「元祖」パブリッククラウド
進化を続けるAmazon Web Services
2010年09月30日 06時00分更新
運用管理向けサービス
冒頭でも述べたように、AWSでは次々と新しいサービスが登場している。特に運用管理の面では、当初の機能的な不足を補う形でサービスの拡充が図られた。
エラスティックIPアドレス
これまでAmazon EC2では、インスタンスを生成するたびに動的にIPアドレスが付与されていた。そのため、ユーザーが取得したドメイン名とIPアドレスのマッピングを維持するには、ダイナミックDNS(DDNS)サーバーへの定期的な更新が必要になるなど、サービスを行なうには不都合な点があった。
こうした問題に対応するため、エラスティック(Elastic)IPアドレスというサービスが提供されるようになった。このサービスでは、アカウントごとに割り当てられた固定的アドレスを、任意のインスタンスに付与する仕組みを提供している。
リージョン/アベイラビリティゾーン
クラウドサービスがよりクリティカルな場面で使用されるようになるには、高い可用性の実現が重要なポイントとなる。そこでAmazon EC2では、「アベイラビリティゾーン(Availability Zone)」が導入された。これは、物理的に独立したインフラ環境をユーザーが指定することで、アプリケーションを分散配置するものだ。
リージョンゾーン(Region Zone)は複数のアベイラビリティゾーンからなり、地理的に離れた場所にある。本稿執筆時(2010年4月)では、アメリカ東地域(バージニア)、西地域(ノースカリフォルニア)、ヨーロッパ西地域(アイルランド)の3カ所のゾーンが存在する。
サービスのスケーラブルな運用
従来のAWS では、自動的にAmazon EC2インスタンス数を増減したり、インスタンスへのトラフィックをコントロールすることができなかった。これを実現するためには、ライトスケール(RightScale)社などのサードパーティが提供する付加的なサービスを利用する必要があった。しかし現在のAWSでは、こうした運用を行なうための以下のサービスが提供されている。
- Amazon CloudWatch
- 選択されたAmazon EC2インスタンスの状況(CPU、ディスク、ネットワークに関する情報)を監視するサービス。
- Auto Scaling
- CloudWatchサービスから得られる情報を基に、Amazon EC2インスタンスを動的に増減するサービス。
- Elastic Load Balancing
- Amazon EC2インスタンスへのトラフィックを自動的に分配するサービス。
これらを用いることで、これまで必要だったサードパーティ製のサービスを利用しなくてもよくなった。
ブラウザーベースの管理コンソール
AWSが提供するサービスが多岐にわたってくると、それらを統合的に管理するためのインターフェイスが必要になってくる。これを提供するのが、「AWS Management Console」だ。このツールは、Webブラウザーベースで動作し、Amazon EC2やElasticMapReduce、CloudFrontなどのサービスをGUIで管理することが可能だ。画面3に、このツールの管理画面のスナップショットを示す。
スポットインスタンス
AWSは全世界でさまざまな用途に用いられており、地球規模での負荷分散が行なえるクラウドサービスである。しかしそれでも、すべてのリソースがいつも最大限に使われているわけではない。時間帯や曜日によっては、リソースに空きがある場合もある。そこでアマゾンは、こうした「すき間」のリソースをオークション形式で安く提供するサービスを、2009年12月から提供しはじめた。
このサービスは、スポットインスタンス(Spot Instances)と呼ばれる。簡単にいうと、AWSが空いている時間だけを利用するユーザーに対して、安価にサービスを提供するというものである。たとえば、夜間に処理が終わっていればよいというようなユーザーであれば、非常にメリットのあるサービスといえるだろう。
スポットインスタンスでは、リソースの需要と供給のバランスに応じて変動するスポット価格が提示される。そして、その価格を上回る価格を提示したユーザーに対して、スポット価格でリソースを提供する。なお、ユーザーがインスタンスの利用を停止した場合や、変動するスポット価格がユーザーの提示した価格を上回ったときはインスタンスが停止し、それ以上の課金は行なわれない。
AWSの課題
ここまで、AWSが提供するさまざまなクラウドサービスを紹介した。最後に、いくつかの課題を挙げてみたい。
現在、多くのITベンダーがプライベートクラウドやパブリッククラウドに大きな投資を行なっており、その上でサービスが提供されはじめている。また、企業内のITシステムやプライベートクラウド、複数のパブリッククラウドを連携するハイブリッドクラウドにも注目が集まってきた。
だが、企業がクラウドサービスを構築するときは、セキュリティやコンプライアンスが重要な問題となる。それぞれの企業が属する業界では、信頼性の高いIT サービスを提供するための要件や適合基準を持っていることが多い。たとえば、クレジットカード業界におけるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard:PCIデータセキュリティ基準)や、医療業界におけるHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act:医療保険の相互運用と説明責任に関する法律)などが代表的な例だ。
これらの基準を満たすには、データの暗号化やプライバシーの問題、データセンターの物理的な運用体制や監査など、さまざまな要件をクリアする必要がある。こうしたことから、アマゾンはこれらの要件をクリアするための方針を公開している。その1つが、AWSのWebサイトで公開されているHIPPA準拠のサービスを行なうためのガイドラインだ。こうした取り組みも含め、いかに透明性の高い仕組みを提供できるかが、アマゾンのようなクラウドベンダーに求められている。
筆者紹介:浦本 直彦
1990年、九州大学総合理工学研究科修了。同年に日本アイ・ビー・エム入社後、東京基礎研究所にてSOAやクラウドコンピューティングにおけるセキュリティやパフォーマンスに関する研究開発に従事している。共著に「XML and Java Developing Web Applications 」(アジソンウェスレイ刊)などがある。2008年より、早稲田大学丸山不二夫特任教授が立ち上げたクラウド研究会の事務局を担当している。
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