(株)メルコは2日、無線LANのアクセス拠点と活用範囲の拡大を目的として、無料でインターネット無線スポットを提供するサービス“FREE SPOT”を展開すると発表した。併せて、自宅や出先でもオフィスと同じネットワーク環境を提供する事業戦略“BAO(BUFFALO Anywhere Office)”構想を発表した。
メルコ代表取締役社長の牧誠氏 |
発表会の冒頭で、メルコ代表取締役社長の牧誠氏は「e-Japan重点計画の目標は、あらゆる場所で誰もが気軽にインターネットに接続できる“ユビキタス・ネットワーク社会”を実現することにある。企業と家庭にはブロードバンドが普及したが、公共の場におけるインターネット接続は実現できていない。真のユビキタスネットワークのためには、ホットスポットを公衆電話並の数百万台設置しなければならない。有料のホットスポットサービスも出てきているが、これをビジネスとして成立させるのは難しいと、米国の事例で学んだ」
ユビキタス・ネットワークへの課題 |
「ユビキタス・ネットワークを推進するために、我々は“FREE SPOT”を提案する。これは、アクセスのための認証・課金を行なわない無料のホットスポットサービスを、飲食店や商店街などの公共の場に設置してもらおうというもの。誰が無料でそんなことをするのかと言われるかもしれないが、有料のホットスポットサービスは、課金システムや認証システムの初期投資や、ネットワークの信頼性の確立のほか、ユーザーサポートなどにかなりコストがかかる。そこで、認証も課金も行なわず、回線の保証もユーザーサポートも行なわない、無料のホットスポットサービスを提供してみることにした。そのために“FREE SPOT導入キット”『FS-10』などの販売を行ない、“FREE SPOT協議会”を設立して、協同PRや専用サイトなどによってFREE SPOTの普及促進を図る」
FREE SPOTの概要 |
「FREE SPOTを導入した場合、回線費用や電気代などで月4000円ほどのコストはかかるが、約3年で減価償却できる。この月4000円というのは、例えば喫茶店で、1ヵ月間新聞を取る料金と大体同じ。それぐらいの料金で無料ホットスポットの運営を行なえる。設置オーナーにとってメリットとなる機能も用意しているし、集客率のアップにもつながるだろう」と語った。
“FREESPOT導入キット”『FS-01』の内容物 |
“FREESPOT導入キット”『FS-01』は、メルコの無線LANアクセスポイントとサポートサービス、および運営を支援するポスターやチラシなどをワンパッケージにしたもので、店頭で販売を行なう。価格は3万9800円。7月中旬ごろの出荷を予定している。
FREE SPOT専用の新機能を搭載した無線LANアクセスポイント『WLAR-L11G-L-FS』 |
内容物は、同社の“AirStation BroadBandルータモデル”『WLAR-L11G-L』に、FREE SPOT専用の新機能を搭載した『WLAR-L11G-L-FS』と、訪問設定サービス(初回設置時のみ有効)、および運営を支援するツールとして、“FREE SPOT”のポスター(21×61cm)×2枚、ステッカー(10×10cm)×3枚、ユーザー向けの三角テント型接続ガイド(17.5×8cm、3面組み立て式)×3個が付属している。
“FREE SPOTサポートキット”『FS-02』に含まれるのぼり(竿付き) |
また、すでに無線LANアクセスポイントを所有している設置オーナー向けに、“FREE SPOTサポートキット”『FS-02』の提供も行なう。7月下旬の出荷を予定している。価格は4800円。FREE SPOTのウェブサイトから購入できる。内容物は、のぼり(50×150cm、竿付き)×1本、ポスター×2枚、ステッカー×3枚、三角テント型接続ガイド×3個となっている。
WLAR-L11G-L-FSが搭載しているFREE SPOT専用の新機能は、アクセスポイントに接続しているクライアントパソコン間の接続を禁止する“PS(Privacy Separator)”機能と、クライアントパソコンがインターネットに接続する際に、あらかじめ指定したURLをポップアップ表示する“PT(Privacy Technology)”機能、およびアクセス可能な時間帯をタイマーで指定できる“ATC(Access Time Contorol)”機能の3つ。PS機能によってセキュリティーを確立できるほか、PT機能によって、設置オーナーがユーザーに対して情報を発信できるようになっている。
アクセスログに関しては、メルコ側で回収して保存する。原則としてアクセスログは公開しないとしているが、ウイルスを配布するなど悪質な行為があった場合には、警察からの要求に応じてアクセスログを開示するという。
FREE SPOT協議会 |
