【WPC EXPO 2005 Vol.11】インテルのコルベット副社長、Viivプラットフォームがもらたらすエコシステムについて講演――基調講演レポートその2
2005年10月27日 23時01分更新
講演を行なう米インテル社 デジタルホーム事業本部副社長 コンテンツ・サービス事業部長のケビン・コルベット氏 | ステージ上に展示されていた“Viiv”プラットフォームのコンセプトモデル“GoldenGate” |
“WPC EXPO 2005”2日目午後に行なわれた基調講演では、米インテル社からデジタルホーム事業本部副社長 コンテンツ・サービス事業部長のケビン・コルベット(Kevin M. Corbett)氏が登壇した。コルベット氏は同社が開発したデジタルエンターテイメント向けプラットフォーム“Viiv(ヴィーブ)”について、消費者への利点だけでなく、インターネットプロバイダー、コンテンツ制作・事業者、広告主など、デジタルコンテンツに関わるすべての分野にもたらす利点について解説を行なった。
デジタルホーム部門でCTO(最高技術責任者)とコンテンツ・サービスグループのジェネラル・マネージャーを務めているというコルベット氏は、自身の仕事をエンターテイメントやパソコンの刺激的な部分にたずさわる「世界で最もエキサイティングな仕事」と評し、それらに加えてブロードバンドからの刺激のすべてを提供するのが、新しいプラットフォームのViivであると述べた。またインテルのデジタルホームは、リビングルームを変革するとも述べた。
コルベット氏が講演内で繰り返し強調していたのは、ブロードバンドネットワークとViivによって、コンテンツを“いつでも好きなときに”楽しめるオンデマンド性がもたらされるという点である。コルベット氏は映画やライブコンサートなど、いろいろな例をあげながら、デジタルエンターテイメントの時代は、音楽や映画、ゲームなどを、世界のどこでもどんな機器でも受け取れるようになることで、新しいチャンスが生まれることを示した。そしてパソコンこそがこれらの時代に、最も豊かに使えるデバイスになるとして、すべてのエンターテイメントコンテンツを、リモコン1つでコントロールできるようになると述べた。
デジタルエンターテイメント時代のUIをデモ
コルベット氏は、デジタルエンターテイメントの時代は膨大な量のコンテンツがネットワークから入手可能になる一方で、注意しないとユーザーがコンテンツの量に圧倒されてしまうとし、欲しいコンテンツを見つけるための新しい技術、コンテンツの世界をナビゲーションするための高度なユーザーインターフェース(UI)が必要になるとした。その例としてコルベット氏は、インテルが制作したデジタルエンターテイメント向けのUIデモを使用して、コンテンツのナビゲーションと楽しみ方、さらには新しい時代の広告モデルについても説明をおこなった。
デモで披露されたUIのトップメニュー。ここからオンデマンドビデオやTV放送などをを選択する。フォーカスが当たっているアイコン(MUSIC)は、大きく表現されている |
リビングのTVを表示装置として用い、リモコンで操作することを前提としたこのUIは、TV放送からオンデマンドビデオ、録画済みビデオ、音楽などを再生する統合メディアプレーヤーの一種である。最初に披露されたデモでは、膨大な量の映画の中から注目の映画を探すデモが行なわれた。ジャンル別に分類されたDVDパッケージのサムネイルから映画『102 DALMATIANS』(邦題 102)を選ぶと、その映画の視聴メニューに加えて、関連する他の映画、サウンドトラック、関連する商品(ダルメシアン犬柄のトートバッグ!)なども表示される。また別の映画では出演者の一覧が表示され、そこから出演者が出ている別の映画を検索、視聴できるようにもなっていた。キーワードを入力しての検索も可能という。
膨大な数のオンデマンドで配信可能な映画のリスト。ジャンルごとに大まかにカテゴライズされている | 102 DALMATIANSを選んでみると、画面には関連する映画や商品が表示される。単なる映画を見る前の説明画面から一歩進んで、他のコンテンツやサービスへと連携しているわけだ |
別の映画で、出演者が登場する他の映画を参照した様子。興味を持ったコンテンツから、関連するコンテンツへと簡単に移動できる工夫が、随所に見られる |
また別のデモでは、1つのマシンを家族で共有している場合を想定したメディアプレーヤーのUIを披露した。コンテンツ表示のフロントエンドとして動作するだけでなく、友人がオンラインかどうかを顔写真で表現したり(インスタントメッセージやボイスチャットなどにつながるのだろう)、家族の顔写真リストがユーザー選択になっていて、家族1人1人にパーソナライズ化されたトップ画面に切り替わる。ここからパソコン内のAVコンテンツや、オンデマンド配信されるTVや映画、音楽やゲームなどを楽しめる。これらの多彩なコンテンツを、操作しやすい統一されたインターフェースで楽しめるようにすることで、通信事業者やコンテンツ事業者が収益を稼げるサービスを提供するための、基盤になるというわけだ。
