アドビシステムズ(株)は、7月15日付けで新しい代表取締役社長に元代表取締役副社長の石井幹氏が就任したと発表した。石井氏は同時に米アドビシステムズ社副社長の役職にも就いた。昨年9月の堀昭一氏の退任以降、本社幹部が兼任する形をとってきた同社のトップ人事だったが、ほぼ1年ぶりの日本人社長の誕生となった。そこで、新社長に就任した石井氏に新たなフェーズを迎えた同社の今後の方向性などについてお話を伺った。聞き手は千葉英寿氏。
アドビシステムズ日本法人の社長に就任した石井幹氏 |
石井氏は昨年9月に代表取締役副社長に就任し、米アドビシステムズ社ワールドワイドセールス担当上級副社長(当時)のグラハム・フリーマン氏、ワールドワイドセールスおよびフィールドオペレーション担当上級副社長のジム・スティーブンス氏が同社を統括する間、実質的な日本市場におけるリーダーとして、重要な変化の時期にある同社のビジネスを牽引してきた。
海外企業の国内法人において日本人社長は定着が難しい人事ではあるが、今回の石井氏就任は買収合併による移籍といった経緯はあったものの、同社のルーツのひとつが旧アルダス社出身ということを考えれば、正に“生え抜き”社長の誕生と言えるだろう。
石井氏は(株)サムシンググッド(現:(株)アイフォー)において、DTP三種の神器のひとつと言われた旧アルダスのページレイアウトソフト『Aldus PageMaker』(現:Adobe PageMaker)の日本語化および日本市場投入に尽力し、その後、旧アルダス、そして移籍後のアドビにおいてマーケティングや営業の要職を歴任してきた人物だ。特にDTP、グラフィックスデザインの世界に身を置く業界人にとってはおなじみの人物といえる。
アドビにとって日本市場は米国に次いで2番目に大きな市場であり、プリンターをはじめとする製版/印刷関連といった同社の技術に深く関与する技術、製品を多く持つ国として重視されてきた。そうしたことからも、同社としても石井氏の手腕に期待がかかるところだ。その石井氏に、今後のアドビ日本法人の新体制や経営戦略などについてお話を伺った。
これまでアドビと言えばグラフィックス色が強かったわけですが、最近ではePaperやAcrobat関連の製品が急激に伸びてきて、顧客の層にも変化が現われています。さらにその流れを加速する形でアクセリオ社の買収があり、これに伴ってエンタープライズ系の顧客にきちんと対応できるキーのマネジメントがでてきています。こうした変化は半年前ぐらいから起こっており、日本は日本で進めていく必要性がますます出てきています。
こうした変化を土台として、ふたつのポイントで進めていこうと考えています。まずひとつは“スピードとの勝負”です。お客様への対応もそうですし、製品を出していくスピードもあります。戦略を実現に移していくこともそうです。とにかくスピードということを念頭において、早い時期に結果を出していくことがわれわれの大きな課題だと考えています。
もうひとつは、だれかひとりが音頭をとるのではなく、ひとりひとりの生産性を上げることが必要だと考えています。つまり“持てる力を十分に引き出していける組織づくり”を進めていくことです。この2点が新たに考えていることです。
そのひとつとしてサービスサポート部門を強化します。今回、アクセリオ社の買収を機に“プロフェッショナル・サービス部”という部門を新設しました。お客様に対してシステム構築をアドバイスしたり、お客様のところに積極的に出向いて行くことでコミュニケーションを深める意味があります。
もうひとつは営業部門を強化します。これまでもePaperやAcrobatの部門に関しては、これを重視し人員を投入してきましたが、大手法人担当部門として新たに“エンタープライズ営業部”を設置しました。ここにはこの分野に関して経験豊富なマネージャーを採用して、特定の顧客にダイレクトに営業サイドからコミュニケーションがとれる体制をとっています。このふたつの取り組みにより、製品を買っていただくためのコミュニケーションが強化されると信じています。
というのは、アドビの提供するテクノロジーや製品はコンポーネントだと考えていまして、お客様が必要とするのはシステムやソリューションという形であり、それ以上に結果として得られるビジネス上のメリットに投資するわけです。それを最終的に提供することができるのはシステムインテグレーションのできるパートナーでしかあり得ないと考えています。