ソニー(株)から7月に発売されたデジタル一眼レフカメラ『α100』には“Bionz”(ビオンズ)と呼ばれる画像処理エンジンが搭載されている。CCDが出力した1000万画素分の信号は12bitのA/Dコンバーターでデジタル化され、Bionzに送られるが、このデータの現像を行ない、JPEGデータに圧縮するのがBionzの仕事だ。現像処理の段階には“Dレンジオプティマイザー”(DRO)と名付けられたソニー独自のアルゴリズムを適用できるようになっており、撮影シーンに応じた最適な露出と階調の補正を行なう(OFFにすることも可能)。
ソニー初のレンズ交換式デジタル一眼レフカメラ『α100』 |
DROには、画面全体を均一に補正する“スタンダードモード”とピクセル単位のダイナミックレンジ/コントラスト補正が行なえる“アドバンスモード”(DRO+)がある。DRO+は、英アピカル(apical)社の技術を応用したもので、画面全体を均一に補正することでは得られない自然な絵作りが可能だ。
α100の開発陣。左から商品企画担当の関玲二氏、設計担当で機種リーダーを務めた安原竜一氏、画質担当の中山春樹氏 |
2回に分けて開発者に聞く、インタビューの前半では、α100の絵作りを中心にまとめる。
美しい写真を目指すほど、扱いにくさが生じる
α100の画像設計を担当した中山氏は「画質は最高でなければならない」という意気込みで開発に臨んだと話す。「子供のころ、リバーサルフィルムを初めて見たときのような感動」「ハイビジョン映像のようなブレークスルーを感じさせる生々しさ」。そんな“臨場感”の提供をαでは目指した。
AMC事業部開発部の中山氏。コニカで“Digital Revio”シリーズなどの開発を行なったのち、コニカミノルタでα-7 DIGITAL、αSweet DIGITALなどの画質設計を担当している |
「最高の画質とは何か?」と尋ねる筆者に対して、中山氏は以下のように答えた。
中山氏は、その解決のためには「正確な露出、適切なガンマを判断できる能力が必要だ」と話す。露出的なストライクゾーンを広げ、破綻の少ない画像を作るというアプローチを取ることも可能だが、そうはしなかった。
ストライクゾーンを広げると、眠くなる
“ストライクゾーンを広げる”という言葉があったが、これは露出の面では、ピークとシャドーの両方を取って、どちらも破綻しないような露出作りを狙う、といったことをイメージしているのだと想像する。しかし、こういったアプローチでは“どうにも眠くなる”というか、コントラストが低い、ハッキリとしない感じの写真に写ってしまうことが多い。
実際は人間の目も同じことをしているんです。例えば、逆光のときでも目で見ると逆光には感じない。人の目に近い再現を行なうためには、画素単位での補正が必要なんです。全体を一緒くたにガンマで持ち上げてしまうと、どうしても眠たい印象の画像になってしまう。
アドバンスモードでは、A/Dコンバーターから送られた10メガ分のデータのすべてがBionzによって分析され、最適な露出やコントラストが得られるガンマが選択される。この処理にかかる時間は0.5秒。開発当初のパソコンによるシミュレーションでは、どんなに高速なマシンでも5~8秒の時間がかかったというが、専用チップによるハード処理にしたことで高速化を果たせたという。
DRO。右画面のメニューにある“D-R+”を選択するとアドバンスモードに入る |
ラボやカメラマンが当たり前にやってきたことを実現しただけ
取材の中で、中山氏は「肝になるのは撮影した画像をどう仕上げるべきかを判断する基準を持っているかどうか」と話していた。同時に「カメラマンと一般ユーザーの最大の違いは、シャッターを切る前に何をすべきか分かるかどうかなのではないか」とも指摘する。
Bionzの説明スライド |
中山氏はフィルムメーカーのコニカの出身だが、フィルムメーカーだから分かるノウハウがあるのではないかと筆者は考え、質問してみた。
α100のメイン基板。中央4つのチップのうち右側がBionz |