連邦軍のメカは、性能は凡庸だけど物量戦を実現する戦略兵器だ
では連邦軍はどうか。一年戦争劈頭にジオン公国の電撃戦に後退に後退を重ねたあたり、まさに第二次世界大戦初頭、ドイツの電撃戦と日本の快進撃に苦しめられた連合国側のイメージだろう。ガンダムやジムの機体色としてのトリコロールカラーは、おもちゃ的なカラーリングの他にフランス国旗と同じ赤、青、白(黄色もちょっとあるけど)だ。ここに「自由・平等・博愛」の意味が込められていると強く思う。まさに「自由」を旗印として戦った連合国のイメージが重なる。
じゃあ、連邦側のメカはどうよ、ということになる。例えばジム。もう名前がアメリカンな感じだ。どう考えてもソ連軍やフランス軍の兵器のイメージではない。ジムは一年戦争でも大量生産され、ソロモン攻略戦やア・バオア・クー攻略戦で大量に投入されていた。イメージ的にはノルマンディー上陸作戦でLSTから大量に陸揚げされるM4シャーマン戦車あたりがモチーフだろう。M4シャーマンは、兵器としての性能は凡庸だが、第二次世界大戦中に5万両と大量生産されている。ドイツ軍のタイガーI戦車などとの一対一の対決では負けるので、シャーマン5両でタイガー1両に対抗したというエピソードもある。
しかし、もう一歩妄想を深めてみたい。仮にザクが零戦をモチーフにしているのなら、ジムもアメリカ軍の航空機が発想の源になっている可能性がある。第二次世界大戦で零戦に対抗して開発されたと言われる航空機としてF8Fベアキャットがある。この場合、ジムはジーク(ザク)を狩るキャットというイメージだ。ジムは大量生産されたシャーマンと、敵の新兵器に対抗するために開発されたF8Fベアキャットの両方のイメージが合体した存在なのかも知れない。
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1/48 F8F Bearcatテスター
ジオンと連邦が、もろ枢軸国と連合国のイメージで、機動戦士ガンダム終盤でジオンが連邦の物量に圧倒されるのも話の流れから言っても必然ということなのだろう。一説によると、連邦とジオンの国力の差は30対1。通常の手段で埋められる差ではない。ジオン軍側は開戦当初の奇襲攻撃の実施と、開発する兵器の個体優秀化で戦局の主導権を握ろうとしたが、結局地球の膨大な生産力を利用できる地球連邦に敗れたということなのだ。
ビグザムに搭乗する前、ドズル・ザビがギレン。ザビに対して「戦いは数だよ、兄貴」と言っている。宇宙要塞ソロモンへのリックドム大量配備を要求し、ビグザム一機だけが送られてきた際に発した言葉だ。戦略というものを理解した常識人とも言えるドズルが、ビグザムという個体優秀化の極致と言える機体に搭乗し物量戦の前に敗北したのは、まさに一年戦争における大きな皮肉を感じる。
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