改正された“風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律"(改正風営法)が、'99年4月に施行される。(株)メディアワークスは、これを受けて、書籍“警察がインターネットを制圧する日”を発刊。その記念講演として、“「表現の自由」は死んだのか!?~改正「風営法」とインターネットの将来を考えるシンポジウム~”を開催した。
寺澤有氏 |
改正法では、インターネット上で有料のアダルト画像を提供している業者に対し、都道府県の公安委員会へ届け出ることと、18歳未満の者を客にしないことを義務づけた。また、インターネット・プロバイダーに対しても、無届け業者が掲載するわいせつな画像を削除する努力を行なうように定めた。
同法が施行されることでプロバイダーにどのような影響があるのか、インターネットでの表現はどのように規制されていくのか、本(共著)の執筆者の中で、寺澤有氏、山下幸夫氏、和田泰治氏、宮崎学氏の4人が、プロバイダーへの影響や取締まりへの対策について、それぞれの意見を述べた。
「努力」する義務は、実質的には「強制」
山下幸夫氏 |
インターネットのわいせつ取締まり裁判などに深く関わる弁護士の山下氏は、“画像を削除する努力”について、“任意同行”が、任意に行なわれているものではないという実例をあげ、実質的にはプロバイダーは警察に従わざるを得ない可能性が大きいと語った。
「わいせつ画像を削除せよという警察からの指導を、プロバイダーが拒否したらどうなるのか」と、司会役の寺澤氏が質問すると、「努力義務なので、拒否することは可能。プロバイダーが結束してみんなで拒否すれば、警察も強要できない。しかし、従うプロバイダーが多ければ、その分、従わないプロバイダーに対して、警察からの圧力は大きくなる」。
日本に比べ、表現の自由への執着が強い米国
和田泰治氏 |
ジャーナリストの和田氏は、アメリカを取材し、米国での表現規制について報告した。米国では、改正風営法と同趣旨の通信品位法(CDA:Communications
Decency Act)が'96年に成立したが、表現の自由を阻害するとして市民から反発があり、裁判で'97年6月に違憲判決が下っている。またパソコン通信大手のAOLが、ネット上の書き込みを、名誉毀損として第三者から訴えられ、裁判になったケースをいくつか紹介。いずれのケースも、当事者間の問題で、プロバイダーには責任がないという判決が下ったという。
会場にはインターネット接続業者が3割ほど参加しており、メッセージとして、「プロバイダーの皆様には、アメリカの事例を研究するよう勧める。表現の自由への不当な侵害を拒絶することが、インターネットの繁栄につながると思う」と結んだ。
「法と戦うプロバイダー」を作れ
宮崎学氏 |
作家の宮崎氏は、「警察は利権のない法改正は行なわない。以前の法改正で、パチンコ産業の利権をねらったように、今回は、急成長しているインターネットを規制することで利権を狙っている」と語り、改正風営法を乗り切る方法として、「戦うプロバイダ-」を提案した。
多数のプロバイダーが警察にノーと言えば、画像削除の「努力義務」は単なる努力する義務にすぎなくなる。しかし、施行前の現在ですら、大手プロバイダーが自主的に、性的な話題を扱ったサイトを削除するぐらいなので、そこまで抵抗できるプロバイダーはなかなか存在しない。そこで権利を主張するプロバイダーを意図的に設立して言論の自由を守るという戦法が効く。「米国では、プロバイダーはコンテンツに対する責任を問われない。権力者の好きな言葉をあえて借りるなら、それがグローバルスタンダードというものだ」。
前述のとおり、参加者の3割はプロバイダー業者で、あとは、アダルト向け画像を扱いそうな出版関係者などだった。今のところ、プロバイダー側よりも、わいせつなコンテンツを掲載する側の方が、改正風営法に関心がありそうだ。
プロバイダー側では、同性愛のサイトなど一概にわいせつとは言えないサイトまで「自主的」に削除するケースが、現在も今後も大勢を占める可能性が高い。拡大解釈によって徐々に削除するべき対象が広がっていくと、本来、自由な発信が可能なはずのインターネット文化の成長にストップをかけ、プロバイダー自らの首も絞めることになりかねない。(若菜麻里)
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