任意団体エコマネーネットワークの主催による第1回「エコマネー」セミナーが26日、東京都中央区のアーバンネット大手町ビルにおいて開催された。同ビル内のNTT東日本マルチメディア推進部を本会場とし、全国各地の13会場をTV電話などのネットワークで結んだセミナーとなった。
エコマネーによる地域活性化--東京会場
エコマネーネットワーク代表の加藤敏春氏は、ボランティア活動に評価を与え、通貨として換算することで、地域社会での相互扶助を促進する“エコマネー”というシステムを提唱している。このシステムについての講演が行なわれた後、全国をネットワークでつないだTV会議が行なわれた。
東京会場のパネリストは、国際グローコム所長の公文俊平氏、日本青年会議所次期会頭の上島一泰氏、東日本電信電話(株)取締役の小野伸治氏、ジャーナリストの野中ともよ氏の4名。さらに加藤敏春氏、そしてコーディネーターとしてNHK情報ネットワークでチーフプロデューサーを務める加藤和郎氏が登壇した。
東京会場のパネリスト。左から、NTT東日本の小野伸治氏、ジャーナリストの野中ともよ氏、日本青年会議所の上島一泰氏、国際グローコム所長の公文俊平氏 |
TV会議はまず、加藤和郎氏がパネリスト一人一人を紹介しながら、エコマネーについての意見を求めることで始まった。
最初に加藤敏春氏の恩師として紹介された公文氏は、社会生活における奉仕活動に新たな価値を与えるものとして、エコマネーを評価。「環境まで含め、社会全体の生活を楽しくする新しいシステムとして、エコマネーの可能性に期待している」と語った。
2000年1月から日本青年会議所の会頭に就任する上島氏は、市民のボランティア活動によって公園などの公共施設が整備されている実例を挙げ、このような活動が市民社会を豊かにしていると語った。「青年会議所の活動の一環として、エコマネーのようなアイデアを取り入れ、地域社会の活性化につなげたい」と、相互協力による地域コミュニティー再生への期待を表明した。
エコマネーネットワーク代表の加藤敏春氏(左)と、コーディネーターを務めたNHK情報ネットワークの加藤和郎氏 |
野中氏は、「エコマネーは、インターネットという道具が実用化して初めて可能になったヴィジョン。このようなシステムを通じて、社会に参加しながら人生を問い直すことができるようになるはず」と、エコマネーの意義について言及。その上で、「エコマネーの実現によって利益が奪われ、困る人たちも出てくるのでは。加藤さん、狙われますよ」と冗談めかしながらも、このシステムの実現によって、社会の価値観が大きく変化する可能性を示唆した。
NTT東日本の小野氏は、インフラの整備で情報地域格差が減少することにより、21世紀は地域コミュニティーの時代になるだろうと予見している。「福島県葛尾村での、NTTのマルチメディア・ヴィレッジ運用実験も成功をおさめようとしている。エコマネー実現のための道具立ては揃ってきた。今後は、こうしたインフラを最大限活用して、エコマネーの流通を推進していきたい」と述べた。
地方会場からの活動報告
次に、TV電話でつながれた日本各地の地方会場から意見、報告が寄せられた。ここではまず、北海道栗山町長の川口孝太郎氏が、ボランティア活動への取り組みとエコマネー実現に向けてのビジョンを報告した。TV電話越しに報告を行なった、北海道栗山町長の川口孝太郎氏(中央スクリーン) |
栗山町は、福祉を重視した政策で知られ、町立の介護福祉学校を'88年に開校。ボランティア活動を必須科目に加えているため、学生を中心として200人程度が奉仕活動に携わっている。エコマネーについても、今年研究会を発足。実現に向けての土壌は整っているので、具体的に検討していきたい、と語った。
長野県飯田市の飯伊地域メディア振興協会では、理事長の今村衛氏が挨拶。次いで飯田市で取り組んでいる“netday”(市内の小中学校にインターネット環境を提供する運動)についての報告や、環境改善・ゴミ処理問題対策としてのゴミ収集有料化、エコマネー研究会の設立など、具体的な活動や提案が各担当者から発表された。
エコマネーについては、すでに“飯田方式エコマネー”を発案。これは買い物の際にビニール袋を受け取らず持参した袋を利用する行動に対してエコマネーを与え、有料ゴミ袋と交換するというシステム。現在、早期実現に向けて構想を練り上げている。
長野県飯田市で飯伊地域メディア振興協会理事長を務める今村衛氏 |
富山県高岡市からは、富山県エコマネー研究会代表幹事の山中勇人氏が報告。赤字運営を続けている路面電車の問題や市街地の活性化という問題に対し、エコマネーシステムの導入を検討、提案している。藤子不二雄の故郷であることから、エコマネーの通貨単位を“ドラー”にしたいと、実現への期待を語った。
富山県高岡市の、富山県エコマネー研究会代表幹事である山中勇人氏 |
エコマネーの利用者は50人程度--滋賀県草津市
