楽器の構造で決まる「演奏」のリアリティ
生楽器の演奏が「らしく」見えるのは、楽器の構造から来る必然としての音と演奏フォームがあるからだろう。逆の見方をすれば、音と演奏フォームは楽器の構造によって制約を受ける、ということでもある。
そこで見てほしいのはパメリア・カースティン(Pamelia Kurstin)という人の演奏だ。彼女は最近注目のテルミン奏者で、The Bird and the Beeで有名なグレッグ・カースティン(Greg Kurstin)の奥さんでもある。
注目は2分45秒以降だ。
彼女はまるでアップライトベースでも弾くように構え、右手でフィンガーピッキングでもするようにランニングベースを「弾く」。テルミンは非接触型のインターフェースなのでまさに「エア」ベースなのだが、ちゃんと演奏フォームから連想される通りの音が出ているのがおかしい。
この演奏は「楽器の構造と演奏フォームが入れ替わっても、演奏のリアリティは得られる」という実例だ。
ただし、世界最古の電子楽器といわれるテルミンは、実は生楽器と電子楽器の中間にある。静電容量でピッチや音量を制御するため、発音部とインターフェースを切り離せない。そうした点で生楽器と同じように演奏フォームの制約を受ける。つまりテルミンなりの奏法が存在するのだ。
通常、テルミンは奏者から見て右側にピッチ制御のアンテナが立っていて、左側にボリューム制御のループアンテナが水平に伸びている※4。この水平のループアンテナに、素早く手を近づけたり、遠ざけたりを繰り返すことで、スタッカートのようなニュアンスが生まれる。それを利用して、うまくベースを弾く動作と置き換えたのがパメリア・カースティンの演奏だ。
現在の電子楽器は、音源とインターフェース部分は通信でつながっていて、そのレイアウトはまったく自由に行なえる。ここでは演奏行為は「情報」として扱われる。だから、演奏はどんなインターフェースでも可能だし、なんならインターフェースを介して入力する必要すらない。
それが固有の演奏フォームと音の関連を失わせた理由でもあるし、わざわざインターフェースを介してライブ演奏することの虚しさのようものを感じさせるようになった理由だ。
では、コンピューターで演奏する電子音楽にふさわしいインターフェースとは何ぞや?
そう考えたとき、大昔からコンピューターで使われている「キャラクターをキーボードで扱う」というインターフェースには必然性がある。楽器の構造と入力操作の相関も理解しやすいし、タイピングの感覚はフィジカルな手ごたえとして常日頃から感じているものだ。
延々とアレックス・マクリーンの演奏を見ていると、画面の向こうで誰かが叩いているキーボードの打鍵音すら聴こえてきそうな気がする。
※4 テルミンの演奏フォーム: ただしパメリア・カースティンのセッティングは左右が逆。彼女のテルミンはいわゆるRCAタイプで、通常は演奏者側にあるコントロールノブが観客側を向いているので、単純に前後逆に置いているのだろう
四本 淑三(よつもと としみ)
フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科講師。高校時代に音楽雑誌へ投稿を始めたのを契機に各種のコンテンツ制作や執筆作業に関わる。去年は動画サイトに上げたKORG DS-10の動画がきっかけで、KORG DS-10の公式イベント「KORG DS-10 EXPO 2008 in TOKYO」に参加。その模様はライブ盤として近日リリース予定。
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