3種類のCPUクーラーを用意
今回は「Athlon-1.2GHzのオーバークロック性能を試す」の冒頭でお約束したCPUクーラーの性能比較レポートをお伝えしよう。まず、ひと言で“CPUクーラー”と言っても多種多様な製品が販売されており、正直なところ「どれがいいの?」と聞かれても返答に困るほどである。例えば「静かなファンが…」と、ある程度のニーズが決まっていれば選択肢も限られてくるわけで、このレポートでは、入手性のいい市販のCPUクーラーのなかから「オーバークロックを使用目的に」としてフィルターを通し、製品を選抜しよう考えた(時期によっては、入手困難なものもあるかもしれないが…)。
ところが、それでも絞りきれない候補が各ショップの店内に並んでおり、筆者一人の力量ではとてもこなせそうにないとすぐに察した。そこで「ヒートシンクの材質や構造が異なる製品」と更に2次フィルターを追加して絞り込んだのが、前回のお話で紹介した次の3製品である。改めて紹介しておくとヒートシンクの素材が全てアルミでできたカノープス製「Firebird R7」、そして銅とアルミのハイブリッド構造を採用したSNE(Tai Sol Electronics)製「CGK761CU-BIG」、最後に素材全てが銅でつくられたカニエ製「Hedgehog-238M」である。それでは、テストを始める前にそれぞれの製品の特徴を私感的ではあるが述べておこう。なお、主な製品仕様は【表1】に書き出した。
【表1】CPUクーラー仕様一覧表
メーカー名 | カノープス | SNE(Tai Sol Electronics) | カニエ製 |
---|---|---|---|
製品名 | Firebird R7 | CGK761CU-BIG | Hedgehog-238M |
実売価格 | 約5000円 | 約7000円 | 約4000円 |
ヒートシンクサイズ(実測値) | 60×77×33mm | 60×80×46mm | 60×57×40mm |
ヒートシンク材質 | アルミ | 銅&アルミ | 銅 |
ファンサイズ | 60×60×15mm | 60×60×20mm | 60×60×25mm |
ファン回転数 | 4500rpm | 4400rpm | 5000rpm |
回転数検出パルス数 | 3Pulse/Revolutions | 2Pulse/Revolutions | 2Pulse/Revolutions |
付属品 | 熱伝導グリス、脱着工具 | 熱伝導シート | - |
●カノープス製「Firebird R7」
第1回のお話で実施したテストから本製品を使用しているわけだが、選考理由は前話の中で述べた通りCPUクーラーの脱着作業に際して最も安全だと判断したからである。
これまでに写真撮影など、何度かその着脱作業を余儀なくされたが、CPUソケットのツメにはめ込んだヒートシンクを固定する金具(CanopusはIron Clawと呼ぶ)は、写真1のように製品同梱の専用工具を固定金具に挿入し、少し押さえ込みながら工具を若干斜めに倒すことでスムーズに外せた。また、固定時も同様に工具を使用することで比較的安心して装着できる親切な設計となっている。とかくオーバークロックにCPUの脱着は付きものなのでこういう機能はありがたい。一方、ヒートシンク形状は、従来のものと異なり、これならファンが吹き付ける気流が底面で反射して渦を発生するというロスも比較的最小限におさえられて、スムーズにフィンの間を通過していくように思われるデザインとなっている。これで期待する冷却性能を有するなら脱着作業性の良さとあわせてオーバークロック向けスタンダードCPUクーラーとして推奨できるだろう。
●SNE(Tai Sol Electronics)製「CGK761CU-BIG」
この製品は、用意した製品の中で実売価格が最も高価である。だが、ヒートシンクのつくりを観察し、素人考えであってもその製造プロセスを想像すれば、高価な理由も自ずと理解できるだろう。
説明するまでもないと思うが写真は、CPUに接する面を撮影しており、コアに接する部分には、熱伝導率がアルミより優れている銅を採用している。また、伝わってきた熱を放散するフィンは、銅より軽量なアルミをその材質にしているわけだ。そして、双方の利点を巧みに融合させた構造となっている。なお、ファンの風向は、ヒートシンクに吹き付ける方向に取りつけられている。さらにヒートシンクを固定する金具に注目するとCPUソケットのツメ(AMDでは、Lugと呼ぶ。直訳すると「取っ手」)6カ所すべてに引っかける仕様であり、ヒートシンクをCPU方向に3点で押さえ込んでいる。そのホールド性は、優れていると思われるが、いざCPUクーラーを取り外すとなると苦労しそうに思えた。
●カニエ製「Hedgehog-238M」
特筆できる点は、その価格である。従来、素材が「銅」=「高価」と言う公式が当たり前だったが、プライスカードをみて「え?!」と驚いたのは、筆者だけではないと思う。「7,000円いや8,000円ほどの価格が付けられていても、おかしくはないハズだ」と疑問を抱いたのだが商品を拝見してその理由がすぐに推察できた。
早い話が銅の塊から切り出すのではなく「ツーピース構造」とでも言えばいいのだろうか? 写真を見ればご理解いただけると思うが、CPUのコアと接するベース部分はプレート状であり、片面にフィンが立ち並ぶ複数の溝が引いてある。一方、フィンは、銅板をくし状に打ち抜いた一つのパーツで、先のプレートの溝に一枚づつはめ込んで圧着固定する技法から成り立っているようだ。なお、ファンは、ヒートシンクにスカートを装着しておいて空気を吸い出す方向に固定する。また、ヒートシンクを固定する金具のテンションは十分に強力だ。したがってCPUクーラー脱着時のコア欠け事故には十分注意が必要だろう。それにしても良心的な価格設定だと思うのだが、果たしてその性能は如何に...