また同社は、“FREE SPOT協議会”を設立した。パソコンベンダーやISP、業界団体や官公庁などで構成される同協議会は、ユビキタス・ネットワーク社会の推進のため、FREE SPOTの普及促進を図るという。具体的には、業界専門誌への特集記事の掲載や、官公庁や業界団体に対する提案などを行なっていくとしている。現在の参加メンバーは、コンパックコンピュータ(株)、シャープ(株)、(株)東芝のPC事業部、松下電器産業(株)のITプロダクツ事業部、ジェンズ(株)、日本テレコム(株)の7社で、メルコが事務局となる。さらに、専用ウェブサイト“freespot.net”を開設した。同サイトでは、FREESPOTの説明や情報、導入の詳細事例やFREE SPOT設置個所のマップ、およびユーザーの設定方法の案内やFREE SPOT導入キットの申し込み受付ページなどを掲載している。
新事業推進室事業推進グループリーダーの青木洋之氏 |
新事業推進室事業推進グループリーダーの青木洋之氏は、「公共の場のホットスポット化を阻害する障壁は、大別して4つ。つまり、導入オーナーへのメリットがないことと、無線LAN機器の設置・設定に必要な知識がオーナーに無いこと。またセキュリティーに関する問題や、集客のためのPRが足らないこともある。FREE SPOT専用無線LANアクセスポイントは、PT機能によってオーナーへのメリットを提供し、PS機能によってセキュリティーを確立できる。訪問設定サービスも含まれているので、手軽に設置を行なえる。PRに関しては、FREE SPOT協議会が啓蒙や促進活動を行なっている」
「実際に設置し、どのような形態でサービスを提供するかについては、有料にするか無料にするかも含めて、設置オーナーに任せている。一例を挙げれば、ある飲食店では、利用ユーザーに対して会員証を発行している。これによって顧客管理を行なえるほか、悪質な行為があった場合は、利用していたユーザーの特定もできる。運営の仕方としては面白い例」と述べた。また、目標としては「年内に1万ヵ所への設置を目指す」としている。
取締役ネットワーク事業部長の西岡孝行氏 |
続けて“BAO”構想について、取締役ネットワーク事業部長の西岡孝行氏が説明した。同氏は「会社でも外出先でも自宅でも、セキュアーなオフィスの環境を提供するというのが、BAOの基本的な考え方。企業における無線LAN接続では、複数台のクライアントの管理や、ESSIDとWEPのセキュリティーの脆弱性のなどに問題があり、導入を躊躇している企業が多くある。これに対し弊社は、日本ルーセント・テクノロジー(株)と協業し、ルーセントが持っているセキュリティーソフトと、弊社の無線LAN機器を組み合わせたセキュアーな無線LANソリューションを提供する」としている。
BAO構想を推進するための要素として、メルコは“無線LANセキュリティーソリューション”“VPNソリューション”“FREE SPOTソリューション”という3つの柱を中心に展開していくという。
セキュアーな通信経路を確保する技術“IEEE802.1x/EAP” |
無線LANセキュリティーソリューションに関しては、無線LANアクセスポイント、およびRADIUSサーバーと、クライアントの相互認証により、セキュアーな通信経路を確保する技術“IEEE802.1x/EAP”を用いる。IEEE802.1x/EAPに対応するアクセスポイントとして、メルコは“AirStation Pro”『WLM-L11G』を提供しており、これと組み合わせるRADIUSサーバーソフト“AirStation RADIUS”『WL-RA1X』を秋ごろに提供するとしている。価格は、5台までのWLM-L11Gを管理できる基本パッケージで19万8000円の予定。
VPNソリューション |
VPNソリューションに関しては、ルーセント製のVPNファイアーウォール装置『Brick』と、認証サーバー『LSMS』を採用し、IPsecによる認証と暗号化でセキュアーなアクセスを提供するという。また、このVPNソリューションとFREE SPOTソリューションを組み合わせれば、外出先でもオフィスと同じネットワーク環境を利用して業務を行なえる。
ルーセントの無線LANセキュリティープロジェクトディレクターである井上雅雄氏 |
ルーセントの無線LANセキュリティープロジェクトディレクターである井上雅雄氏は、この協業について「無線LAN市場でナンバーワンのメルコと協業できるのは極めて大きなインパクトがある。今回の協業は、互いの事業の重複する部分が少ない強力なアライアンスであると自負している。ルーセントは通信事業者や大企業などを中心にBAO構想を提案し、メルコはパートナーを通じてSOHOや中小企業に提案する。つまり、両面からBAOの販売体制を作っていくことになる。これにより、日本の無線LAN市場が発達し、e-Japanが目指す大きな市場になることを望んでいる」と語った。
企業向けのBAO構想 |