マルチメディア時代の新しい価値創造をめざして設立されたアートスクール、インターメディウム研究所(IMI)が、同大学院の講座(IMI
GS)の1つである、Artist in Residence (AiR)のプロジェクト活動を紹介する公開レクチャー“IMI-AiR-99”を、大阪OBPのパナソニック デジタル
アート スクエアにて開催した。
AiRの主催する同イベントは4回目を数え、今年は批評家ハキム・ベイ氏が提唱する“*TAZ=Temporary Autonomous Zone”をテーマに、2回の公開レクチャーを企画。今回は19日に、オランダのメディア理論家、ヘアート・ロビンク氏をゲストに招いて行なわれた“急進未来予想図――ネットワーク社会の自律性”についてレポートする。
*注) TAZ(=Temporary
Autonomous Zone=一時的自律領域)
一時的ながら、その自由な空間が人々の交流、生活や感覚を活性化すという意味で、N.Y.の批評家ハキム・ベイ氏が提唱。祝祭やパーティー、ハレとケのハレにあたるようなもの
会場風景 |
IMIでは、社会理論と制作活動を結び付けた広義でのアーティストを“アクティビィスト”と称し、彼らをゲストに迎えてのレクチャーやシンポジウム、フィールドワークなどを行なっている。モデレーター役でIMI講師の上野俊哉氏によると、ロビンク氏は毎年IMIを訪れ、彼自身がヨーロッパを中心に実行しているさまざまな活動を紹介する共に、IMIとのコラボレーションなどもしているという。
ヘアート・ロビンク氏は、アムステルダム在住のメディア理論家であり、アクティビストでもある。フリーネットの“デジタルシティ”や、旧ユーゴスラビアの独立メディア支援組織“プレスナウ”の発起人の1人。'95年には“ネットタイム”という国際的なグループを立ち上げ、メーリングリストによるメディア批評や会議、出版などを行なった。現在の活動基盤は新旧メディア協会(アムステルダム)で、“ネクストファイブミニッツ”や“アルスエレクトロニカ”といった国際会議のオーガナイズもしている
アムステルダム在住のメディア理論家、ヘアート・ロビンク氏 |
東欧に集まるアクティビスト達の活動
まず、ロビンク氏は、チェコ、ポーランド、ドイツの国境付近で行なわれた“キャンプ”の活動をスライドを交えて紹介した。政変によって生まれた新しい国境には、周辺各国からの避難民が集まっており、彼らは国家や組織に対して何ら反抗手段を持たないまま生活している。そんな状況に対して、世界中からアクティビスト達が集まってキャンプを運営し、抗議活動や支援活動を行なった。
キャンプでの活動の様子 |
国境付近出行なわれたアクティビストらにキャンプの活動の中には200台のコンピューターをLANでつないでの情報発信などもあった。集められたマシンの中には、アクティビストやハッカー達がオフィスから持ち出してきたものもあるという |
活動には政治的なものだけでなく、マイクロソフトに対する抵抗活動もあった |
「コンピューターにも自然を楽しませよう」という彼ら流のジョークも実践 |
その内容は、コミュニティーFMの放送やインターネットを使っての発信、プレスルームを設けての情報発信など幅広いものである。また、アクティビスト達が行なうのは政治批判ばかりではない。“メディアをフリーなものに”といったメッセージも同時に発信されており、ハッカーやサイバーフェミニズムらも一緒にキャンプで活動をして過ごす。この活動は2000年にも行なわれるという。
メディアをタクティカル(戦略的)に使う
次に紹介されたのが、アムステルダムのフリーネット『デジタルシティ』の活動だ。これは街中に、インターネットやコミュニティーラジオを自由に使える環境を作っていこうという実験である。最近では組み合わせも進み、メールやチャットでリクエストを受付けたり、曲がそのままMP3データで送られてくることもあるという。アムステルダムのフリーネット『デジタルシティ』の活動では、ラジオも同時に使われている |
ロビンク氏は以前からコミュニティーFMやラジオに注目している。「ラジオには、安価で500ドルもあれば放送局ができ、しかも誰でも簡単に聞けるというメリットがある。多くの国ではこうした放送を違法としているが、それでも熱心に活動しているアクティビスト達がたくさんいる。最近では、インターネットと組み合わせられることも多い」 |
ロビンク氏は発起人の1人で、自由に使えるメディアを持つことが、社会活動を支援すると考えている。「アムステルダムでは月30ドルで回線が手に入るので、そこにめいめいがマシンを持ち寄るだけでインターネットカフェができる。規制やコストから解放されれば、人々はもっとメディアをタクティカル(戦略的)に使っていくようになるだろう」
さらにロビンク氏は、タクティカルなメディアの使い方の一事例として、英国グラスゴーの制作会社が旧ユーゴスラビアと共同で作ったビデオ『Victim
of Geographic』を紹介した。このビデオはチェチェン紛争などの犠牲者や、それらの地域におけるアクティビスト達の活動を、ビデオジャーナリストのような手法でまとめたものだ。この中では、フリーラジオを開局している盲目のDJや、国連事務所の横に紛争の被害者の写真や遺品を飾る活動、パフォーマンス、インターネットでの発信などが映し出されている。
ビデオ『Victim of Geographic』からの映像 |
「一般のメディアが、こうしたアンダーグラウンドなメディアを取材したという意味でも、とても興味深い作品である」とロビンク氏。
自由に使えるメディアをどう確保していくか
「ここで強調した1122いのは、メディアというものに固定された形はないということだ。その時の状況、その人に合わせた伝達手法が存在し、これからはインターネットやデジタル技術の進化によって、もっと新しい手法も生まれてくるだろう。だが、そこでは技術の新旧、ハイテクやアナログといったものは問題にではない。実際に現場で活動をしている人たちにとっては、コンピューターのアップグレードよりも、自分が使える道具であるかが重視されるのだ。だからこを、自由に使えるメディアをどう確保していくかが大きな問題となっていくだろう」紛争や国境と縁の薄い日本では、ロビンク氏をはじめとするアクティヴィスト達の活動は、どこか遠い存在のようにも思える。だが、その一方で、メディアが持つ力の可能性やあり方について、深く考えさせられるレクチャーとなった。
なお、ロビンク氏は今回の公開レクチャーと関連した、フリーマーケット型アートイベント“GEB=Golden Egg Bazaar/Gift Economy Bazaar”を23日(祝)に京都大学西部講堂前広場で午前10時より午後8時まで開催する。インターネットラジオとミニFM中継を行なうスペシャルブースでは、ロビンク氏と上野氏も出演する。