「自分専用のテレビを作る」という発想
そもそもの発想は「放送文化」の開放だった。
放送作家の和田勉さんが、講演会で「ただ見ているだけの放送というのは文化ではない。一般人がいじれるようになって初めて文化だ」という趣旨の発言をしていたことに感銘を受けたのだという。
「それまでは放送文化を一部の大手放送局が握って離さないという状況だったが、それは決して理想的な状態ではない。プロもアマチュアも同じ立場で“放送”できるのが、バランスのとれた放送文化なのではないか」、林さんはそう話す。
YouTubeやニコニコ動画など、現在の動画文化が担っている新しい「放送」の枠組みは、まさにそれと同じ考え。現在は、一口にテレビと言っても、ケータイでもパソコンでも、チューナーが入っていれば、それはテレビ機能を持つことになる。
そこに入ってくるのがT2Vプレイヤーの発想だ。テレビ番組の代わりに「台本」データを受信すれば、受け手は好きな設定で「自分だけの番組」を見ることができる。日本語のニュースを英語に翻訳したり、好きなキャラクターに読み上げてもらうことも、ユーザーの要望にあわせて変えられる。
「その姿を想像すると、昔のテレビと似通ってくるんですよね」と林さんは笑う。
初めてテレビを観た人は、裏側に回って「小人がいるんじゃないか」と疑ったことがあった。それがこの発想では「実際にテレビの中に自分だけのキャラクターがいて、自分のために番組を演じてくれている」ことになるのだ。
それはニュースだけではなく、バラエティー番組やトーク番組など、すべての番組に当てはまる。台本と画像さえあれば、誰でも「自分だけの番組」を作れることになる。
パソコンが普及しはじめたばかりの時代のように、「他の誰かが書いたもの(プログラム)」をコピー&ペーストすることで、どんな番組であっても愉しみ、簡単にアレンジできるようになる。そんな未来が、はっきりと見えてくる。