無線の通信品質は「電波暗室」で確認
開発中に動作検証するのは、基板にかかわる部分だけではない。特に現在重要になってきているのが、電波の受発信状態を確かめるテストである。
無線LANはもちろんだが、特にこの点で問題になるのがWWAN。長野テックでは電波暗室を使い、本体のどの方向にどれだけの電波が発信されているかを確かめつつ、開発が行なわれた。
開発段階では、長野テック内にある電波暗室内で、各種電波の発信状況をチェックする。写真はVAIO type Zを使ったものだが、VAIO X開発時も利用された。ちなみに、この施設をパソコンメーカーが持っている例は「あまり多くない」(VAIO設計センター VAIO設計1部の飯村氏)という。
チェックは通信機器としての「電波」だけにとどまらない。本来は出るべきでない「不要輻射波」についても、電波暗室内でチェックされる。この際には本体だけでなく、コネクターというコネクターにすべてケーブルと各種機器をつなぎ、最も電波が漏れやすい状態にして計測する。
このような検証と修正は、日々繰り返し行なわれているという。実は、ソニー側の開発陣と長野テック側の開発陣は、長野テック内のオフィスで机を並べて作業をしている。林氏をはじめとするソニー本社側のスタッフは、普段は品川のソニー本社にいるのだが、いざ開発が始まると「ほぼ長野テックに貼り付きっぱなし」(林氏)になるという。
製造・開発の現場と商品企画に近い開発側が密接な関係を保てていないと、こういった開発をスムーズに進めるのは難しい。林氏が「長野テックでなければできない」という理由のひとつはここにある。
天板はカーボンとフィルムのサンドイッチ
絞り加工で「薄さ」「強度」を実現
薄いVAIO Xが剛性を保てる理由は、ほかにもある。それは「ケースの工夫」だ。VAIO Xでは本体ケースとして、主に3つの素材が使われている。ひとつは、底面に使われているプラスチック。カーボン入りの比較的堅牢なものだが、さほど特別なものではない。残りの2つが特別なのだ。
「天板はカーボン素材を使う」というのは、最近の軽量パソコンでは珍しくない。VAIO Xもカーボンを使っていることに変わりはないが、カーボンシート“だけ”を使っているのではない。
機構設計を担当した、長野テック VAIO設計センターの斉藤謙次氏は次のように説明する。
斉藤「見た目ではわからないんですが、天板はカーボンのシートを5、6枚重ねて、その真ん中に特殊なフィルムのシートを挟んでいます。こうすると、剛性を従来(すべてカーボン素材)より少し高めたうえで、重量を大きく改善できます」
「従来どおりカーボンを重ねて剛性を出そうとすると、重くなってしまうのです。今回は素材メーカー様に協力を依頼し、特殊なシート材を用意して挟み込むことで、剛性を維持できました」
林「コンクリートブロックを思い浮かべてみましょう。あれは真ん中はスカスカですよね。強度を維持するうえでは、真ん中の部分はあまり影響しないんです。そこで、そこに軽い素材を入れて、軽く薄いのに強い形を実現したのです」
そして残る工夫はキーボード面だ。ここについてはアルミ板が使われているが、素材そのものに特徴があるわけではない。工夫は「加工」だ。商品企画担当の星 亜香里氏は説明する。
星:「角が逆アールに絞れてます。このために、本来の薄さよりさらに薄く見えるんです」
斉藤「VAIO type Zで活用した『アルミ絞り加工』の技術を生かしたものです。薄く見えるだけでなく、強度面でもプラスになります。とても難しいもので、我々は『超絶の絞り』と呼んでいます(笑)。type Zで加工を依頼したメーカーさんに、今回も加工していただきました」
林「多くの薄型パソコンでは、縁を薄くしますよね。薄く見せるには、端を飛び出させるのが一番簡単です。しかし、飛び出した部分には部品を入れられないので大きくなりますし、その分重くもなります。かといって、単に四角い箱にしても、あまり薄く見えない。そこで、角を絞ってより薄く見えるようにした、ということなのです」
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