クラウドに無線ブロードバンドは不可欠だ
iPadの実機を見て驚いたのは、イーサネットの端子がないことだ。これは普通のPCとしては考えられないが、無線LANが標準装備だから「これから通信はすべて無線で」という割り切りなのだろう。かつてiMacが出たとき、フロッピーディスク・ドライブがないことに多くの人が驚いたが、ほどなくフロッピーはなくなった。ジョブズが今回も正しいとすれば、通信機能もすべて無線になるのだろうか。
しかし現状ではこれはまだわからない。ほとんどのアプリケーションは無線LAN(10Mbps以上)では軽快に動作するが、3Gのデータ通信(数Mbps程度)では動画はスムーズに動かない。屋外ではHDTVや多人数ゲームなどの複雑なアプリケーションは無理だろう。
実は同じ問題が読書でも起こりうる。アゴラブックスが開発したAJAXビューワーは、文書ファイルをサーバに置いてページをめくるごとに端末からアクセスする「クラウド型」だが、これがスムーズに見えるのも数Mbps以上で、iPhone3Gではページとページの間に空白ができる。グーグルがまもなく発表するシステムも、こうしたクラウド型だといわれているので、同じような問題が起こるだろう。
クラウド・コンピューティングは、ファイルの複製を作らないため効率的で、違法コピーの問題も避けられるが、アクセスが膨大になるため、ネットワークに大きな負荷がかかる。数十Mbps以上のネットワークに常時つながっていないと、こうしたモバイル・クラウドは機能しないだろう。ソフトバンクは「フェムト・セル」を無料で配るなど、無線ブロードバンド環境をつくろうとしているが、今の数十MHzの周波数では限界がある。
こうした状況を踏まえて、FCC(米連邦通信委員会)は今後10年で500MHzの周波数を開放するという「全米ブローバンド計画」を発表し、日本でも原口一博総務相は4月9日の記者会見で「細分化されて非効率に使われている電波を再編して、モバイル・ブロードバンドに開放する」という方針を表明した。地上デジタル放送が浪費している300MHzだけでも再編してモバイル・クラウドに使えれば、日本は無線ブロードバンドで世界のトップに立てるだろう。
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