'87年9月20日のファイナルコンサートから13年、“おニャン子クラブ”の歌声がインターネットで蘇る――。今日27日より、(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)と(株)ポニーキャニオンのウェブサイトにおいて、合計14曲の有料音楽配信サービスが始まった。価格は1曲300円~368円(※1)で、なかには『バレンタイン・キッス』や『セーラー服を脱がさないで』など、ファンならずとも親しんだ曲も。
今回編集部では、SMEの有料音楽配信サービス“bitmusic”を担当するプロデューサー加納糾(おさむ)氏と、渡辺満里奈の元担当で、旧譜担当セクション“GT music”の現チーフという山下鉄男氏に、なぜ今“おニャン子”なのか、旧譜配信サービスの概況と併せて訊いた。
※1 SMEが1曲300(税込)、ポニーキャニオンが1曲350円(税込368円)SMEは、『バレンタイン・キッス』(国生さゆりwithおニャン子クラブ)や、『マリーナの夏』(渡辺満里奈)など9曲を配信する |
ポニーキャニオンは、『セーラー服を脱がさないで』(おニャン子クラブ)や、『MUGO・ん…色っぽい』(工藤静香)など6曲を配信。9月20日発売の新アルバムに収められた、ユーロバージョンもあるぞ(c)Pony Canyon Inc. |
今回配信される楽曲の一覧。『涙の茉莉花LOVE』から『ホワイトラビットからのメッセージ』までがSME、『SERAFUKU O NUGASANAIDE』から『くちびるから媚薬』までがポニーキャニオン |
大物歌手のダウンロード数が伸びなかったワケ
SMEが“bitmusic”で旧譜の配信を始めたのは、今年5月のこと。'99年末の新譜販売より遅れること約5ヵ月、“思い出の名曲の有料配信サービス「bitmusic GT」”の名称でスタートした。9月27日現在で、“おニャン子”を除き、15人のアーティストによる46曲が販売されている。
「正直に言って、もしこれで人気が出なかったら今後の“bitmusic GT”の活動に支障が出ると思い、自分でもダウンロードしたほどでした。ところが、そんなことをする必要がないくらい良い結果が出て、ビックリしたというのが本音です」
「それから、続く太田裕美や、渡辺真知子も驚く数字を出しました。そこで、旧譜がこれだけきているならと、ある大物アーティストを期待をしてやったら、ガクーッと――」」
「旧譜の売れ筋の傾向として、ドーナツ盤レコードの時代のアーティストが人気を集めています。アナログのレコードは持っていても、プレーヤーがないとか、針がないとか、実家の蔵に眠っているとか――、“今すぐ聞こうと思っても、ちょっと聞けないような曲”です」
会員番号8、国生さゆり。解散後も芸能活動を続け、この秋は舞台に初チャレンジという |
ドーナツ盤を大量に売った昭和最後のアイドル
「もう1つ、なぜ今“おニャン子”なのかと言えば、“bitmusic”ユーザーにとって、“おニャン子”がストライクゾーンだと考えたからです。今現在の“bitmusic”ユーザーは、世代別に見ると25才~45才が約65パーセントを占め、性別で見ると男性が85パーセントと、圧倒的多数です」
「こうしたデータから、一番ハマるかなと考えました。ベストコレクションCDが各社連動で出ているんですが、“おニャン子”の最盛期のファンは、今は仕事で忙しくてCDショップに足を運んでいないという世代です。今回、ポニーキャニオンも同時に配信を始めますから、商品もアピールして盛り上げたいと思います」 --“おニャン子”は、当時150億円市場と言われていたと記憶しています。僕もその世代ですが、郷愁と言いますか、今手元にないものをもう一回確認したいという思いはあります」
“時流の音”に再マスタリング
「配信用にファイルを作るのは、大変な作業です。CDから落としても音質に問題がないのかもしれませんが、レコーディングスタジオで作業をしているので、どうしても時間がかかります。そのぶん手間が掛かるのですが、“bitmusic”の価格はCDの価格から割り出したものですから、CDに近い品質でユーザーに届けたいというのが、我々のスタンスです」
「レコード会社のビジネスは、大きく別けて2つです。新譜と旧譜。旧譜という括りでは、10年前の曲も、20年前の曲も、30年前の曲もみなそうですから、膨大な数になります。世に出た曲もあれば、なかには、アーティストが残していったそうでない曲もあります」
会員番号12、河合その子。作曲家の後藤次利氏と、'94年4月に結婚 |
ユーザーリクエストで実現する企画も
「本当は今頃、全体で1日1000ダウンロードとか、目指していたんですけど。当初、“bitmusic”は新人アーティストの販促に良いシステムかなと思ったのですが、いざ蓋をあけてみると、ベストテンはCDの人気と連動したヒット曲で、11位から以下は旧譜ものでした。当初狙った新人アーティストは、微動だにせずという状態です」
「我々の品揃えにも問題があるとは思うのですが、“bitmusic”の利用ユーザーというのは、パソコンユーザーというかCDショップに足をあまり運ばない層が大半で、いわゆる“音楽ファン”はまだ少ないです。音楽にあまり関心がない層にとって、楽曲データは一種のデスクトップアクセサリーみたいなもので、1台のパソコンにそう多くの曲はいらないようです」
「音楽を購入してくださる方の受け皿が広がることは、非常に嬉しいことです。しかし、そういった層だけだと、商売に限界があることも確かです。幸い、ケーブルテレビを使ったインターネットユーザーが急激に増えていたりとか、年内にADSLが東京都と大阪でほぼ完備されるという状況があります。ダウンロード時間が早くなるということ売りにして、今年秋からは“今は音楽と言うのはこういった形態でやるのがカッコいいんですよ”といった部分を前面に出していきます」
最後に、今回インタビューに応じてくれた加納氏(左)と山下氏(右)。手前にズラっと並ぶのはSMEから発売中の“おニャン子”クラブのアルバムだ |