テレビ局の「報道番組強化」の実態は……
先月、総務省のまとめた放送局の収支状況によれば、地上波テレビ・ラジオ計195社の最終損益が大幅に減少し、初めて地上波局全体として赤字に転落した。この最大の原因は昨年からの急速な景気の落ち込みだが、これがV字型に回復すると見る向きは少ない。むしろ企業はこれをきっかけに、高コストのテレビ広告を見直し、インターネットにシフトする動きが出ている。
今年はインターネット広告費が新聞を抜いてテレビに次ぐと予想されているが、テレビ広告費のシェアは約28%と、まだインターネット(約10%)の2.8倍ある(電通調べ)。しかし前者が前年比4%下がったのに対して、後者は年率2%ずつ増えているので、遅くとも10年以内に両者が逆転するだろう。つまり遠からず、インターネットは広告の売り上げベースでも最大のメディアになるのだ。
こうした動きは世界的に見られる。イギリスでは、昨年テレビ広告費がインターネットに抜かれた(IAB調べ)。アメリカでは、テレビ広告費のシェアが約30%と微減なのに対して、インターネット広告費はここ3年で倍増して19%になった(ニールセンなど調べ)。日本のテレビが相対的に強いのは、ケーブルテレビや通信衛星などの多メディア化を妨害し、地上波局の独占を守ってきたためだが、欧米諸国で20年ぐらい前から起こっていたテレビの没落がようやく始まったのだ。
これにともなって、番組の内容にも欧米と似た現象が起こっている。「情報番組の拡大」である。番組単価で見ると、もっとも高価なのはドラマで、安いのはスタジオ収録のバラエティ番組だが、スタジオでお笑い芸人が騒ぐだけだと飽きられてしまうので、クイズを入れたり芸能情報を入れたりして、「情報番組」に仕立てる。この秋の新編成で民放各局が「報道の強化」をうたっているのも、実はこういうコストダウンが狙いだ。
しかし本来の意味でのニュースというのは限られているので、TBSのように夕方に3時間もニュース番組を組むと、ネタが足りなくなってしまう。その結果、酒井法子事件のような「ニュース的な芸能ネタ」に取材が殺到する。
またニュース素材だけでは時間が保たないので、コメンテーターと称する人々が「犯人を早く捕まえてほしいですね」といった無意味なコメントを延々と述べる。その結果、まともな知性のある視聴者は見なくなる……という悪循環に入る。今年のアメリカのネットワーク局(主要4局の合計)における平均視聴率は約9%と、史上最低を記録した。日本もこの後を追うだろう。
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