このページの本文へ

私が日立の洗濯機をヨドバシカメラで買った理由

2010年03月31日 00時00分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

  • この記事をはてなブックマークに追加
本文印刷

 このコラムは、ASCII.jp Web Professionalと「日経ネットマーケティング」「Web担当者Forum」「Markezine」各誌の編集長が、毎回同じテーマでネットマーケティングを語るコーナーです。

 今回のテーマは「ネットマーケティングの主役は誰に」です。他誌編集長のコラムも併せてご覧ください。


 ガコン、ガコン、ガゴゴゴン。1998年に買ったサンヨー製の乾燥機から異音が鳴り響いた。これまでも変な音はしていたが、木槌で部屋をたたき壊すような大きな音には驚いた。本体を叩いたりして「スタートボタン」を押してみるものの、やっぱり異音は止まない。「仕方ない、13年も使えば乾燥機も壊れるか」ということで、私がサンヨーの洗濯機と乾燥機(当時、合計13万円程度)から日立のドラム式洗濯機に買い換える過程から、今回のコラムのテーマである「ネットマーケティングの主役は誰に」について考えてみよう。

 書き始めてみると私小説のような超大作になってしまったので大幅に割愛。おおよそ次のようなステップで購入を決めた。

  1. 「買い換えるなら洗濯乾燥機かな」と思い、Googleツールバーに「洗濯乾燥機」と入力した。
  2. トップに出てきた価格.comの洗濯機ランキングのページで、各社の洗濯機を見渡した。
  3. 東芝系の電気店のおじさんに父親が子ども時代に世話になったことがあり、実家には家電は東芝という不文律があった。その影響で、最初に目が行ったのは東芝の洗濯機。
  4. 東芝の洗濯機について眺めていると、パナソニック製とどちらにするか迷った、という記述を発見。脳内に、縦型洗濯乾燥機を巡る東芝対パナソニックの構図ができる。
  5. 調べてみると、東芝とパナソニックにはAW-80VGとNA-FR80S2のような、機種名や性能がそっくりな機種がある。
  6. 洗濯機

    AW-80VG

    NA-FR80S2

  7. 東芝とパナソニックのWebサイトで洗濯乾燥機の研究を始める。東芝AW-80VGの「循環メガシャワー」、パナソニックNA-FR80S2の「循環ジェットシャワー」など、機能名までライバル心が垣間見え、脳内で東芝対パナソニックが火花を散らす。
  8. Webだけではわからないので、実店舗に行くことにする。そういえば大画面テレビがたくさん売れているというビックカメラ有楽町店に行ったことがなかったので、次の休日に行ってみようと決意。
  9. 休日。ビックカメラ有楽町店で説明員(サンヨーの社員)にオススメの縦型洗濯乾燥機について聞くと、「洗浄力が力強いけど、繊細な洗い物に向かないのは日立。洗浄力が弱いけど、繊細な洗い物に向いているのがパナソニック。中間くらいが東芝」という説明を受ける。さらに、「縦型洗濯乾燥機の乾燥機能はどちらかというとオマケ機能。乾燥機能を重視するならドラム式がオススメですよ」――脆弱な私の理性は、あっという間にドラム式に傾いた。「じゃあ、ドラム式ではどれがオススメですか?」
  10. サンヨーの説明員が勧めてくれたのは、日立のBD-V2200。標準コースで1回あたりの水道代は約13円、電気代は約21円、合計約34円と大変リーズナブル。縦型洗濯機に比べると、ドラム式の方が水道代も電気代もずっと安いそうで、私の中から東芝もパナソニックもいなくなる。
  11. 洗濯機

    BD-V2200

  12. とはいえ、ドラム式のBD-V2200は16万5800円。7~8万円の縦型洗濯乾燥機の倍以上の値段だ。そこでスマートフォンを取り出し、価格.comでBD-V2200を検索すると、安売り店では13万円前後で販売されている。
  13. さっそく「ネットでは13万円くらいなんですけど」と交渉してみるものの、「ネット専業でやっている店の値段は出せませんよ」と交渉決裂。「ビックカメラはポイントカードがないので、ヨドバシカメラに行ってみよう」と思い、近場のヨドバシカメラマルチメディアAkibaに移動する。
  14. ビックカメラ有楽町店の価格と比べると、クレジットカード購入時のポイント還元額が少なく、配送料、リサイクル手数料が高い。そこで覚えておいた価格や諸条件を店員に告げると、責任者の元へ確認に走っていく。すると、販売価格16万2800円と23%のポイント還元を提示された。ポイント分を差し引けば約12万5000円。ネット通販と同等の金額だし、以前の購入金額よりも安いので即決。翌日には新しい洗濯機が届いた。

 私なりに定義すると、マーケティングとは「商品の存在に気づいてもらい、商品を気に入って買ってもらうための仕掛け」である。マーケティングの概念をネット(Web+携帯)に拡張したのが「ネットマーケティング」だろう。

 では、私が洗濯機を購入するまでの過程のうち、ネットマーケティングはどの部分だろうか。単純に考えると、Googleツールバー、価格.com、東芝とパナソニックのWebサイトがネットマーケティングだが、もっとも影響力があったのはビックカメラにいたサンヨーの社員で、ネットマーケティングはあまり関係ない。

 だが、実際に購入したヨドバシカメラの店員からは「日立の指名買い客で、決め手はポイント還元率」と見えたはずだし、日立のマーケティング活動はヨドバシカメラのポイントに充当される販売奨励金だけが効果を生み、日立がWebサイトを制作するのに支払ったコストは、私の消費行動には何の影響ももたらさなかった。

 もちろん、1回の消費行動でネットマーケティング全般を議論するつもりはない。しかし、商品の存在に気づいて購入するまでのプロセスを「アフィリエイトリンクをクリックした」とか「Twitterで商品をいいと言っていた」といった、直接的な原因で評価するのは無理があるというのはよくある議論だ。その意味で、ネットマーケティングの主役を「アフィリエイト」や「Twitter」といった手法やテクノロジーとして捉え、「今流行りの○○で宣伝しましょう」というのはやっぱり何か格好が悪い。

 サンヨーの説明員のように、製品の特徴を的確に表現し、長所や短所を述べ、他の選択肢まで提示するようなコンテンツこそ、ネットマーケティングの主役になるべきだ。といっても、コンテンツの担い手がメディアだと言いたいのではない。商品を愛し、自分の言葉で説明できる人がきちんと評価されればそれで十分だ。


 4媒体合同の本コラムは今回はひとまず終了です。Web Professionalは第12回(2009年12月)からの参加でしたが、1つのテーマを各誌独自の切り口で紹介する、という試みはいかがだったでしょうか。

 Web Professionalでは今後も、ネット/Web業界を盛り上げる企画を展開したいと考えています。ご期待ください。

この連載の記事

一覧へ

この記事の編集者は以下の記事をオススメしています