リビングで家族が共用するパソコンをイメージしたUI。左上の縦方向に並んだ写真は、家族の顔写真を使ったユーザー選択メニュー。右上に横に並んだ顔写真は、登録された友人がオンラインか否かを示す | “TV ON DEMAND”を選ぶと、オンデマンド配信されているチャンネル一覧が表示される。ちなみに上側の横長バナーは広告となっている |
米国の人気TVドラマ『The Shield』の配信メニュー。放送されたシーズンごとに各話が用意され、さらに好きなパートから視聴できる |
講演の中で示された、ビデオレコーダー所有者のCMスキップ頻度の調査。9割のユーザーがCMをスキップすると答えている |
またこのUIの持つ機能は、特に新しい広告モデルとオンライン販売を実現するにも役立つ。コルベット氏はTV CMとデジタルビデオレコーダーの関係について触れ、レコーダーで録画された番組では、TV CMが多くの場合にスキップされているという調査を引用し、既存の大衆向け広告モデルの限界を示し、直接ユーザーに接するターゲット化した広告が必要とした。そのうえで、デモで披露されたのは、あたかも映画『トゥルーマン・ショー』を彷彿とさせるものだった。コルベット氏がお気に入りだというTVドラマ『The Shield』の放送済みの回をメニューから選択し、番組を見始めると、ビデオが表示されている窓の横に広告が表示される。たとえば劇中で独BMW社の車を運転するシーンがあると、BMWの広告が表示される。ユーザーはその広告を、UIの下にアイコンが並んでいる“プレイリスト”に登録しておける。そして任意の時にその広告アイコンを選択すると、BMWの車の広告が表示されるという仕組みであった。こうした仕組みによって、より効果的な広告が実現可能となるとした。
画面左側は広告枠。ドラマの中にBMWの乗用車が登場すると、BMWの広告が枠内に表示される。広告はすぐに見なくても、下に並ぶ“プレイリスト”に保存しておくことで、いつでも参照できる | プレイリストから表示したBMWの広告。オンラインでの広告配信はさまざまなモデルが試行されているが、この方法はかなりスマートで、かつ興味を持った消費者にとっても利便性が高いように思えた |
日本でのデジタルエンターテイメントの動きも紹介
Viivのロゴマークとフォームファクターのイメージ。無線LAN普及を促進したCentrinoモバイル・テクノロジの成功を、Viivではデジタルホームの世界で繰り返すことを狙っている |
UIのデモを主体とした解説に続いて、コルベット氏はこれらデジタルエンターテイメントのプラットフォームとなるViivを紹介した。ViivはTVのように手軽にスイッチをオンオフでき、パソコンのような複雑なケーブル接続もいらないという。ステージ上に展示されているViivのコンセプトモデルは、“ランチボックス”風の小さなマシンだが、フォームファクターは小型に限定されているわけではなく、ソニー(株)の“type X Living”のような形状もあるとした。
Viivで重要なのは、家庭内のデジタル家電とのネットワーク接続である。パソコンを中核として他のデジタル家電にコンテンツを配信するためには、機器同士の相互接続性の確保と、コンテンツ保護の技術が必要だ。コルベット氏はそのための技術として、同社が規格策定に強く関与した“DLNA”と“DTCP-IP”を挙げた。そしてこれらの技術を採用したデジタルホームの世界が広がることで、インテルだけでなくデジタルホームのエコシステム全体が成長できると述べた。
Viivについては、現状では対応OSが日本でまったく普及していないWindows XP Media Center Edition(MCE)のみであることから、その普及に懸念を持つ意見は多い。しかし次世代のWindows Vistaが登場すれば、MCEで培われた技術やサービスを、メインストリームのWindowsで使えるようになるため、先を見据えてコンテンツ配信事業に力を入れる企業も増え始めている。Viiv専用というわけではないが、日本でもインターネット経由で提供される新しいデジタルエンターテイメントのコンテンツが登場している例として、コルベット氏はいくつかのコンテンツを紹介した。その1つが、(株)ブロードバンドタワーが提供する、映画『探偵事務所5』のネット版だ。今年11月に公開予定の劇場版に先立ち、同一の世界観で別の話を展開するネットシネマ版を先行して配信することで、映画のプロモーション効果も上がるというものだ。そのほかにも、吉本興業(株)が制作するお笑いコンテンツ配信や、日本テレビ放送網(株)が27日から開始予定のオンデマンドビデオ配信サービス“第2日本テレビ”なども取り上げ、日本でも音楽やビデオ、TV番組など、さまざまなデジタルエンターテイメントコンテンツが登場してくるとの見方を示した。
映画『探偵事務所5』では、映画公開(11月予定)前にネットシネマ版を公開することで、相乗効果を狙っている | 日本テレビが27日深夜から開始予定のビデオオンデマンドサービス“第2日本テレビ”のイメージ。ショートフィルムや過去のニュース映像、地上波番組との連動コンテンツが提供される |
最後にコルベット氏は、新しいプラットフォームと強いグローバルなエコシステム、新たなパートナーの参入によって、これまでにないエンターテイメントの体験ができると述べ、パソコン業界がその中心となることで、そうした世界の実現にこぎ着けたいと述べて、講演を締めくくった。