大事なことは絶対言わない、言わせない
直球で「愛」とは言わない! 背中で語るアニメの美学 【前編】
2010年10月09日 12時00分更新
(c)A-1 Pictures/閃光のナイトレイド製作委員会
当然だが、アニメを観て「感動したい」とファンは思っている。
これまで、感動する作品には「強いセリフ」が欠かせなかった。だが、その感動とは一体何なのだろう。キャラクターが「好きだ」と叫ぶシーンだけで、本当にその愛は「伝わる」のだろうか?
今回は、アニメ「閃光のナイトレイド」が持つシナリオの強さに焦点を当てたい。メインライターの大西信介氏は、1978年に日本映画の助監督として業界に入ったものの、映画の道はあきらめたという。その後、彼は40歳で脚本家デビューを果たし、アニメの世界に入ってきた。アニメを変えた脚本の「異色さ」とは、いったいどこにあるのだろうか?
閃光のナイトレイド
1931年、魔都「上海」。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦を経て、中国大陸へと進出した日本陸軍。その中に歴史上葬られた特殊スパイ組織「桜井機関」が存在した。桜井機関のメンバーは、主宰の桜井と、特殊能力を持つ葵、葛、棗、雪菜と花の名で呼ばれる四人の若者たち。覇権国家が群雄割拠する上海で、彼らは決して表舞台に出る事なく、様々な事件の裏で暗躍する。そんな最中、とある陸軍の一部隊が忽然と姿を消す。それはやがて世界を揺るがす大事件への序章だった――。オフィシャルサイトはこちら。
脚本家・大西信介氏について
1958年生まれ。北海道出身。脚本家。1997年「ウルトラマンティガ」の脚本でデビュー。主な作品に「キカイダー01 THE ANIMATION」「009-1」「DARKER THAN BLACK -黒の契約者-」「PERSONA -trinity soul-」「DARKER THAN BLACK -流星の双子-」など。
説明を極力しないシナリオ
―― 今回、「閃光のナイトレイド」で脚本を担当された大西さんにお話をお伺いしたいと思ったのは、第5話「夏の陰画」が印象的だったからなんです。西尾がどんな人物なのか、葛とどんな関係だったのか。言葉での説明がほとんどされていないんですね。愛玲が自分の傷を見せて、葛にも古傷がある。それだけで表していますね。
大西 「夏の陰画」は、私も好きな話です。「ナイトレイド」は、阿谷映一名義でスタッフが共同で作ったプロット(大筋)があって、私はそこに「メインライター」としてシナリオとしての脚色をしていく、というやり方だったんですけど。
この回は、松本淳監督から、葛と共産党員である西尾と愛玲の関係について「具体的に説明するセリフや回想シーンを入れず、西尾という人物の輪郭だけを浮かび上がらせてほしい」というオーダーが出たもので。実は初稿の段階では、傷というモチーフさえなかったんです。さすがに分かりづらいと言う声があって、あとで加えたものなんですが。
※ メインライター:「ナイトレイド」での大西氏のスタッフクレジットは「メインライター」。通常は「シリーズ構成」という、全体のストーリーや各話の脚本を監修する役職としてクレジットされることが多い。
―― テレビアニメの描き方としては、珍しいですね。特に、視聴者が10代からいるアニメの場合、キャラクターの説明は細やかにしますよね。たとえば、人物の過去やいきさつなどは、回想シーンの中で本人や誰かにモノローグとして語らせるとか。回想やモノローグを使わずに、若い視聴者にもわかってもらうという。難しいオーダーでしたね。
大西 ひとつには、松本監督が説明的な手法を嫌がるタイプの監督というのがあったんです。あと、僕自身も説明しないものが好きで。だからすごく面白かったです。そういうの、ライターとしてやりたい人は多いと思うんですよ。人物の状況や心情について、あまりセリフとかでガチガチに固めて書いてしまうよりは、抽象的にイメージさせて表現するという。できれば映像とイメージだけで見せるというのは。
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