「エビちゃん」で雇用創出?
麻生首相は4月9日に日本記者クラブで講演し、2020年までの「新成長戦略」を発表した。これによって実質GDP(国内総生産)を120兆円押し上げ、400万人の雇用を創出するという。
その柱として、太陽光システムやエコカーなどの「低炭素革命」、介護や医療などの「健康長寿社会」とならんで、「コンテンツ産業の育成」が挙げられている。2020年には20~30兆円規模の産業に育成し、50万人の雇用を創出するそうだ。講演で首相は「エビちゃん」などの若者言葉を連発し、記者を驚かせた。
日本のコンテンツ産業の規模は、昨年の段階で約13兆8000億円と推定されている(デジタルコンテンツ協会調べ)。この数字だけだと大きいように見えるが、これはテレビ・新聞・音楽などをすべて合計した売り上げで、GDPの2.6%に過ぎず、今回の補正予算1回の規模にも及ばない。NTTグループだけで10.7兆円の売り上げがあるので、日本のコンテンツ産業を全部合わせてもNTTとあまり変わらない。それが30兆円になったとしても、日本の基幹産業になることは期待できない。さらにコンテンツ産業は成長産業でもない。ここ数年のコンテンツ産業の成長率は平均1%以下で、日本経済の成長率をやや下回っている。
この原因は、デジタル化によってコンテンツのコストが下がっているからだ。映画を見るには映画館に行って1500円出さなければならないが、DVDを借りれば300円ぐらいだし、GyaOなどのネット配信で見れば無料だ。活字については、新聞・雑誌のコンテンツはほとんどウェブで流通している。一方で情報の流通量は飛躍的に増え、ブログなどユーザーが情報を生産するメディアも増え、量の上では既存メディアをしのぐようになった。
つまり、かつては紙や電波などの媒体がメディアに独占されていたため、少数の企業に利益が集まっていたが、だれでも情報を生産できるインターネットの登場によってメディアが競争的になり、利益が消費者に広く行き渡ったのだ。
その結果、産業としてのメディアの比重は小さくなったが、広い意味でのメディアの規模(情報の流通量)は、アナログ時代の数万倍に拡大した。こうしたメディアの成長はGDPではとらえられない。したがって政府が産業政策的な発想で、著作権を強化して利益の独占を維持しようとすると、情報の流通が阻害され、メディア産業は収縮するだろう。
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