10月27日に待望の0.18μmプロセスで製造されたPentium III(開発コード名:Coppermine)が発表された。このプロセッサは、インテルの昨年末までのロードマップでは1999年8月中に発表予定だったものだが、予定を2ヵ月程度遅らせていたものだ。この遅れの原因は、「予定のクロック周波数の製品が十分に製造できないため」というもので、マスクを変更しての仕切り直しとなっていた。
Coppermineの追加により、デスクトップパソコン向けPentium IIIは、表「Pentium
IIIのラインアップ」のように複雑なものとなった。特に600MHzの動作クロックのものは、0.25μmプロセスで製造された100MHz
FSB(600MHz)と133MHz FSB(600B MHz)、0.18μmプロセスで製造された100MHz FSB(600E
MHz)、133MHz FSB(600EB MHz)と、4種類もがラインアップされることとなった。
Pentium IIIのラインアップ
開発コード名 |
動作クロック |
FSB |
日本国内発表日 |
1000個ロットの発表時価格 |
パッケージ |
Katmai |
450MHz |
100MHz |
3月2日 |
5万7630円 |
SECC2 |
500MHz |
100MHz |
3月2日 |
8万870円 |
SECC2 |
|
550MHz |
100MHz |
5月17日 |
9万820円 |
SECC2 |
|
600MHz |
100MHz |
8月2日 |
8万2930円 |
SECC2 |
|
533B MHz |
133MHz |
9月28日 |
4万1690円 |
SECC2 |
|
600B MHz |
133MHz |
9月28日 |
6万9480円 |
SECC2 |
|
Coppermine |
500E MHz |
100MHz |
10月26日 |
2万5890円 |
FC PGA |
533EB MHz |
133MHz |
10月26日 |
3万3040円 |
SECC2 |
|
550E MHz |
100MHz |
10月26日 |
3万9860円 |
FC PGA |
|
600E MHz |
100MHz |
10月26日 |
4万9290円 |
SECC2 |
|
600EB MHz |
133MHz |
10月26日 |
4万9290円 |
SECC2 |
|
650MHz |
100MHz |
10月26日 |
6万3150円 |
SECC2 |
|
667MHz |
133MHz |
10月26日 |
6万5540円 |
SECC2 |
|
700MHz |
100MHz |
10月26日 |
8万1680円 |
SECC2 |
|
733MHz |
133MHz |
10月26日 |
8万4060円 |
SECC2 |
気になるのは、これらの性能がどの程度違うのかだ。同じ600MHzという動作クロックながら、FSBの速度と2次キャッシュの実装方法に違いがある。600MHzと600B MHzは、Pentium IIと同様に、512KBの2次キャッシュを外付けで実装している。そのため、2次キャッシュへのアクセス速度は、CPUコアの2分の1のクロックとなる。これに対し600E MHzと600EB MHzは、256KBの2次キャッシュをCPUコアチップ内に同梱して実装している。2次キャッシュへのアクセス速度は、CPUコアの動作速度と同じになり、2次キャッシュへのアクセス方法も変更になっている。既存のPentium III(開発コード名:Katmai)では、CPUコアと2次キャッシュとの間のデータバスが64bitであったが、これがCoppermineでは256bitに変更されている。また、2次キャッシュの構造も2ウエイセットアソシエイティブから8ウエイセットアソシエイティブに変更し、キャッシュの性能向上を実現しているという。
こうした2次キャッシュの違いが実際にどの程度の性能の違いを生むのかを、今回はベンチマークテストにより明らかにすることにした。テストには、チップセットにi820を搭載したマザーボード『Intel VC820』を採用した(表「テストに用いたPCの仕様」)。
テストに用いたPCの仕様
CPU |
600B MHz/600EB MHz |
メモリ |
64MB(PC800) |
チップセット |
i820 |
マザーボード |
VC820 |
グラフィックスカード |
Diamond Viper V770(RIVA TNT2 Ultra) |
グラフィックスメモリ |
32MB |
ハードディスク |
WD Caviar 31300(13GB) |
OS |
Windows 98 |
テスト解像度 |
1024×768ドット1677万色表示@85Hz |
概報のとおり、i820は「RIMM(Direct RDRAMのメモリモジュール)を3枚差した状態でエラーが発生する可能性がある」という理由から、出荷が無期延期になってしまっている。そのため、テストに用いるのは正当とはいえないのだが、現在Pentium III用として133MHzのFSBをサポートするチップセットは、i810EとVIAのApollo Pro 133Aと少ない。そのうえ、i810はグラフィックス機能がチップセットに同梱されているうえ、そのグラフィックス機能は2世代ほど前のものなので、ハイエンドパソコン向けに想定されているCoppermineの評価にはあまり向いていない。また、Apollo Pro 133Aは、残念ながら評価時に入手が間に合わなかった。
最新の情報によれば、i820は年内に出荷が開始できるメドがついたという。年明けには各パソコンメーカーからi820搭載のパソコンが続々と発売になるだろう。そこで、そのパソコンの性能を先取りする意味も込めて、i820でのテストを行なうこととした。なお、テストに用いたi820は、9月末に発表予定だったものであり、実際に今後出荷となるものとは仕様が若干異なる可能性があることをご了承いただきたい。また、VC820は、BIOSにより自動的にCPUの動作クロックをチェックして設定してしまうため、FSBの変更が行なえない。そこで、テストは600E MHzと600EB MHzで実施した(PC600対応RIMMを差すことで100MHzのFSBに変更可能だが、i820の延期によりメモリが入手できなかった)。
テストの結果は、表「Pentium IIIの性能比較」を参照していただきたい。この結果を見る限り、同じ動作クロックながら、600EB MHzの方が、CPUmark 99では約20パーセント、FPU WinMarkでは約6パーセントと、600E MHzよりも高速化されていることが分かる。これは、前述の2次キャッシュのアクセス速度の向上や構造の変更が有効に働いたためと思われる。特にこの2つのテストは、CPU自体の性能を計測するためのもので、2次キャッシュなどの構成の違いが顕著に現れる傾向にある。また、プログラムサイズがそれほど大きくないため、2次キャッシュのサイズの影響が少ないと思われる。これも、600EB MHzに対し、有利に働いていた結果と想定できる。
Pentium IIIの性能比較
600B MHz(Katmai) |
600EB MHz(Coppermine) |
|
CPUmark 99 |
44.1 |
55.9 |
FPU WinMark |
3030 |
3210 |
3D WinBench |
1030 |
1040 |
3D WinBenchは1パーセント程度の速度差しかなく、ほぼ同等となっている。これは、このテストが主にグラフィックス性能を計測するもので、CPU性能への依存率が低く、2次キャッシュのサイズや構造の違いが現われにくいことが原因として挙げられる。
以上のベンチマークテストの結果からCoppermineは、外部バスアクセスなどが多い場合にはあまり性能向上は望めないが、状況によっては最大20パーセントの性能向上が得られることもあるといえる。CPUの価格がほとんど変わらないのであれば、600MHzや600B MHzよりも600E MHzや600EB MHzを選択するべきだろう。逆に600E MHzや600EB MHzの価格が600MHzや600B MHzに比べ非常に高いのならば、わざわざ600E MHzや600EB MHzを選択する理由はない。