K6-2が各社のコンシューマー向けデスクトップPCに採用され、今年第3四半期の決算では黒字を計上するなど好調なAMD社。同社のK6-2プロセッサーの現状や、今後リリースされるK6-3(開発コード“Sharptooth”)、K7について吉沢俊介日本AMD(株)チャネル
マーケティング部長にお話を伺った。
吉沢俊介(よしざわしゅんすけ)日本AMD(株)チャネル マーケティング部長 |
●K6-2の現況
----K6-2が好調のようですが、現在のシェアはどのくらいですか?「米国での数字ですが、リテールデスクトップ分野では今年9月時点のデータで43.8パセーント、最新の10月のデータでは47パーセントトなっています。1000ドルPCというくくりでは9月で54.3パーセント、10月の時点で60パーセントという数字が出ています。これで、完全にインテル社に拮抗するところまできたと思います。日本でも価格が20万円以下でモニター付きの製品で、40パーセントくらいのシェアを獲得しているようです」(米国の数字はPC Data調べ)
----K6-2-400MHzを発表されましたが、これまでのK6-2との違いは?
「機能的には同じもので、高速化と少々の改良を加えたものです。'99年2、3月にごろにはK6-2-400MHzを搭載した製品が出てくるでしょう。K6-2では動作周波数が450MHzの製品までだします。450MHzの製品を'99年第1四半期までに出し、それ以降はSharptoothになります」
●コンシューマー向けの次のプロセッサー“Sharptooth”
----“Sharptooth”はどのような製品になるのでしょうか。「最初は動作周波数が450MHzの製品をリリースしますが、これは動作周波数が同じ450MHzのK6-2よりハイパフォーマンスのものになります。K6-2との違いはコアに改良を加えた点と、同じチップ上にキャッシュを搭載した点です。ソケットは“Super7”です。これはおそらくインテル社の“Katmai”に対抗する製品になるでしょう。“Katmai”がどういうものなのかまだはっきりしていないのでなんともいえませんが、Pentium IIのコアに“Katmai New Instruction Set”を加えたものならば“Sharptooth”で十分対抗できると考えています。またCeleronの後継と目されている“Dixon”にも“Sharptooth”で対抗していくことになるでしょう。インテルは来年中はPentium IIのコアを中心に製品を作ってくるでしょうから、当社もK6のコアで十分対抗できると考えており、来年中はアドバンテージが取れそうです。インテルの“Coppermine”が'99年第3四半期に出てくるので、これが出てきてはじめてインテル社は大きく伸びるでしょう」
----COMDEXで400MHzの“Sharptooth”のデモを行ないましたね。
「Pentium II-450MHzとくらべて性能的に5~8パーセント上回ったものになりました。“Sharptooth”は'99年中には500MHzの製品を出します」
----“Sharptooth”はK6-3という名称で販売されるのでしょうか?
「公式には“Sharptooth”がK6-3であるということを言ったことはないのですが、最初に“Sharptooth”を発表したときにまだコードネームが決まっていなくて、同じK6の技術を用いたものなので仮にK6-3と呼んでいたらそれが定着してしまったようです」
----“Katmai New Instruction Set”についてどのようにお考えですか。
「ソフトベンダーにとってはこのような新しい命令セットは、すぐに対応できるものではないでしょう。今後どのくらい広がるかわからない技術より、すでにある技術に対応することで自社のソフトウェアに付加価値を付けようとするのは、一種の保険のようなもので当然行なうことでしょう。“Katmai”が出てくるころには“3D Now!”が搭載されたパソコンは世界で1000万台くらいになると予想しています」
「“Katmai”は出てしばらくはトップレベルのPCに搭載されるでしょうから、“Katmai New Instruction Set”に対応したプロセッサーを搭載した製品はなかなか数も出ないでしょう。K6-2では最も動作速度の遅い333MHzの製品から最も速い“Sharptooth”まですべての製品が“3D Now!”に対応していますし、K6シリーズがトップシェアを持っている1000ドルパソコンの市場は最もボリュームのある市場です。またマイクロソフトのDirectX6.0が“3D Now!”に対応したこともあり、当分は“3D Now!”テクノロジーのほうが有利だと思います。“Katmai New Instruction Set”に対応した製品が登場してくるのは'99年後半以降になると考えています」
注)“3D Now!”テクノロジー
K6-2から採用された3Dグラフィックスの処理を高速化する命令セット(http://www.amd.com/japan/products/cpg/k623d/inside3d.html)
●企業へ向けて売り込みたいK7
----COMDEXでK7のデモをなさいましたね。
「これはベースクロックが200MHzで、これを2.5倍速で動作させたものです。K7は'99年第2四半期のリリースを予定してますが、その半年前にはこのように一応動くものが用意されているので時間をかけて調整を行なえます。K7はリリース当初は最低でも動作周波数が500MHz以上のものになります」
----台湾のメーカーがK7対応チップセットの開発を表明していますが、COMDEX/Fall'98で使用したのはどこが開発したものですか?
