技術者の仕事は過酷だ。納期が迫れば徹夜も辞さない。土壇場の仕様変更もある。製品への思い入れがなければ始まらない仕事なのだ。特にノートPCにはサイズや重量の制約があり、性能と品質を両立するための技術的な工夫がデスクトップPCの何倍も要求される。それだけ、設計に関わる技術者の苦悩も多い。ここでは、日本IBMとNECの最新マシンにスポットを当て、ノートPC設計のコンセプトと開発の現場に迫る。
入力デバイスにかけるこだわり
日本IBMの「ThinkPad」シリーズは、漆黒のボディと赤いTrackPointがトレードマークである。TrackPointはタッチパッドと人気を二分するスティックタイプのポインティングデバイスであり、ThinkPadシリーズに一環して採用されてきた。
ノートPCを選択する基準は人によってさまざまだ。それは、大きさや重さだったり、デザインだったり、機能の豊富さだったりする。しかし、マシンが長く支持されるためには何よりも「使いやすく」なくてはならない。そして、使いやすさを決める重要なポイントがポインティングデバイスとキーボードという2種類の入力デバイスである。これらは、最も触れる時間が長い部品だけに、マシンの操作感を大きく左右する。IBMは、このTrackPointの使いやすさと、キーボードの打ちやすさに徹底的にこだわってきた数少ないメーカーのひとつである。ThinkPadのキーボードに絶大な信頼を寄せるユーザーも少なくない。
写真1 5月13日に発表された「ThinkPad T30」。Pentium 4-M-1.60GHz/同-1.80GHz搭載のA4ノート。写真をクリックすると発表時のニュース記事に移動します。 |
まずはThinkPadシリーズの人気を支える入力デバイスの構造と設計する上での思想について解説していくことにする。
ダブル・ポインティングデバイス搭載で実現する新たな伝統
『ThinkPad T30』
TrackPointはThinkPadの代名詞である。しかし、そんな常識を破る製品が5月に登場した。「ThinkPad T30」である。ThinkPad T30はThinkPad 600→T20の流れを汲むA4スリムノートで、CPUにPentium 4-1.8GHzを搭載するなど、同シリーズのフラッグシップ的存在になっている。外見上の一番の特徴は何といってもパームレスト部分に搭載したタッチパッドである。これは主にTrackPointになじめない初心者ユーザーを対象にしたものだが、それだけで終わらないのがIBMらしいところである。
2つのポインティングデバイスは、
- スティックだけを使用
- パッドだけを使用
- スティックをカーソル移動、パッドを拡張機能として利用
- パッドをカーソル移動、スティックを拡張機能に利用
- 両方使用する