デジタルカメラでは、長時間露光をすると「熱ノイズ」が発生し、画質が低下してしまう。熱ノイズは低い温度では減少するので、デジタルカメラを“冷やせば”ノイズのないクリアな画像が得られるかも知れない。そこで、ここではCCD部を冷却して画像がどうなるか実際に検証してみた。一応書いておくが、あまり真似しように。
夜景に写り込む“熱ノイズ”
デジタルカメラの評価基準には、外観(スタイル)や携帯性、速写性能、電池駆動時間などいろいろあるが、なによりも比重が高いのが画質であることは間違いないだろう。画質のチェックポイントには、階調や発色といった基準に加えてノイズの有無もある。
スローシャッターでの撮影例。使用したカメラはオリンパスの「CAMEDIA C-700 UltraZoom」(ノイズリダクションなし)。露光時間は10秒。元画像は1600×1200ドットで、640×480ドットにトリミングしている。夜空に散っているのは星ではなくCCDノイズ(若干星も写っているはずだが)。 |
ノイズには、CCDから信号を転送する際に電磁波などを受けて生じるものや、画像処理の際に載ってしまうものもあるが、デジタルカメラにおいてとくに問題となるのが“暗電流ノイズ”もしくは“熱ノイズ”と呼ばれるものだ。これはCCDの素子に光が当たっていなくても生じる“余計な”電荷で、露光時間(シャッター速度)が長いほど電荷が蓄積されてゆく。CCDが光を受けて生じる電荷と区別できないため、結果的にスローシャッターで夜景などを撮ると、光点がカラフルに散ったようなノイズまみれの画像になってしまう。また、デジタルカメラの多くはCCDの感度を変更できる機能を持つが、感度を上げるということは少ない電荷を増幅しているわけなので、微小なノイズも増幅されてしまい、ノイズの影響が大きく画質に響いてくる。
デジタルカメラのノイズリダクション機能
ノイズリダクションの撮影例。オリンパス「CAMEDIA C-4040ZOOM」を用いたもので、元画像は1704×2272ドットだが、360×480ドットにリサイズしたものを並べている。 |
2000年あたりから、デジタルカメラではノイズリダクションという機能を搭載するものが多くなってきた。これは、夜景などを撮影したあとでもう一度、シャッターを閉めたままで撮影時間と同じだけ露光することでノイズ(ダークフレームという)を撮影し、先に撮影した画像と減算合成することによりノイズを補正するというものだ。
ノイズリダクションの撮影例のアップ。それぞれ中央部を380×480ドットにトリミングしたもの。サンプル画像の露光時間は4秒だが、シャッター1秒よりも長くなるとこのようにノイズが肉眼で見えてくる。 |
デジタルカメラメーカーとして比較的早期に多くの機種に導入したのはカシオ計算機で、
- 「QV-3500EX」
- 「QV-2400UX」
- 「QV-2900UX」
- 「QV-4000」
――など、現行のほぼすべての機種に搭載している。
キヤノンは「PowerShot G1」以降から搭載し
――など。
ニコンは「COOLPIX 990」以降の「COOLPIX 995」など。東芝は「Allegretto M71」以降で「Allegretto M81」などが搭載している。オリンパスは少々導入が遅れて、最新機種である「CAMEDIA C-4040ZOOM」にようやく搭載された。
多くのデジタルカメラでは、シャッター速度が1秒前後よりも長くなるとノイズが目立つようになるため、スローシャッターの利用時には自動的にノイズリダクションが効くようになるという方式を採用している。メニューからノイズリダクション機能をON/OFFできる機能を持つオリンパスの「CAMEDIA C-4040ZOOM」を使って、同じシャッター速度で撮影してみると、その効果がよくわかる。
とはいえ、ノイズリダクションも万全ではなく、たとえば長時間の露光によりCCDが熱ノイズによって飽和してしまったら減算合成しても元画像に写るべきドット情報は残らないことになる。カシオのQVシリーズで、シャッター速度にBULB(シャッターボタンを押している間は露光するモード)にしても“最長60秒間まで”という制限があるのもこういった理由によるものだろう。なんにせよ元々のCCDの熱ノイズが少ないに越したことはない。
デジタルカメラの感度設定の違いにおけるノイズの例。デジタルカメラはカシオの「QV-2800UX」を使用。CCD感度はISO 80/160/320の3種類から選択できるが、感度を上げれば上げるほどノイズが載るようになり、画像がざらついた感じになる。元画像は1600×1200ドットで、各画像をトリミングして掲載。 |
熱ノイズはスローシャッターで目立つようになるほか、CCDの感度を上げた状態では少ないCCD電荷からその差(つまり階調)を読み出しているため、ノイズも増幅されて画像が荒れることになる。多くのデジタルカメラはCCD感度を変更する機能を持つが、高感度にすればそれだけ画像が劣化するため、画質を気にするならば低感度に固定して利用するのが一般的だ。
さて、熱ノイズは温度が高いほど多くなる傾向にあり、デジタルカメラ動作中はCCDそのものが熱を出すため、連続して撮影すればノイズはどんどん多くなってゆく。ではノイズリダクションといった方式なしにノイズを減らすにはどうすればよいのかというと、CCDを冷やせばいいわけだ。
実際、天体観測の世界では「冷却CCD」と呼ばれる撮像素子が個人レベルでも使われており、天体望遠鏡にセットして数分~10分程度の露光時間で星雲写真を撮っていたりする。CCDの感度が銀塩フィルムよりも高いため、銀塩フィルムよりも露光時間が短かくて済む(銀塩では数時間にもおよぶ露光がある)という利点があり、400万画素を超える画素数を持つ製品も登場している。ただし、35万画素程度のものでも20万円以上、100万画素以上のものは50万円以上と、相当の天文マニアでなければ手の出しにくい製品だ。興味のある方は、サーチエンジンなどで「冷却CCD」を検索してみてほしい。