「COMDEX/Fall'98で使用したチップセットは当社の試作品ですが、当社自身ではチップセットを量産することは考えていません。他のメーカーと協調していきます。台湾のAcer
Laboratories社(ALi)と台湾のVIA Technologies社(VIA)が開発表明をしています。しかし、この2社からK7に対応した製品が出てくるのは'99年後半から2000年第1四半期ごろになりそうなので、K7の最初の物がリリースされる'99年前半では当社のチップセットを搭載した製品になると思います」
----K7がターゲットとする市場はどの市場ですか。
「K7は企業向けに販売していきたいです。現在のPentium II-450MHzくらいの位置付けの製品になるでしょう。当社にとって今年はK6シリーズでコンシューマー向けのデスクトップパソコンの市場を固めた年でした。その次の段階として企業向けの市場を狙っているわけですが、企業向けの市場ではサーバーまでをカバーできる製品が必要になります。ここへK7を投入するわけです。K7は発売当初はハイエンドのコンシューマー向けパソコンに搭載されるでしょう。企業は新しいものを検証するのに時間をかけるので、企業向けの製品にK7が搭載されるのは'99年後半になるでしょう。K7はマルチプロセッサーに対応しており、ハイエンドのワークステーションなどにも使用できます。'99年第4四半期にはワークステーションやサーバーに載せていきたいと考えています」
----K7では“SlotA”という独自の形式を採用していますが、OSの互換性などの心配はないのでしょうか。
「SlotAは物理的な形状はPnetium IIと同じもの、バスプロトコルはコンパックコンピュータ(株)のAlphaプロセッサーに使用されている“EV6”コアと同じものです。Pentium
IIと同じ形状にしたのはスロットの実装のコストやマザーボードの形状など、すでにあるものが使用でき、コストが低減できるからです。OSの互換性ということではPC/AT互換機上で動く既存のOSはすべて動くように設計しています」
----SlotAという新たなアーキテクチャー送りだすというのは大きな賭けですね。
「たしかにK7という独自のアーキテクチャーを送り出すことは大きな賭けです。しかしかなり勝算の高い賭けであるとおもいます。K6シリーズではかなりの実績をあげ、チップセットメーカー、マザーボードメーカーなどがK6を支援してくれました。この延長線上にあるK7ならばALiやVIAのように賛同してくれるものと信じています。K7は'96年のネクスジェン社買収以来の大きな賭けですが、ネクスジェンの持っていたシュミレーション技術がK6以降の開発に役立っており、これも勝算のひとつです」
----AMD以外にも米Rise Technology社や米Cyrix社、米IDT社など低価格のプロセッサーを製造する企業がありますが、下からの脅威を感じているのでは?
「脅威は感じていません。これらのメーカーのプロセッサーは、主流になれるかどうか疑問です。組み込み向けなどの市場では今後需要が伸びるでしょう。しかし、自社でチップを製造しないファブレスメーカーであるこれらの企業は、最先端のメーカーにはなれないでしょう」