“差す”だけで、どんなパソコンも“自分仕様”にできる。(株)サスライトはそんなコンセプトで、USB認証デバイス『SASTIK』を開発している。
SASTIKはUSBメモリーを思わせる外観だが、内蔵メモリーは専用アプリケーションが占有し、ファイルはオンラインストレージに保存する |
SASTIKは親指ほどのサイズのUSBキーで、これをパソコンに差すと専用アプリケーションの『SASTIK Tool Bar』が起動。自動的にサスライトが運営するオンラインストレージへと接続する。SASTIK Tool Bar上ではオンラインストレージやウェブメールが利用できるほか、ローカルマシンの壁紙を変更したり、保存しておいた付箋紙を表示することもできる。インターネットにつながるWindowsマシンなら、USBメモリーを抜き差しするだけで気軽に“自分の環境を持ち運べる”のがウリである(関連記事)。
サスライトはSASTIKをこれまで個人向けの製品として販売してきたが、今後は企業導入も進めていく考えだ。8月に発表された『SASTIK Group Server』では、専用のサーバーソフトを新たに開発し、企業内に設置したマシンをオンラインストレージのサーバーにできるようにした。SASTIK Group Serverでは、このオンラインストレージを各企業にあった形でカスタマイズできるほか、ログ収集機能なども追加し、ユーザーごとのアクセス制限の設定やファイルの操作履歴を保存できるようにしている。サスライトは“SASTIK”を“モバイルシンクライアント”と名付け、シンクライアントよりも手軽に導入できるソリューションとして展開していくという。
今回は、SASTIKの開発を担当している同社取締役兼Chief Architect Officerの内田康弘(うちだ やすひろ)氏にSASTIKの今後と企業向けソリューションについて伺った。
取締役兼Chief Architect Officerの内田康弘氏 |
20代の社長が率いる若い会社
SASTIK Tool Bar。共有フォルダーやウェブメールを簡単に呼び出せる |
サスライトは2004年7月に設立されたばかりの非常に若い会社だ。代表取締役社長の植松真司(うえまつ しんじ)氏は25歳。SASTIKの最初の製品が発表されたのは昨年10月で、今年4月にはソフトの機能を改善し、オンラインストレージの容量もアップした第2世代の製品が発表されている。
現在サスライトの代表取締役会長を務める小林眞也(こばやし しんや)氏は、当時娘の家庭教師をしていた植松氏に「パソコンをもっと手軽に使えないか?」という相談を持ちかけた。その過程でUSBを利用した認証デバイスのアイデアが生まれたという。東京大学工学部に在学中だった植松氏は小林氏の協力のもと、2003年2月にサスライトの前身となる(有)ユミックスを設立した。SASTIKは半導体メーカーの(株)ルネサス テクノロジと共同開発したもので、チップの製造はルネサスが行なっている。
開発の責任者を務める内田氏は広島のソフトウェア会社に就職。家庭用ホームサーバーに関する広島大学との産学協同プロジェクトや大手メーカーのオンラインストレージサービスの開発に携わったのち、サスライトに入社した。社員数は少ないが、全員が開発に加わる形で頭をひねっている。要望はできる限り反映するスタンスで機能の向上を図っているという。
差してすぐ使えるがコンセプト
外出時にはノートパソコンを持ち運んでいるが、実際に使用するのはメールやウェブ程度という人も少なくないだろう。最近ではネットカフェも増え、街中でネットにつなげるパソコンを探すこともかなり容易になった。SASTIKは、こういったパソコンに差すだけで簡単に自分仕様にできるという魔法のスイッチのようなデバイスだ。パソコンを持ち運ぶのではなく、手近にあるパソコンを自分仕様に変えるという“逆転の発想”で、ネットワークを利用した新しいモバイルの形を提案している。
SASTIK Group Serverの管理画面 |
サスライトが新しい展開として考えている“モバイルシンクライアント”はこのSASTIKのコンセプトを企業システムに応用したものだ。SASTIKをパソコンに差した際の接続先を各企業が用意したサーバーとすることで、個人向けのSASTIKにはないカスタマイズを行なえる。SASTIK Gropu Serverの特徴に関して内田氏は以下のように述べる。
USBデバイスとしたことで、Windows 2000以降であればドライバー不要で利用でき、ハードウェア認証によって高いセキュリティーが得られる点もアピールしたいポイントだという。
SASTIK Group Serverはすでに関西の報道機関での採用が予定されている。また、ASPサービスとして展開し、中小企業などが導入しやすい管理者が不要でコストの低いグループウェアのシステムを構築したり、会員制サイトのコンテンツキー的な応用も考えているという。
編集部の取材に対して内田氏は「SASTIKを差すと“何かが起こる”。そこがおもしろいところ」とコメントした。