東京都文京区の加賀電子(株)本社8階の片隅に、1台の着信専用電話がある。その電話には“モルディブ共和国名誉総領事館”と書かれたシールが貼られている。
“モルディブ共和国名誉総領事館”と書かれた電話 |
本社正面受け付けには、日の丸とモルディブ国旗が並び、ここにもモルディブ共和国名誉総領事館と書かれている。
日の丸とモルディブ国旗が並ぶ |
8階のパーティションで区切られた廊下には、美しいサンゴ礁やエメラルドブルーの海の写真が並び、中央には英語で書かれた任命書のようなものがある。
パーティションで区切られた廊下 |
それはモルディブの“The Minister of Foreign Affairs(外務省)”による文章で、こう書かれている。
- the Government of the Republic of Maldives has named and appointed Mr. Isao Tsukamoto its Honorary Consul in Tokyo, Japan.
- (モルディブ共和国政府は、塚本勲氏(加賀電子取締役社長)を日本・東京における名誉総領事に任命する。)
名誉総領事任命書 |
“TAXAN”ブランドのパソコン周辺機器で知られる加賀電子は、実は総領事館なのか? だとすると、加賀電子には日本の法律は通用しないのか? 早速取材してみた。
治外法権はありません
モルディブ共和国は、“真珠の首飾り”と呼ばれる美しい国だ。
インド亜大陸から南西へ600kmのインド洋上、東西120km、南北760kmの範囲に渡って、26の環礁と約1200の島々で構成されている。人口約25万人、主要産業は漁業と観光で、国民の多くはイスラム教徒である。
なぜ、加賀電子の社長が、そのモルディブ共和国の名誉総領事に就任したのか? 塚本社長は、知人を通して故小渕恵三総理と面識があったためだとしている。小渕総理が橋本政権の外務大臣だった1997年、当時の名誉総領事が退任した。日本にとってモルディブは中東からの航路上にあり、石油戦略上、友好関係を保つ必要があった。小渕外相は後任を探し、知人である塚本社長に声をかけた。そして、1997年6月以降、塚本社長が名誉総領事を務めている。
塚本勲モルディブ共和国名誉総領事(加賀電子社長) |
この“名誉総領事”というのは完全にボランティアなのだという。加賀電子本社に治外法権は設定されておらず、大使館ナンバー(※1)も交付されていない。園遊会などの宮中の行事に招かれたり、故小渕総理の葬儀のときに代表団として早い順位で献花できたり、といったことが役得。園遊会で2度、皇后さまに声をかけられたのは、「この通り顔が黒いから」(モルディブの人と間違われたから?)だと、塚本社長は笑った。
※1 通常の自動車のナンバープレートとは違い、横長のプレートに“外-xxxxxx”などと表記されているプレート。実際に総領事館としての業務を行なっているのは、塚本社長以下、兼任している社長室の2名のみ。主な業務内容は、年に数人訪日する、政府関係者や視察団のスケジュールのセッティングを、外務省などと共同して行なうこと。9月末に、モルディブの大統領が初来日するため、まもなくその準備に追われることになるという。また、モルディブを訪れる日本人観光客からの問い合わせも受け付けるが、ビザは現地で取得できるため、事務手続きなども行なわない。
名誉総領事館の最も重要な業務は、モルディブを広く日本で紹介することだ。テレビ番組で扱ってもらうよう依頼したり、航空各社への直行便設置の要請、旅行会社へツアー旅行企画の依頼などを行なっている
その甲斐あってか、9月2日より週2便、スリランカ航空の直行便が日本とモルディブを結ぶようになるという。モルディブへは現在、年間約4万7000人の日本人観光客が訪れるが、塚本社長はそれを年間5万人にするのが、今年度の目標だとしている。
塚本社長によれば、モルディブ料理はインド料理に似て、非常に辛いとか。辛いものに目がない方、すばらしく青い海でダイビングをしたい方は、1度訪れてみてはいかが?
塚本社長・名誉総領事の名刺 |