「アメリカではNPO(非営利団体)の活動が盛んで、雇用や地域振興につながるものも多いという。実情を知りたい」――そんな目的から1月下旬、NPO推進北海道会議が催した米国研修旅行に参加。行き先は米国カリフォルニア州サンフランシスコ。コーディネーターは現地在住のジャーナリストで、アメリカのNPOに詳しい岡部一明氏。
人口70万人余りの同市、そしてその周辺では約5000団体ものNPOが活動しており、ベンチャーなどNPOが担う小さなビジネスを支援する財団や、NPOのために効率的な寄付集めを行なう企業もあるという。研修に同行して見た当地の様子を4回に分けて報告する。1回目は、財団と雇用創出についてレポートする。
ロバート財団の事業開発基金は総額600万ドル
NPOの運営資金は一般的に、独自の事業収入や寄付、政府からの助成などで賄われるが、民間財団による支援も大きな位置を占めている。サンフランシスコにいくつかある財団の1つ“ロバート財団”は、'86年に設立された。ホームレスの人たちの経済自立を支援する“ホームレス経済開発基金”を通じて、地域にある40団体のNPOに総額600万ドルの助成金を出してきた。
'97年には“ロバート事業開発基金”を立ち上げ、地域の10団体のNPOに助成を行ない、低所得者やホームレス、精神障害者らの社会復帰を支援。全体で約600人の雇用を生み出している。
事務局のシンシア・ゲア氏は「個人が仕事を興すのは本来、個人の責任です。でもホームレスや麻薬依存症、精神障害を持つ人たちは、これまでの負の遺産が大きくて、職に就くのさえ難しい。私たちは、彼らが社会の主流に戻るための手助けをしているんです」と笑顔で語る。
“ロバート事業開発基金”の取り組みを説明するシンシア・ゲア氏 |
家出経験者のための自転車店
事業は多様だ。例えば、家出した青少年を対象にした自転車の修理、販売事業。あるいは、移民や低所得者を対象にした家具製造業。アイスクリームチェーンと連携しているNPOもある。「職場の環境も家庭的で、生活全般を支援する仕組みになっています」とゲア氏は語る。
“ロバート”が支援するNPOの1つ“ジュマ・ベンチャーズ”のアイスクリーム店で働く少年(右) |
10のNPOの中には、黒字を出している事業もあるが、当然、うまくいかないものもある。個々のビジネスプランを作り、毎月の目標を立て達成度を評価するのは事務局の仕事だ。このほか資本助成をはじめ運営アドバイス、市場との仲立ちをするという。
サンフランシスコ地域の小売業だと時給5ドル~9ドル、製造業だと同じく11ドル~15ドルが一般的。ロバート事業開発基金が助成するNPO事業は、支援という意味を込め、これらと同水準か少し高い時給を払っているそうだ。
'60年代に社会変革運動に携わり、非営利団体とビジネスの関係を学んできたゲア氏は、「この仕事は社会的に意味のある活動。ビジネスのアドバイスができるので役立っている実感がある」と言葉に力を込めた。
NPOのビジネスが市場で競争力を持つ
同基金から助成を受けているNPOの1つに“ルビコン・プログラムズ”がある。サンフランシスコ湾の対岸、リッチモンドに事務所を構えている。“ルビコン・プログラムズ” |
このリッチモンドは石油精製工場などがあり、比較的貧しい人たちの集まる地域だという。“ルビコン”はここで精神障害者や低所得者向けにカウンセリングを行ない、ケーキ製造や土木造園業で、社会的な自立支援をサポートしている。従業員向けに低家賃住宅も用意している。280人のうち約100人が、こうして雇われた人たちだ。財源は事業収入が5割で、政府の契約事業が4割、民間の財団からの支援も6パーセントある。近くには別のNPOが入るための事務所も設けている。
他のNPOが入る施設を紹介する“ルビコン”のリック・オーブリー事務局長 |
ケーキ工場に案内された。レモンケーキやチョコレートケーキ、さまざまな種類が箱詰めされ、冷凍庫に保管されていた。日産700~800個、多いときは1500個作るそうだ。リック・オーブリー事務局長は「現在の年商150万ドルを10倍以上にしていくのが夢だ」と笑う。
ケーキの購買者に「なぜルビコンの商品を買うのか」というアンケートを取ったところ、味、見栄えの良さが1、2位、配送時間の正確さが3位。「社会的に意義のあることをしているから」という理由は4番目だったそうだ。NPOのビジネスが市場で競争力を持ち得ている例といえる。最初の段階で、きめ細かなカウンセリングを行ない、個々の状況に合わせた就業支援をしているのが成功の一因だろう。
ケーキ工場の内部 |