滋賀県草津市では、実際にエコマネーが流通している。“おうみ”事業部長の内山博史氏の報告によると、草津市には、市民のボランティア活動によって運営されている公設・市民営の施設である草津コミュニティ支援センターがあるという。その業務分担を評価するため、地域通貨“おうみ”(近江)が発案された。現在4200おうみが発行され、流通している。おうみは施設利用料金として使用できるほか、パソコン教室など自分の能力を活かしたボランタリーサービスをお互いに利用できるよう、サービス一覧のペーパーを作成し、配布している。電子決済も取り入れたこのシステムは、米ニューヨーク州イサカ市のエコマネーシステム“イサカアワー”を参考にしたもの。現在のところ、おうみの利用者は50人程度だが、今後の発展が期待されている。
滋賀県草津市、草津コミュニティ支援センター“おうみ”事業部長の内山博史氏 |
高知県高知市でも、エコマネーシステムの実現に向けて検討を重ねている。高知県商工労働部の斉藤群氏は、「高知市では、無線LANシステムを利用して市全体をネットワークで結ぶ構想を研究している。高知県の森林資源を保護するために、ボランティア植林などの手段も検討中だが、単なる奉仕ではなく経済活動的な取り組みを考えたい」と、高知市の現状を報告。
その上で、「エコマネーは“あったか”を通貨単位として、実現を考えている。インターネットを通じて、今後も全国の地域団体と交流を深め、意見交換を行ないたい」と述べた。
高知県高知市の高知県商工労働部、斉藤群氏 |
エコマネーが生み出す“拡大家族”--愛媛県関前村
最後に、愛媛県松山市でタイムダラー・インターナショナルネットワーク・イン・ジャパン代表理事を務めるヘロン久保田雅子氏が、関前村で導入している地域通貨活動を報告。“タイムダラー”は奉仕活動を時間単位で評価した地域通貨。すでに米国で利用されており、システムとしてはエコマネーと同じだ。関前村では通貨単位を“だんだん”(方言でありがとうの意)とし、相互扶助を行なっている。村内では知り合い同士が多いため、コーディネーターを通さず当人同士で相互扶助を行なうケースも増え始めている。
愛媛県松山市のタイムダラー・インターナショナルネットワーク・イン・ジャパン代表理事、ヘロン久保田雅子氏 |
その昔、大家族の中で自然に分担していた作業を、現在では村民が“拡大家族”としてお互いに助け合っていくという流れが作られ始めている。こうした温かい地域社会を作っていくためのツールとして、エコマネーシステムをぜひ全国レベルで実現していってほしい、とヘロン氏は語った。
エコマネーの本質は「お互いさま」の支えあい
こうした各地からの報告に、東京会場のパネリストが一言ずつ感想、意見を述べた。一致した見解としては、「さまざまな角度からの取り組みが見られ、大変興味深い。昔は、エコマネーシステムなどと言わずとも、「お互いさま」と地域で支え合っていたはず」と、エコマネーの本質が支えあいにあることを指摘。さらに、「愛媛県関前村のように、そういった本来の姿を取り戻すきっかけとして、エコマネーを広めていきたい」と、地方の現状に対して期待を見せた。また、「各地での実際の運用を見ると、少々の失敗は許し合える楽しい地域社会への期待が高まる。今後の展開に期待したい」といった、成長を見守りたいという意見も出た。
野中氏からは「全国的にエコマネーシステムを統一し、大きな組織にするよりも、その地域に合ったものを育てていき、小さなコミュニティーの充実を図っていってほしい」という意見が出された。
最後の質疑応答では、「一企業がどのようにエコマネーシステムと関わるべきか?」という問いに対し、エコマネーネットワーク代表の加藤敏春氏は、「企業のメセナ活動も織りまぜながら、貨幣経済でも有効なマイレージやポイントなどのシステムを流用した“エコポイントシステム”などを検討していただきたい」と解答。
質問に答えながら、エコマネーの展望について語る加藤敏春氏 |
また、「エコマネーの価格設定はどのように決定すべきなのか?」との質問には、「信頼、思いやりのやり取りになるため、きっちりとした価格は設定しない。自由度を高め、当事者同士での価値を重要視したい」と語った。
運用面では、エコマネーの悪用など問題が山積していることが予測されるものの、今後は商工会議所や青年会議所など全国レベルの団体と連携することで活動を広げたいとの期待を表明。都道府県などの官、地元企業、市民が一体になって、地域社会を発展させていくためのきっかけをつくっていきたい、と抱負を述べた。
締めくくりとして、NHK情報ネットワークの加藤和郎氏が、「ミヒャエル・エンデの小説『はてしない物語』には、時間泥棒の話があったが、時間の価値というものをエンデはいつも考えていたのだろう。“お金とは汚いものだと考えられていますが、変えることができます。人間が作ったものですから”という言葉を心に留め、温かいお金であるエコマネーを実現させよう」と呼びかけた。